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同じ低価格なのに… GUが、しまむらやワークマンと「競合」しない決定的な理由

ファーストリテイリングの中核事業である「ユニクロ」が中間価格帯となったことを解説したが、今回は低価格ブランドである「ジーユー」(社名は株式会社ジーユー、ブランド名は「GU」)のいまとこれからについて分析する。日本でエコノミー市場が大きくなるなか、さまざまな低価格アパレルブランドがあるなかで、ジーユーはどのような優位性を持ち、今後どうなって行くのか、そしてグローバルにおいてどんな展開が行われるのかについて解説したい。ジーユーの沿革は決して順風満帆ではなく、さまざまな遍歴を経て今に至っている。なお、ジーユーは2013年に「世界化を目指す」ことを誓い佐藤可士和氏によりg.u.からGUへロゴ変更を行っているが、本稿では今と将来、過去を行き来するため社名も含め「ジーユー」という表記で統一した。本分析については私個人のものであり、一つの見方として捉えていただきたい。

「靴戦争」からファッションへ

 ジーユーは、会社の沿革で見るか経営者の略歴で見るかで捉え方が変わる。

 ジーユーの代表取締役社長は伊藤忠商事出身の 柚木治氏だ。2002年、ファーストリテイリング新規事業として反対を押し切り野菜のSPA化を目指すエフアール・フーズを立ち上げるも、26億円の赤字で撤退。辞表を提出するが、柳井正氏に「倍返し」の約束をとりつけ同社に留まったのは有名な話だ。柚木氏は、ことあるごとに柳井氏から、有能な人材であると評価されてきた。現在になってはその赤字の「百倍返し」はしているため、十分にその評価は正しかったと言えるだろう。

 一方、ジーユーを企業としての沿革で捉えるとその源流は靴事業に行きつく。株式会社ジーユーの前身企業は、株式会社GOVリテイリングで、靴事業がうまく行かないことから統合や撤退を繰り返し今のジーユーとなったのである。ここで少し靴ビジネスについて解説したい。今でこそ当たり前となったコンフォートシューズは、日本で最初にこのコンセプトをつくり世にだしたのはマルイと私のコンサル・チームであった。

 余談ながら、当時、1990年代の半ばからマルイ肝いりのプロジェクトとしてスタートした「世界最高のシューズ」を作るべく、マルイと私はイタリア・マルケ、日本の浅草・長田町、ベトナムのダナン、インドネシアのスラバヤ、そして、中国の北京から南の広州など、世界中の靴の産地を回り、「世界でもっとも良いと言われる靴はなぜ良いのか」を科学的に調べ、それら産地の違いと競争優位の源泉を徹底的に調べた。当時、「ブランドなどイメージに過ぎない」という考えが主流だったため、ものづくりとマーケティングは完全分離されていた。

 しかし、私は自身の回転寿司「スシロー」(社名はあきんどスシロー)支援の経験から、「ブランドの裏にはタンジブル(有形)な価値が存在するという自身の信念を証明するため、ゴミでもブランドネームをつければ売れる」という論調に一石を投じた「ブランドで競争する技術」を上梓した。当時、海外工場はその内部を競合にたやすく見せており、それはファーストリテイリングの生産工場も同様であった。したがって、その靴生産における完成度の低さや中途半端なものづくりに勝利を確信すると同時に、破竹の勢いで成長していた「ファーストリテイリンググループの(靴の)SPAもこの程度か」と思ったものだった。私のアイデアで世に出た「らくちんキレイパンプス」は、日本経営研究所のイノベーションの代表事例として今でも同研究所のHPに掲載されている。

 さて、そのGOVリテイリングは柚木氏の活躍もあり、大きく変容することになる。

990円デニム戦争でファッション専業SPA

 そんなとき、野菜のSPA化で失敗した柚木氏がGOVリテイリングに乗り込み、「ユニクロベーシック衣料の半額」というコンセプトで黒字化を果たす。そのキラーアイテムが990円ジーンズだった(注:当時のジーユー社長は中嶋修一氏<現ファーストリテイリンググループ上席執行役員>で、柚木氏は副社長)。

 私の理論では「価格は戦略変数ではなく価値の大きさを表す定量指標に過ぎない」というものだったが、さすがに1000円を切る商品価格はマーケットに衝撃を与えた。この990円ジーンズは当時、三菱商事を筆頭に商社の管理化におかれていたのが実体である。私自身が同社の相談にのっていたからよく分かっている。ちなみに、SPAと直貿の違いを理解していない人が多いが、SPAというのはPrivate Brand Apparel、つまり、商品レーベルを自社化する(商品責任を自社がとる)という意味で、バリューチェーンのビジネスモデルによる分類ではない。

 当時の商社の悩みはこのようなものだった。「河合さん、もし990円のジーンズを日本人の50人に1人が買い(購買人口が1億人として)、20万本売れたとします。それでも、売上は2億円にも届かない。商社のブレークイーブンは60億円だから、我々は全く儲からないんですよ。また、売上の10%をマージンで抜いたとしても(ファーストリテイリングは売上マージン5%以下で商社を使っていた)たったの2000万円で、1人分の人件費にも満たないんです」

  数字とは恐ろしい。990円ジーンズ合計20万本といわれれば「今世紀最大のヒット商品」だと考えてしまうし、メディアも今読めばわかるが当時は「儲かってしかたない。これで黒字化した」と書かれていたが、そんな一発勝負で勝敗が決まるほどファッションビジネスは簡単ではない。商社は、デニムビジネスや低価格ビジネスから撤退を検討していたのである。これが事実だ。

  その後、ジーユーはどんどん世界化を目指すユニクロを横目で見ながら、国内に止まり継続的な成長を実現。本稿執筆時点で最新期(※2日後に最新決算が発表となる)の20228月期は減収減益で売上2460億円、営業利益166億円(営業利益率6.7%)となった。ちなみに、同社のコロナショック発生直後の20208月期の業績は、売上高2460億円で営業利益218億円(8.8%)だった。

 かつてジーユーは、ユニクロのようなベーシック商品を安価に販売するサプライチェーンに、ファッションのボラティリティ(不確実性)を載せるビークル(乗り物)たりえないジレンマに苦慮していたように思う。そして、それらを克服し、縮小する日本市場から柳井氏の持論である「世界で勝てない企業は日本でも勝てない」の通り、グローバルファッションカンパニーを目指し世界化へと踏み出した。

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ジーユーが世界で勝てる理由、他の日本の低価格ブランドには難しい理由

 すでに、海外での売上・利益が国内を抜いているユニクロと比較し、ジーユーは世界でユニクロのような存在感をだせるだろうか?

 その答えを考察する前に、ジーユーの強みや弱みを分析してみよう。ジーユーの強みは、「金に糸目をつけない超有能人材」の集団であるということだ。超高給で処遇されるコンサル出身の人員がうようよいることがその証拠だ。同社の人と話をするとその論理性や先見眼に舌を巻くことが度々だ。彼らの最大の強みは現場人材であり、同社に追いつくアパレル企業は国内では見当たらない。

  ユニクロはグローバルでは中価格帯〜高価格帯に位置している。だから多くの人が「ユニクロは安くて良い」と言っている(言っていた)のは、他のアパレル企業のコスパが悪いから、そう感じるだけなのである。「プライスアンブレラ」というのだが、相対的に競争相手のプライスが高額すぎ、また市場が閉じられている場合、世界基準のバリューチェーンから生まれるユニクロの価格は低価格と錯覚するのだ。プライスは相対的なものなのである

  日本市場においてジーユーは、「しまむら」「ワークマン」「ハニーズ」などと比較されるのだが、実は「顧客」が違う。しまむら、ワークマンは日本に存在する圧倒的多数の国民、それもファッションなどにそれほど興味のない人達の普段着、いわば食品スーパーのような存在だ。一方ジーユーは、ユニクロの世界化・サザンオールスターズや綾瀬はるかを使ったCMの連打、海外での存在感などによる「ファッショニスタが着る低価格版の服」なのであり、この微妙な違いがジーユーとその他を分け隔てているのである。

 日本に存在するファッションに興味の無い消費者といえば、ファッション的でないがゆえにメディアであまりハイライトされないのだが、ビジネス的観点からいえば、数でいえば圧倒的に多い。「この何気ない消費に寄り添い定番化する」ことで各社は巨大な売上をとっているのである。だから、巨大アパレルは例外なく「ダサい」服が多く、いわゆる「おしゃれ」なファッションほど、都心部などに群がり血みどろの戦い、いわゆるレッドオーシャンで潰し合っているのだ。また、ファッションがもつボラティリティ(不確実性)の波に翻弄され、都内の激戦区から追い出されるアパレルもあるのだが、実はチャンスなのである。こうしたパラドックスに気づかないのは、日本人がいつしか徹底して批判思考やディベートをしなくなったからだ。一方ジーユーは都内でファッション感度が高い女子達の普段着になっている。

  さらに、海外での戦いといえば、これもジーユーの圧勝となるだろう。理由はきわめて単純で、海外での戦いは、これまでファーストリテイリングが「ユニクロ」で幾度となく痛い目に遭い、「現在の地位」を築いたそのノウハウが蓄積されているからだ。

 一方、ファッションに興味がさほどない人が訪れるしまむら、ワークマン、ハニーズなどが海外で訴求できるポイントはない。したがって、これらの企業は日本の特定のセグメントでビジネスをエンジョイし続け、日本人の人口減少と中国、韓国の激安越境ECファッションに苦戦する日がやがてくることが予想される。

 ただし、ブランド化したジーユーは、その影響を受けることはないと思う。こうしてみても、ファーストリテイリングの事業ポートフォリオは盤石で弱点はみえない。

 

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

株式会社FRI & Company ltd..代表(2023年8月1日に社名を河合拓コンサルティング株式会社より変更)Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。最近ではAI企業、金管楽器メーカー、中国企業などのスタートアップ企業のIPO支援などアパレル産業以外にクライアントは広がっている。座右の銘は生涯現役。現在は自費で大学院で経営学の、独学で英語の学び直しを行っている。
著作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送サテライトTV」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議にたびたび出席し産業政策を提出。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
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