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ゼンショーがロッテリアを買収へ! 買収側と売却側、それぞれの思惑は

ゼンショーホールディングス(東京都/小川賢太郎会長兼社長)は2月16日、グループ会社を通じてロッテホールディングス(東京都/玉塚元一社長)よりロッテリア(東京都/庄野和彦社長)の全株式を取得し、グループの傘下に置くことを公表した。両社は株式譲渡契約を締結、譲渡日は4月1日となる。ロッテリアのブランドは、当面承継されるという。なお、このM&A(合併・買収)は買収額が開示されていないが、適時開示の原則から考えると、買収額はそれほど多額ではないと推測される。

ロッテリアを手放すロッテホールディングスの思惑は?

 ロッテホールディングスの創業は1948年、重光武夫氏が立ち上げた。創業時は進駐軍が愛用するチューインガムやチョコレートが人気を呼び、事業が軌道に乗っていく。その後は日韓を基盤として海外に進出。食品・飲料事業からホテル観光・建設・免税ショップ・ケミカル・量販店など幅広くビジネスを手がける。

 ロッテホールディングスが傘下に置く韓国ロッテグループは、従業員10万人(関連会社まで含めると18万人)の巨大企業で、サムスン、現代自動車、SK、LGとともに五大財閥グループの一角をなす。

 6兆円とされる世界売上のうち、95%が韓国ロッテによるものとされる。ただ、その韓国ロッテは、経営陣の内紛もあって停滞にあえいでおり、ヘルスケアやバイオケミカルといった分野で挽回をねらっている。

 一方でロッテホールディングスの従業員は6000名程度。事業会社のロッテ(東京都/牛膓栄一社長)の売上高は約2400憶円(21年度実績)である。

 ロッテホールディングスの経営を指揮するのは、ローソン(東京都/竹増貞信社長)やファーストリテイリング(山口県/柳井正会長兼社長)のトップを務めた玉塚元一氏だ。玉塚氏は企業再生を手がけるリヴァンプの代表を務めていた頃に、ロッテリアの再生に取り組んだのも有名な話だ。玉塚氏は2006~2010年の4年間、ロッテリアのCEOを務め、経営危機に瀕していた同社のテコ入れに奔走。「絶品チーズバーガー」をヒットなどによって復活にメドをつけた。

 そんな想い入れのあるロッテリアを自らの手で手放す決断をしたのはなんとも皮肉なめぐりあわせだが、後述するように、国内ファストフード業界の構造を考えれば時間の問題であったとも言えるかもしれない。

ゼンショーがロッテリアを買収するワケ

 一方のゼンショーホールディングスの設立は1982年。社名は「全部勝つ(全勝)」に由来する。

 「ゼンショー」という社名でピンとこなくても、牛丼の「すき家」といえば誰でも知っている。牛丼だけではない。「なか卯」「ココス」「ビッグボーイ」「ジョリーパスタ」「はま寿司」「華屋与兵衛」と同社は多くの有力チェーンの運営を手がけており、最近は「ヤマグチスーパー」「フジマート」といったスーパーマーケットや有料老人ホームをはじめ介護ビジネスも展開。今期(2023年3月期)の売上高は7000億円を超える見通しだ。

 外食業態の横断的統合は、とくに食材調達面でのシナジー効果が大きい。調達ボリュームの増加とともにサプライヤーに対する発言権も増し、コスト面はもちろん、需給がひっ迫したときの優先仕入れにも有利に働く。たとえば、ハンバーガーの主役であるハンバーグについては、「ビッグボーイ」が主力商品とする以外にも、ファミレスチェーンの「ココス」でも取り扱っているため、調達における相乗効果が大きいとみられる。

 加えてゼンショーホールディングスは店舗運営のノウハウに長けているとされており、傘下に入ることで店舗オペレーションの効率化が期待できる。

2強とはコロナで明暗のロッテリア
買収が外食業界に与えるインパクトは?

 今回の買収対象であるロッテリアの創業は1972年。東京・日本橋の1号店よりスタートした。2009年には500店舗以上あった店数も現在は358店まで減り、日本マクドナルドホールディングス(2965店舗、2023年1月末時点)はもちろん、2位のモスフードサービス(1272店舗、同)にも大きく水をあけられている。

 業績面でも、19年3月期は当期純利益1億9100万円だったが、20年3月期には100万円に落ち込み、21年3月期には4億5000万円の当期純損失に転落。

 このロッテリアの状況は、日本マクドナルドホールディングスがコロナ禍でもデリバリー需要で好調、テイクアウト比率の高いモスフードサービスはむしろコロナ禍で大きく業績を伸ばしたのとは対照的だ。また、ロッテリアは利益剰余金のマイナス幅が毎期20億円前後で常態化しており、業績不振が続いていた。

 3社ともリアル店舗を起点にしながら、マクドナルド、モスバーガーと、ロッテリアでの売上を生み出す構造の違いなどが、業績ひいては事業成長の先行きに影響した格好だ。

 前述のように調達コストの低減や店舗オペレーションの効率化などは期待できるものの、ゼンショーの傘下に移ったからといって、現在の状況が大きくひっくり返るわけではない。

 それよりも筆者が注目したいのは、ゼンショーホールディングスが国内外食市場の覇権を握るのか、という点だ。ゼンショーホールディングスの連結売上高は、すでに日本マクドナルドホールディングスを大きく上回っている。

 「ゼンショーがここまでのし上がれたのは、志の大きさが違うから」

 ゼンショーを1代で築き上げた小川賢太郎氏は、かつてそのような発言をしている。異色の経営者としても知られる小川氏は。歯に衣着せぬ発言で物議も醸してきた。小川氏、ゼンショーホールディングスはどこまで突き進んでいくのか。ロッテリアの買収もゼンショーにとっては壮大な目標に向けた一里塚にすぎないのかもしれない。