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コロナ一巡も成長とまらず! 生協が今後も伸びる2つの理由

新型コロナウイルス(コロナ)感染拡大による“コロナ特需”を大きく受けた業態の1つが生協だ。アマゾンをはじめ競合も食品宅配事業を急拡大させるなか、食品宅配市場のガリバー的存在である生協はいかにさらなる成長を実現しようとしているのか。生協専門紙「コープソリューション新聞」の宮崎元編集長が、その最前線を伝える。

コロナ禍で業績を大きく伸ばしている生協宅配。その価値が再認識されつつある

絶好調!供給高は3兆円
経常剰余は1000億円超え

 日本生活協同組合連合会(東京都)が発表した、全国120の地域生協の2020年度業績は、供給高(小売業の商品売上高に相当)が対前年比111.8%の3兆683億円と初めて3兆円を突破。経常剰余(同経常利益に相当)も同329%の1100億円(経常剰余金はコープソリューションの推計)と同じく初めて1000億円を超え、経常剰余率は同3.19%と対前年比1.96ポイント(pt)改善した。巣ごもり需要の追い風を受けて過去最高の業績となっている。

 事業部門別では、宅配事業は同114.9%の2兆1170億円、店舗事業が同104.3%の同9513億円と、店舗事業を含めて前年を超過した。なかでも宅配の個配については20年3月期から21年3月まで13カ月連続で二桁伸長を維持し、高止まりが続いている。利用者数と1人あたり利用額が増加したことで配送効率が上がり、損益構造は大きく改善している。

 ここ1年の宅配事業を振り返ると、20年4月の1回目の緊急事態宣言発令後、例年は利用が減る5月大型連休開始週に宅配の受注は前年同期比で150%に跳ね上がった。さらに8月のお盆の週と年末年始には、帰省や旅行の自粛によって自宅で過ごす人が増え、宅配の受注はいずれも同120%を超えた。

コロナ禍の行動自粛生活は宅配の潜在的需要を引き出すことにつながった

「意外によかった」
業績以上に得た幸運とは

 コロナ禍での全国的な傾向として、組合員から宅配の配達担当者へ感謝の言葉や手紙が送られる事例が増え、エッセンシャルワーカーとして配達担当のやりがい、そして生協宅配の本質的な価値が再認識された。

 新たに加入した組合員からは「配達は週1回だがくらしのサイクルに合っている」「食品に限らず生活用品も豊富」といった声があがっている。日本生協連常務執行役員の二村睦子氏は「生協をよく知らなかった人がコロナ禍をきっかけに加入し、利用したら意外によかったなど好意的な感想が圧倒的に多い」という。図らずもコロナ禍が宅配の潜在的需要を引き出したかたちだ。そして当初は一過性とも見られていた受注増は高止まりが続いており、生協宅配は新しい生活様式で定着しつつある。

 20年は記録的な経営実績となったがその数値以上に、生協陣営にとって今後の成長可能性が大きく広げることのできた点で、インパクトの大きな1年になったと言えるだろう。

1年100万人超が加入 
若年層の獲得に成功

 20年の供給増は利用者の増加が直結したものだ。生協宅配の新規加入者は例年では約40万人に対し、20年度は上期の半年で60万人が加入。下期も前年同期比で倍増以上のペースで推移している。
 実はコロナ禍は、生協のさらなる成長を可能にする大きく2つの要素をもたらした。

 1つ目が、若年層の獲得だ。大きく伸びた新規加入者のうち約6割が20~30代の若い世代である。日本生協連の18年の調査で組合員の平均年齢は57歳で、生協ではこれまで組合員の高齢化が大きな課題となっていた。今回、若年層を開拓できたことは、全国の生協の指針となる2030年ビジョンで掲げる「人生100年時代を支える生協」実現の推進力になるだろう。

近年、生協では乳幼児向け食品シリーズを開発するなど若年層の獲得に力を入れてきた

2桁増収を支えた
物流インフラと配送基盤

 もう1つの要素は、配達担当者の確保が進んだことだ。

 生協の成長を支える存在として忘れてはならないのが、その物流網だ。1000万人の宅配組合員に届ける商品を仕分けする物流インフラと、2万人の配達担当が担うラストワンマイルの配送基盤を有する。近年は配達担当者の人手不足問題が生協最大の経営課題となっていた。しかしコロナ禍で失業者が増えたことで人材獲得が進み、状況が一気に改善した。

 宅配・配達担当の欠員に関するコープソリューションのアンケート調査(21年5月)では、19年同月で4.46%だった宅配の欠員率は、21年同月1.60.%と大幅に改善した。充足率が高まったことで配達担当者の労働環境も向上し、職場に好循環が生まれている。

コロナ一巡後も継続成長
次の成長に向けて始動

 21年度の事業予測については、日本生協連は「20年度は異例の年だった」として、供給高予測は19年度比で105%を目安に置いている。
 コロナ感染拡大から1年が経過した現在の生協の利用動向については、いまだに感染症の状況に影響を受け、成長を続けている。21年4月の宅配事業供給高は、前年同月は感染拡大直後で業績が急伸していたにもかかわらず、前年同月比で101.3%と伸長した。さらに緊急事態宣言延長を受け、第1四半期(4~6月期)の受注は高止まりが続く見とおしだ。

 今後の生協の成長実現は、好調な今こそ危機意識を持って事業改革を打ち出せるかにかかっている。コロナ特需によって経常剰余を確保できたことから、生協では物流関連施設やデジタル・システム開発への投資が進んでおり、新たな進化に期待が寄せられている。