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少子化でも成長の余地はある!西松屋チェーン大村禎史社長インタビュー

ベビー・子供用品の専門店を全国展開する西松屋チェーン(兵庫県)。毎年、積極的な出店により、店舗網を拡大している。競争激化を受け、プライベートブランド(PB)の開発に力を入れており、競合との差別化を図っている。5年後をメドに売上高1800億円、経常利益率10%をめざす同社の成長戦略を大村禎史社長に聞いた。

市場規模は2兆円、自社シェアを拡大する

──2017年度(18年2月期)も終盤に入っています。あらためて上半期をどのように振り返りますか。

大村 禎史(おおむら・よしふみ)
●1955年2月7日生まれ。兵庫県出身。79年3月京都大学大学院工学研究科修士課程修了、4月山陽特殊製鋼入社。85年9月西松屋チェーン入社、取締役。90年4月専務取締役。96年5月代表取締役副社長。2000年5月代表取締役社長(現任)

大村 17年度上半期は売上高686億円(対前年同期比0.7%増)、営業利益34億円(同16.7%減)、経常利益35億円(同16.2%減)と増収減益でした。店舗数は、17店舗を新規出店する一方で、3店舗を閉鎖したことによって上半期末時点で922店舗となりました。

 商品部門別の売上高は、衣料部門では春物や初夏向けが出足で苦戦したものの、夏物のバーゲンセールにより大きく伸長しました。育児用品部門では、おしりふき、手・口ふきといったPBを含む消耗品が堅調に推移しました。ただ、16年末あたりから消費に勢いがなくなってきていることに加え、競争激化が強まってきています。この2年ほどは増収増益基調に戻りつつありましたから、気を引き締めているところです。

──下半期に入ってからはいかがですか。

大村 消費低迷、競争激化の傾向に変わりはなく、前年実績を割り込む月が増えています。価格を引き下げることで販売量を増やし、在庫を削減する努力をしているところです。

──少子高齢化、人口減少が進行しています。ベビー・子供用品を販売する小売業として、市場環境をどう見ていますか。

大村 国内の出生数は1949年の第一次ベビーブーム期では約270万人、71~74年の第二次は約210万人でしたが、その後、緩やかに減少し、2015年は約100万人となっています。

 以前と比べると大幅に減ってはいるものの、ベビー・子供用品の市場規模は、衣料だけでも1兆円、育児用品を含めると2兆円です。それがこれから数年で半分になることは考えにくいでしょう。当社の年商は17年2月期実績で1362億円ですから、マーケットの大きさからすれば開拓余地はあります。さらにシェアを拡大することで業績を伸ばせると考えています。

──業績拡大のために重点を置いている施策は何ですか。

大村 PB開発です。競争が激化していくと価格での戦いに陥りますから、そうならないように、ほかの店では買えない独自の商品を持つことが必要です。価格面だけでなく、品質面でも優位性がある、使う側に立った魅力的な商品を増やそうとしています。

──従来もPBはありましたが、それとは違うのですか。

大村 かつてはベンダーさまに商品開発を任せ、それにブランドをつけた商品をPBと称して販売していました。今、力を入れているのは、商品の企画から始まり、品質、数量、納期管理までをトータルでコントロールするPBで、従来のPBとは大きく異なります。そのため社内では本格的なPBの開発と呼んでいます。

メーカー技術者を採用、PBシェア5割が目標

──PBはどのような体制で開発していますか。

大村 大手家電メーカーからスカウトした技術者が開発に携わっています。09年にまず1人を採用し、それ以来、徐々に人数を増やし、現在では約90人が開発部門に在籍しています。08年秋の、いわゆるリーマン・ショック後の大手家電メーカーが実施したリストラによって、人材が獲得しやすい状況が生まれました。どの社員も、大手メーカーにおける商品開発で実績のある優秀な技術者ばかりです。

──家電製品とベビー・子供用品とではまったく分野が違います。

大村 彼らも最初は「自分にできるだろうか」と思っていたようです。しかし、私も技術者出身なのでわかるのですが、モノづくりの基本は同じなのです。商品の仕様書を作成するところから、品質、数量、納期を管理する流れに沿って開発していけば、分野の違いは問題ではありません。

──具体的にこれまでどのようなPBを開発しましたか。

大村 最初の商品は10年に発売した、「スマートエンジェル」のブランド名で展開するベビーバギーです。当時、高級ブランドの商品でも、指を挟み、けがをする事故が多発し、大きな問題になっていました。当社では、そういった事故が起こらない商品をめざし開発をスタートしました。金属部品の角度を工夫することにより、安全に開閉できる商品を実現させました。大きめのタイヤを採用することで乗り心地もよくし、また紫外線をカットする幌もつけました。

 発売直後から評判も上々で、その後モデルチェンジを経て、16年には「バギーfanロングプラス」というシリーズで「グッドデザイン賞」を受賞することもできました。

──特定の機能に絞って開発しているのですか。

大村 日本の家電メーカーは多機能にこだわる企業が多いのですが、当社のPBは必要な機能はしっかりと確保し、それ以外のムダなものはカットするという方針で開発しています。これにより、お客さまに対し、使い勝手がよく、さらにお求めやすい価格で商品を提供することが可能になります。

西松屋チェーンは本格的なPB開発に取り組んでいる。写真は「スマートエンジェル」ブランドで販売する「くみあわせマット」。通算販売数は500万セットに上るヒット商品だ

──ベビーバギー以外にはどのような商品がありますか。

大村 同じく「スマートエンジェル」で出している、「くみあわせマット」もよく売れています。正方形状のポリウレタン素材のやわらかいマットで、組み合わせることで部屋を楽しい雰囲気に演出できる商品です。価格は8枚入りで税込469円です。この3年間、コンスタントに週1.5万~2万セットが売れており、通算販売数は500万セットに上るヒット商品となっています。

2015年に発売した「エルフィンドール」ブランドの子供用ズボン「ストレッチパンツ」。動きやすいのが特徴で、16年シーズンには100万本を販売した

 衣料や服飾雑貨、寝具などは「エルフィンドール」というブランドで展開しています。そのうち「ストレッチパンツ」は15年に発売した子供向けのズボンです。伸縮性の高い素材を使っているため動きやすく、カラーバリエーションも揃えたことで、お客さまの支持を得ることができ、16年シーズンには100万本を販売しました。

──これまでに開発したPBはどれくらいありますか。

大村 育児用品、衣料、生活関連用品などで約1500品目です。18年2月期の上半期の実績では、PBの売上高構成比が1割弱、粗利益額の構成比では1割超の水準となっています。PBは差別化することができ、利益への貢献度が高い商品です。将来的には、売上高構成比5割まで引き上げることを目標にしています。

標準フォーマットを300坪に、国内1500店舗体制めざす

──今後の出店計画を教えてください。

2018年度は、年間50店の純増をめざして出店し、国内店舗数は1000店を達成する見込みだ

大村 17年度は最終的に新規50店舗の出店で着地しそうです。閉店は約10店舗、トータルで40店舗の純増となり、年度末の総店舗数は950店ほどになると見込んでいます。18年度は50店舗の純増をめざしており、計画どおりにいけば国内1000店舗を達成することになります。

 50店舗の純増を目標にする場合、単に新店50店舗を出す場合と、100店舗をオープンし、50店舗を閉めるのとでは効果が違います。後者が、古いタイプの店舗を閉めたり、競合状況に合わせた対応ができたりするなど、新陳代謝により店舗網の活性化につながります。それを踏まえ、お客さまの利便性に貢献できるような出店を推し進めたいと考えています。

──国内でどのくらいまで店舗網を広げられそうですか。

大村 日本の人口は1億3000万人弱です。従来、当社が設定していた1店当たりの商圏人口10万人を前提にすると、1300店ほどは出せるのではないかと考えています。ただ近年は沖縄県の宮古島、石垣島など、商圏人口が5万人のエリアにも進出しています。物流をさらに効率化すれば、最大で1500店前後までは増やせるのではないでしょうか。

 また地域によっては、それほど出店できていないところもあります。たとえば関東は分厚いマーケットが広がっていますが、約700万人の人口を抱える埼玉県には、まだ51店舗(17年12月1日現在)しか出していません。人口が多い地域は競争も激しいのですが、出店余地はまだまだあると考えています。

──標準とするフォーマットはどのようなものですか。

売り場面積200坪タイプの店舗が全体の6~7割を占める。今後は競争力の面から300坪タイプを標準フォーマットにする方針だ

大村 現在、売場面積200坪タイプの店が全体の6~7割を占めています。店舗運営面からすれば、200坪が最も効率がいいのですが、競争力の点からこれからは300坪タイプを標準フォーマットにする方針です。

 出店形態はフリースタンディングではなく、CSC(コミュニティ型ショッピングセンター)、NSC(近隣型ショッピングセンター)などへの出店を主眼に置いています。また近年、増加傾向にある居抜き出店も選択肢の1つです。

──店舗規模が大きくなると、売場も変化しますか。

売場面積の拡大に伴い、衣料品のほか傘や靴など関連用品の品揃えも充実させる

大村 従来、当社で品揃えしてきたのは、おもに小学校に入学するぐらいまでの子供向けの商品でしたが、大型化することでさらに上の年齢層にも対象を広げます。また衣料品だけでなく、靴をはじめとする関連用品も扱うことによって品揃えを拡充します。PB比率も高め、売場を大きく変えていこうと考えています。

ネット通販を強化、専用センターも整備

──国内で1500店舗まで出店可能とのことでしたが、そのあとはどのような成長戦略を描いていますか。

人材確保難を受け、店舗作業の省力化にも取り組んでいる。最近では、自動釣銭機タイプのレジを導入している

大村 ネット通販に力を入れます。楽天をはじめとするネット通販サイトに出店しており、ネット通販の年商は35億円ほどです。事業拡大を視野に、茨城県守谷市にあるネット通販専用物流センターの整備をすでに終え、専用センターから配送する体制へ移行済みです。そう遠くないうちに、自社サイトも開設する予定です。

 当社は全国で店舗を展開していますが、東京23区内は家賃が高く、決して店舗が多いとは言えません。その点、ネット通販であればそうしたエリアにも当社の商品を提供できます。

──ネット通販の競争は激化しています。自社のサイトを選んでもらうための戦略はありますか。

大村 やはりPBの品揃えです。NB(ナショナルブランド)の紙おむつや粉ミルクといったコモディティは、どこで買っても同じ商品ですし、結局は安い価格で販売するサイトが支持されます。しかし低価格で品質のよいオリジナル商品を充実させることができれば、他社にない武器になります。

 当社のPBは、開発段階から数量管理を徹底しており、アイテムごとに何がどれだけ売れるのかといったことも詳細に予測しています。そのためネット通販においても、需要に応じて、柔軟に追加生産ができるのも強みです。

──海外進出は考えていますか。

西松屋チェーン 代表取締役社長 大村 禎史

大村 国内で店舗網が行き渡ったあとに検討するつもりです。今のところ具体的な進出先は想定していませんが、日本国内で構築してきたビジネスモデルを持っていくとなれば、ある程度モータリゼーションが進展し、また経済的な発展を続けている国になるでしょう。

 一方、国内では新たな業態、フォーマットの開発に着手したいと考えています。これについては流通先進国である米国を研究し、可能性がありそうなものを日本でもテスト展開しながら、次代のビジネスモデルを探っていきます。

──目標とする経営数値はありますか。

大村 売上高1800億円、経常利益率10%で、5年後をメドに達成したいと考えています。そのためには、現在取り組んでいるPB開発をさらに強化し、国内の店舗でお客さまにとって魅力ある品揃えを追求することが先決だと考えています。