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第36回 あなたの店の「モノ」が売れない2つの理由

前回、「モノが売れる理由は3つ」と解説したが、逆に売れないモノにも理由がある。今号では、この「売れない理由」を解説したいと思う。

Halfpoint/istock

「売れる理由」の反対の言葉は?

 前回、売れるものとは「必要なもの」「心が躍るもの」「課題を解決するもの」のどれかに該当すると指摘した。必要なものは買うし、心ときめくものにはつい手が伸びる。自分の抱える課題を解決してくれるものにもお金を払う。

 牛乳やシャンプーや下着は必要だから買う。自分に似合いそうだと思う洋服は買う。ブランドの持つフィロソフィーに共感すればファンになる。冬を暖かく過ごしたいからヒートテックを買う。この時の課題は「冬を暖かく過ごしたい」であるからヒートテック以外にその課題を解決するものがあればそれを買う。

 要するに消費者は自分にとって何らかの意味(意義、価値)を感じると購買行動を起こす。だから売れないモノとは、この反対を考えれば良く「必要で無いもの、心が躍らない(ときめかない)もの、課題を解決してくれないもの」この3つに該当する。

 コロナ禍、行動自粛でも売上を落とさなかったスーパーマーケットやドラッグストアは、「必要なもの」をカバーしていたからに他ならない。

 これまで売上好調だった店舗やブランドが売上不振に陥る。海外からやってきた人気外資系ブランドが営業不振となり日本から撤退する。よく見る光景だが、この現象は、前述の3つのどれかに該当していることが多い。

 いつの間にか、顧客にとって必要なもので無くなり、心が躍ることも無くなり、課題を解決することも無くなれば消費者からの支持を失いお金を払うことを躊躇する。要するに好調から不調へ移るのは、「顧客価値の消失」にある。

売れない2つの理由とは

 では、売れない商品、売れないブランド、売れない店舗に共通して存在する理由は何か。それは、①過去の経験を続けている、②自分の価値観を押し付けている、この2つに代表される。

売れない理由①過去の継続

 これまで、もしくは過去に成功した経験から市場環境の変化に対応すること無く、「いつかまた、元に戻るだろう」「いつかまた寒い冬は来るだろう」「好景気はやってくるだろう」と過去の状態を待ち望んでいるうちに社会からの支持を失う。しかし、日本の状況は、人口減少と高齢化によって過去の中産階級の勃興や経済成長は消え、COP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)で議論されたように気候変動は進み、寒い冬が訪れることは考えにくい。変化は現実として受け止めて初めて次のステージへ進む。変化を受け入れることが第1歩となる。

 その他、路面の飲食店で行列の出来る名店が商業施設に入店しても期待通りの成果が上がらないことが多い。これはその飲食店が有った街や住民や店主の人柄による人気であり、それが商業施設の8階飲食フロアでは当然に魅力は薄れる。それまでの経験や実績が必ずしも成功にはつながらないケースではあるが、この場合、大きな内装投資を強いる商業施設側の責任も大きい。

売れない理由②価値観の押し付け

 「ライフスタイルの提案」、よく聞く言葉だが、これが価値観の押し付けにつながり、顧客の支持を得られないことも多い。確かに衣食住が満たされず国民の成熟度も高くない時代では、新たなライフスタイルの提案も受け入れられた。しかし、2021年の今、ネット環境が整い国民の情報格差は少なくなり、むしろ事業者より情報に詳しい消費者も多く、そのデータソースがSNSであれば尚更のこと事業者より消費者の方が早く察知している。ここで勘違いして欲しくないのは、何も「ライフスタイルの提案が悪い」と言っているのでは無く、この発想が事業者の勝手な価値観を押しつけることになる危険性を指摘している。この連載第32回SCが差別化を狙ってはいけない理由」と同様の考え方である。

 商業施設や商品の開発には必ず「提案」は必要である。新しい価値を生み、イノベーションを起こすことは重要だが、それが自分の価値観の押し付けになれば残念ながら消費者には受け入れられないだろう。

売れるか/売れないかは問題では無い

 前回と今回で「売れる/売れない」の議論をしたが、実はこの2回に共通することは、たった1つ「選択権は消費者にある」ということである。

「売れる/売れない」と言った事業者論理を続ける限り、「何を売るか、どうやって売るか、提案が足りないのか、接客力か」と言ったプッシュ型を繰り返すことにもなる。

 コロナ明け、消費者は何を望み、何を期待するのか、そこに全神経を集中し、場合によっては2019年までの過去と決別することも必要になるだろう。視点は「消費者に支持されるか/されないか」である。

 

西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役

東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員。201511月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒