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人手不足を売場変革の契機にする=データで見る流通

文=鈴木 雄高

流通経済研究所 主任研究員

 

 店舗の運営は、多くの人手に支えられており、とくにパートタイム労働者(以下、パート)に負う部分が大きい。図表は、卸売業・小売業におけるパートについて、「不足」と回答した事業所の割合、「過剰」と回答した事業所の割合、および、パート労働力過不足判断D.I.の推移を示している(厚生労働省「労働経済動向調査」)。労働力過不足判断D.I.は、不足の割合から過剰の割合を差し引いた値であり、推移を見ることで変化の方向を把握することができる。図表を見ると、パート労働力過不足判断D.I.は、上昇傾向にあることがわかる。

 店舗を運営するうえで、今後も人手不足が悩みの種となるであろう。しかし、これを売場変革の契機ととらえ、店舗オペレーションやインストア・マーチャンダイジングのレベルアップを図ることもできよう。

 店舗オペレーションの中で、とくに多くの人手を要するのがレジ業務である。現在でもセルフレジを導入することで、人手をレジ業務から売場づくりや接客に割り当てようとする動きが見られる。今後、商品へのRFID(ICタグ)取り付けが一般化すれば、会計時間が大幅に短縮されるため、レジ人員を削減できるだろう。

 また、食品スーパー(SM)では、総菜などのインストア加工をプロセスセンター加工へと切り替える動きも進んでいる。

 このように、新しい技術の導入により店内業務の削減が進めば、顧客に対するサービス水準を向上させるべき領域に人手をかけることが可能となる。

 人手が不足する一方、労働時間や年齢などの雇用条件に適合しないため、働きたいのに働けないという人も存在する。こうした潜在労働力を有効に活用する企業がある。ドン・キホーテ(東京都/大原孝治社長)は60歳以上のパートを早朝の開店準備に充てており、イオン(千葉県/岡田元也社長)は採用基準を見直し、1日2時間から働けるようにした。

 高齢者や子育て世代などの、働くことで社会とのつながりを感じたい、空き時間を有効活用したい、という欲求に応えている。また、西友(東京都/上垣内猛CEO)やイトーヨーカ堂(東京都/戸井和久社長)などは非正規社員を正社員に転換することで、人材確保に動いている。正社員化によって、企業に対する帰属意識が強まり、責任感やモチベーションが高まる、といった効果も期待できそうだ。

 人手不足に直面している小売業各社は店舗戦略において、人材採用を伴う新規出店よりも、既存店改装に力を入れつつある。たとえば、SMでは、総菜や生鮮食品の売場面積を拡大し、対面販売コーナーを新設する一方、グロサリーの売場面積を縮小するのがトレンドとなっている。

 グロサリーのメーカーは、自社商品が陳列されている売場が、人手をかけて管理してもらえるかどうかを見極め、それが期待できない場合は、小売側への提案が必要となりそうだ。たとえば、安定的に売上が期待できるロングセラーブランドを定番売場で着実に販売するなど、インストア・マーチャンダイジングの基本に忠実な売場づくりが重要になる。あるいは、定番売場以外において、他メーカーより積極的にインストア・プロモーションを仕掛けるのもひとつの方法である。

 店舗における人手不足を前向きにとらえ、売場のレベルアップをめざして変革に打って出る。そんな動きが強まることに期待したい。

(「ダイヤモンド・チェーンストア」2015年7/15号)