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【必読!】凄腕コンサルが教える!財務3表から仮説を立て企業業績を分析する方法

私は、「生き残るアパレル死ぬアパレル」、「知らなきゃ行けないアパレルの話」の二冊で、独自の4KPIを提唱し、企業の、そして事業の競争力や病巣を見分ける手法を紹介した。しかし、未公開企業の場合こうした数値にアクセスできるのは、経営者か金融機関だけであり、最近では企業の幹部でさえ、バランスシート(BS)とキャッシュフロー計算書は見ることができないという。しかし、上場企業であれば財務3表は公開されるし、なかなか本質的な課題にアクセスできないとはいえ、推論や仮説を使えば丸められた財務3票と決算説明資料の2つから企業業績が類推できる。

もちろん、正しい類推や仮説を立てるには、アパレル企業独特のビジネスモデルやお金の流れを理解しておかねばならない。今日は、丸められた財務3表から、企業業績の仮説を立てるやり方を書いてみたい。具体的な企業を出した分析がもっとも分かりやすいことは承知しているが、あえて具体的な企業名は出していない。それゆえ抽象度が高く読みにくくなっているかもしれない。しかし、私の意図するところは、具体的な企業名をだして、数値だけの根拠の薄い「噂」の類いが広がらないためであることをご理解いただきたい。

私の業績分析は、一般に書かれているものとは異なると思うが、アパレル企業数十社の業績評価や再建を手がけたこと、また、Excelをつかって企業全体の事業モデルをつくることより見えてきた(Excelなどのシステムは、すべての変数が正しく論理的に繋がらなければ動かない)ノウハウである。質問があるかたは、ぜひ聞いていただきたい。

utah778/istock

アパレル企業を分析する際の視点とは
「店舗営業利益」という誤り

 企業分析をするとき、不慣れな人は損益計算書(PL)をみて、赤字だ、黒字だと語るが、これはあまりに短絡過ぎる。本来であれば、私が提唱する4KPIを正しく読み、また、全店の店段階PLを見て、店舗貢献利益(企業によっては、店舗管理可能利益と呼ぶ)率を見る。4KPIについては本連載で幾度も書いたので、ここでは店舗貢献利益について説明する。これは店の売上から変動費だけを引いたものだ。

 この店舗貢献利益について、プラスが出るのは当たり前だと軽視し、ここに本社の販管費を店舗貢献利益の大きさによって按分し「店舗営業利益」という独自の管理手法で、「この店舗は赤字だ、黒字だ」と分析しているアパレルがほとんどだが、この手法には限界がある。

  なぜか?店舗貢献利益に販管費を按分して入れて、店舗営業利益という独自指標を出す場合、販管費のほとんどが固定費となる。

 一例として、店舗面積が大きく、貢献利益はプラスだが、店舗営利業利益が赤字の店があったとする。この店は店舗の坪数が大きいため配賦される経費が大きく、それゆえ店舗営業利益が赤字となっている。

 だから、この店舗を閉鎖してしまうと、企業全体の固定費がグッと上がってしまい、逆に店舗営業利益がギリギリプラスだった店の多くでブレークイーブンポイントが上がってしまい、結果多くの企業が赤字になってしまうのだ。

blackred/istock

 では、正しい管理手法は何か?

 店舗貢献利益(店舗管理可能利益)の合計値が販管費を超える(営業利益がプラス)値を「貢献利益率」とし、この値を割った店舗を赤字店舗、この値を超えている店舗を黒字店舗として管理すべきなのである。例えば、販管費の合計が300億円とし、可能であれば販管費から変動費を引いて固定費のみにする。仮に販管費のうち固定費が250億円だとしたら、店舗貢献利益の総合計が250億円以上の場合の店舗貢献利益率を10%12%と見て店舗収益を見る。

 「結局同じことではないか」と言う人もいるかもしれないが、実際に店舗収益を管理する場合、店舗営業利益で収益管理をすると、前述のように固定費負担の大きい店を撤退した場合、さらに多くの店舗が自動的に赤字になり、現場は混乱することになる。ならば、販管費の総合計を貢献利益率とし、その貢献利益率を割った店舗を赤字と判断して撤退店舗とし、さらに残った店舗貢献利益率のブレークイーブンを新たに設定して考えた方が間違いが無い。また、販管費の固定費をブランド別に分割すれば、ブランド別に正しい貢献利益率も見えてくる。現場にとっては、非常に分かりやすい指標となる

間違いだらけのPLの見方

 こうした、4KPIに加え、全店舗別PLは一般に上場企業であっても公開されることはない。上場企業であっても、損益計算書(PL)、貸借対照表(BS)、キャッシュフローの、いわゆる財務3表がせいぜい得られる指標だが、それらは各事業をすべて併せたものでとても分析に足るものとはいえない。ときに、PowerPointの別資料でブランド別、事業別、エリア別などの指標がでるが、企業側は自社の弱みを見せることはしない。だから自社にとって都合の良い情報しか開示しないため、本当に知りたい情報は見ることはできない。IR説明会の質疑応答についても当たり障りのない解答がほとんどで、さらにやり取りをして深掘りすることはできない。

  さて、企業が破綻する時は、損益計算書の赤字が続く時ではなく、資金繰り(キャッシュフロー)が行き詰まる時である。解説しよう。

 アパレル企業が破綻するのは、商品が売れずに在庫が積み上がり、代わりに現金が減少し、運転資本(企業が仕入をしたり、従業員に給与を払ったりするためのお金)がなくなるときである。このとき、現金が山のようにあれば、仮に6期連続赤字でも企業は倒産しない。また、現金がなくとも、現金を借りることができれば借金は増えるが、現金も増えるので企業は破綻しない。

 つまり、「危ない企業かどうか」をみるには、現金を見れば良い。具体的な事例をだして解説したいところだが、筆者の意図することとは違う方向に噂などが広がるのを避けるため、架空の企業で解説することをお許ししてもらいたい。読者は、本稿の内容を理解して、具体的な企業に当てはめて分析してもらいたい。

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キャッシュフローの基礎知識と分析手法

Melpomenem/istock

 次に、キャッシュフローについて解説すると、キャッシュフローとは現金の入りと出を表したもので3つに分かれている。営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフローである。

 営業キャッシュフローとは、仕入れた在庫を販売するなど、営業活動によって得られる現金の収支である。営業キャッシュフローは、商品販売でプラス、商品仕入れでマイナス、人件費でマイナス、経費でマイナスとなるため、営業活動トータルで現金収支がプラスかマイナスかがわかる。

 投資キャッシュフローは固定資産の取得や売却による現金収支を示す。例えば、新しいビジネスをするためデジタル投資をすれば、初期投資分のキャッシュアウトがマイナスに作用する。営業キャッシュフロー段階では、デジタル投資を法定耐用年数に合わせて単年度ごとに減価償却費として費用化されるが、実際のキャッシュアウトを伴わないため、その費用は足し戻されてキャッシュフローにはポジティブに働く。また、株式などを取得した場合、その株式の時価評価をしてプラスになれば投資キャッシュフローはプラスになる。

 最後に、財務キャッシュフローとはお金を金融機関などから借りる場合だ。お金を借りれば財務キャッシュフローはプラスになるが、借りたお金は返さなければならないため、返済が始まればキャッシュフローはマイナスになる。

 このように企業の現金の入りと出は3つのキャッシュフローで見てゆく。例えば、上場していなくとも、中小企業でも基本的な考え方は同じだ。

 そして、営業キャッシュフローが100あって、投資キャッシュフローが10のマイナスだった場合、その企業が自由に使えるお金は100-10で、90となり。これをフリーキャッシュフローという。このフリーキャッシュフローがプラスの場合、基本的には金融機関からの借入は不要だ。だが、例えばM&A(合併・買収)などで自社のフリーキャッシュフロー以上の現金が必要な場合、金融機関からお金を借りなければならない。そのため、大型買収など過大な投資をする場合、フリーキャッシュフローがプラスでも決して安全とはいえない。

 このように、財務3表だけでは、その会社の病巣が正しく見えないため、類推を通して「PLがこうなりBSがこのように動いていて、CFがこうなっているので、おそらくこういうことが起きているのではないか」ということをお金の立体的な流れと、アパレル事業という特殊性を鑑みて仮説を作り上げることが大事なのだ。

 そして、私の経験上、この過程を経てできた仮説はほぼ間違いなく、自分が思いつくことは事業主も同じことをやっている可能性が高いということがわかるのである。

①売上高在庫比率を経年で見れば危険度が分かる

:Kamonchai Mattakulphon /istock

 売上高在庫比率とは、在庫を売上高で割った比率のこと。流動資産の中には、今から売れる在庫と、何年も売れない在庫が残っている。上場企業の場合は、在庫の時価評価をキッチリやっているため大丈夫と思っている人がいるが、例えば、在庫の評価減、あるいは、評価損までの期間が3年、あるいは、5年の場合、流動資産の中の不良在庫が明確になるには、3年から5年もかかることになる。この期間、不良在庫は年々大きくなり、流動資産を肥大化する。

 本来、流動資産とは「一年以内に現金化できる資産」という意味なのだが、在庫が流動資産に計上されることを知らない人は、いわゆる古典的な流動比率(一年以内に現金かできる資産と、そうでない資産の割合)でお茶を濁し、「ああ、この企業は大丈夫だ」と思うのは極めて危険だ。

②売上高原価率は、値引きと余剰在庫(売れない商品の割合)が分かる

 アパレル企業の場合、企画原価率は百貨店で20%、ショッピングセンター(SC)で35%、セレクトショップなどメーカー品で40%程度となる。一方、企業の原価率は50%から55%がほとんど。もし、仕入れた商品を、当初企画した数量と上代ですべて売ることができれば、百貨店向けの粗利益率は80%になるし、SC向けの商品は65%となり、企画原価率の逆数になるはずだが、実際は原価率が上昇してそのようにはならない。

 これは、仕入れた商品が、当初企画した上代と数量を下回るからだ。例えば、企画段階でマーチャンダイザーが100円をつけた商品でも、値引きを繰り返し、最終的に50円でしか売れなくなると、上代が下がり原価率は相対的に上昇する。また、100個売れると想定して100個仕入れた場合、80個しか売れなかった場合も、20個は不良在庫となって原価率を上げることになる。

 つまり、マーチャンダイザーが当初企画した上代と数量で売り切れば、企業の収益は最大化されることになる。例えば、百貨店を主軸に事業を展開している企業の原価率が50%を超えている場合、企画原価率が20%だから、値引きと過剰在庫の合計損失が約30%となるわけだ。過去は、百貨店向けの売上は下代といって、百貨店の家賃見合いを引いた売上を計上していたため、このような計算が難しかったが、昨年4月より収益認識基準がすべての企業に義務づけられたため、上代換算で原価率のなかの歩留まりを計算することが可能になった。

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③売上高販管費率

 過去の論考で提示したように、海外の工場は日本を見限り、中国で3ヶ月、バングラデッシュなどでは長いリードタイムの場合は半年から一年といわれる始末だ。工場に、「なぜ、そんなにリードタイムが長くなったのか」と聞けば、「日本のオーダーは、安い、少ない、品質過剰」で、工場としてお付き合いする旨みがないからだという。つまり、日本で一世風靡したクイックレスポンス(QR)を加速した結果、逆にQRができなくなったというわけだ。

 私が提唱するように、工場との距離を短くし素材を備蓄する「縫製リードタイム」へとKPIを変えなければ、ますます余剰在庫が増えてゆくことになる。このように、原価を下げることはもはや限界に来ているわけだ。

 そうなると、収益を高めるには消化率を上げることが重要になる。だが実は、消化率を上げるというのは、上記の2と同じ意味で、仕入れた商品を企画時点の上代で、仕入れた数だけ売り切れば、消化率は100%になる。しかし、企業が取り得る変数には限界がある。例えば値下げを抑制をすれば、競合が値下げしたときに、競合に売上を奪われてしまう。特に、最近のユニクロは、ベーシック衣料の域を超えてファッションアパレルと呼んでもよいほどファッション性が高くなっている。

 そこで、原価の上の販管費に目をやると、ファーストリテイリングの228月期決算では、販管費率は脅威の30%台(39%)で、日本のSPAの平均値である50%を遙かに下回っている。同社は、これでも広告宣伝費と出店で販管費率が悪化してしまったといっているほどだ。また、日本で勝ち組と呼ばれる非上場企業があるが、私がプレデューデリジェンスした結果、販管費率が40%であった。最近は、スタートアップのネットアパレルから依頼を受けることも多くなったのだが、彼らも40%台である。今、アパレルがすべきことは、販管費を大きく下げ、40%台にすることだろう。

 

 さて、本日は、企業の内情がわからない場合においても、アパレルビジネスの特殊性を鑑み、類推や仮説を用いて、「おそらくこのようになっているのではないか」「ここが弱点ではないか」というように分析する手法を書いた。事業分析者のみならず、事業主にとってもお役に立てれば幸いだ。

 

プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/index.html