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業務プロセス改革に手応え、企業規模に合わせて仕組みを変える!しまむら 野中 正人 社長

衣料品専門チェーンのしまむら(埼玉県)の業績が回復している。2014年2月期から2期連続で営業減益となったが、16年2月期に営業増益に転じ、17年2月期は過去最高益を更新しそうだ。復調を後押しするのが、2000店舖の節目に取り組み始めた業務プロセス改革だ。しまむらは3000店舗体制の実現に向け、新たな仕組みづくりを推し進めている。

2000店舗の節目に組織運営を見直す

野中 正人(のなか・まさと)●1960年7月22日生まれ。84年3月中央大学法学部卒業。同年3月しまむら入社、鴻巣店勤務。85年9月商品部第2課コントローラー。87年2月商品部第3課バイヤー。92年2月商品部第7課長。94年2月経理部経理課長。98年2月商品4部長。99年2月経理部長。2003年5月取締役人事部・総務部・経理部統括。05年5月代表取締役社長に就任。

──2016年2月期に営業増益に転じて以降、業績の好調ぶりが目立っています。

野中 当社は14年2月期から2期連続の営業減益となりました。為替相場が大幅に円安に転じたことで大きな影響を受けたのです。当社のような海外で生産した商品をメーンに扱う小売業にとって、急激な為替変動は利益圧迫要因になります。

 しかし、それ以外にも硬直した組織運営の仕組みが業績低迷の原因になっていました。

 チェーンストアは、規模拡大に合わせて組織の運営を見直さなくてはなりません。しかし、当社はマイナーチェンジを繰り返してきただけで、根本から仕組みを変えてきませんでした。すると、店舗数が増えるにつれて「例外」がどんどん増えていきました。

 社員の多くは仕組みを変えて解決しなくてはならないと頭の中ではわかっていても、実際には人を増やして対応することが多かったのです。人を増やせば一時的に楽になるかもしれませんが、改善しようというモチベーションが薄れてしまいます。

 このような状況を打開するため、16年2月期中に国内外合計の店舗数が2000店舗に達することに合わせて、16年2月期から3カ年計画で組織や働き方の見直しを図ってきました。

 具体的には、「2000店舗、変革の年」というテーマを設けて、とくに業務プロセスの改革を進めてきました。チェーンストアの経営は「標準化」(Standardization)、「専門化」(Specialization)、「単純化」(Simplification)の3Sが基準ですが、当社では「仕組み化」(Systematization)を加えた4Sを徹底することにしたのです。

バイヤーの業務内容と評価方法を変える

──どのように業務プロセスを見直されたのですか。

野中 まずは、商品調達を担当するバイヤーの業務を見直しました。

 当社はチェーンストアですから、「高感度」「高品質」の商品を低価格で提供することを使命としています。スケールメリットを生かしてすべての商品を全店で扱い、「売り切れ御免」で新しい商品を次々と投入しています。

 しかし、実際には全店で同じように売れるわけではありません。ですからバイヤーは早期に売り切るため、売上を見込める店舗に重点的に商品を配分していました。そのためバイヤーはつねに店舗ごとに数量を打ち込む入力業務に追われていました。また、売上の少ない店舗には一部の商品が届かないため、店舗間の売上格差が広がっていたのです。

 この状況を解消するため、入力業務を見直し、基本的には全店に同じ枚数を納品するようにしました。これによりバイヤーの入力作業を大幅に削減できました。また、売上の少ない店舗にもほぼすべての商品が入るようになり、売上を押し上げることにつながりました。

 バイヤーの評価期間も月単位から週単位に変更しました。

 たとえば在庫について、従来は月次の決算を迎える毎月20日の在庫金額でバイヤーを評価していました。しかしそのことで新しい商品を投入するタイミングが毎月20日過ぎの数日に集中していました。その結果、店舗の作業量が集中し、店舗従業員にかかる負荷が大きくなっていたのです。人手不足に直面するなか、作業量の変動幅が大きいために、店舗従業員の重要業務である接客が疎かになってしまうケースも発生していました。一方、物流面では、納品が集中する毎月20日過ぎの数日はチャーターしている配送トラックだけでは間に合わないため、臨時便を手配していたことから物流コストが高止まりしていました。

 バイヤーの評価期間を変更したことによって、毎月20日過ぎに集中していた店舗作業を平準化することができ、接客にも時間を割けるようになりました。

 それと同時に販売計画も月単位から週単位に変えました。その結果、店舗の販売動向にきめ細かく対応できるようになりました。新商品投入のタイミングが週次となり納品数量が安定するようになったため、チャーター便の積載効率も高まり、臨時便を減らすこともできました。

テクノロジーで効率化

──新商品投入を月単位から週単位に変えたことにともない、売場づくりも見直したのですか。

野中 店舗数が増加するにつれて、バイヤーも在庫を管理するコントローラーも本社での業務が増え、売場を見る時間を確保できなくなっていました。そのため店舗では大量の在庫を抱え、売場に古い商品が並んでいました。見映えのしない、旬の感じられない売場になっていたのです。

 そこで週単位の販売計画の実施に合わせ、売場づくりについてあらためて社内で議論しました。その結果、女性のお客さまに買物を楽しんでもらえるような売場をめざそうという結論に至りました。

売場ではアイテム数を絞り、コーディネートを提案するスペースを広げた。季節感を与えるアウターを充実させている
実用衣料は売場を縮小するとともにアイテム数を絞りこんだ。品切れすることのないよう、1アイテム当たりの在庫を増やしている

 女性向けでいちばん伸びしろがあると期待しているのがアウターです。17年2月期から新しい売場への改装を進めており、アウターを売場中央に広くレイアウトして、着こなしやコーディネートの提案に力を入れています。毎週、季節感あふれる新商品を投入し、高速回転させることで、いつ来店されてもお客さまを飽きさせない、楽しい売場にしています。

 一方で、肌着や靴下などの実用衣料の売場を縮小し、アイテム数を約3割減らしました。しかし、実用衣料は目的買いをするお客さまが多いので、1アイテム当たりの在庫量を増やして、欠品させないようにしています。

 このほか、売場の目新しさをよりいっそう打ち出すため、これまでよりも低い什器を導入して、売場全体を視認しやすくしました。17年2月期は主力の「しまむら」業態の約半数の店舗を改装しました。今期中に全店舗を改装する計画です。

 これまで、老朽化した設備を刷新するため、10年ごとにリニューアルしてきました。今後は、設備とは別に3年ごとに売場のリニューアルを行う考えです。

──そのほか売場をサポートするために、どのような改革を進められているのですか。

野中 業務内容を一つひとつ見直し、これまで人が行っていた仕事でも、テクノロジーに置き換えられるものは置き換えるようにしています。

 先ほど、全店に同じ数量の商品を納品すると説明しましたが、当然ながら立地や商圏による売上の多寡によって店舗ごとの在庫量には差がでます。そこで、在庫の多い店舗から少ない店舗に商品を移送する指示を自動化し、適切な在庫に調整できる自動移送システムを開発しました。バイヤーが投入枚数を調整して入力するよりも、納品してから自動で調整したほうがはるかに効率的です。

 また、売れ行きに応じて自動的に値下げするシステムも導入しました。商品の消化率や販売期間など一定の条件を設定し、在庫が設定した基準に達したら自動で値下げの指示を出せるようにしています。ただ、値下げは利益に大きくかかわってくるので、最終的にはコントローラーが判断するようにしています。

 このようにIT化を含めた業務プロセス改革を進めて、本部と店舗の業務量や作業量を減らすことができれば、本部は先々の計画を早めに進められます。店舗は作業量の平準化が図られることで、チェーンストアの店舗運営に徹することができるようになります。

 一連の業務プロセス改革を通じて、従業員の意識が変化していることを実感しています。これまで「そうは言っても……」が口癖だった社員が「今度はこうしてみよう」に変わりつつあるのです。「変革」を掲げて3期目となる今期は、社員が自発的に仕組みを変えてくれることに期待しています。

国内市場は今がチャンス、大都市部への出店を強化

──今後の出店戦略を教えてください。

野中 17年2月期末に国内だけで2000店舗を超えました。チェーンストアの成長エンジンは店舗数を増やすことですから、3000店舗まではわき目もふらず、とにかく店舗数を増やしていく考えです。

 国内の「しまむら」業態は1365店舗となりましたが、まだまだ出店の余地はあり、2000店舗は可能でしょう。とくに東京や大阪など人口の集中する大都市部への出店を増やす方針です。東京であれば山手線内や東急線、京王線などの沿線に店舗を出したいと考えています。しかし「しまむら」の標準的な売場面積の1000㎡前後にこだわっていると出店は難しいので、500㎡前後の小型店の開発に再度取り組もうと考えています。

 もちろん大都市部だけでなく、地方にも出店します。現在、1600~1700㎡の大型店の実験も行っており、これがうまくいけば売場面積の異なる複数の店舗を組み合わせてシェアを高めることができます。既存店の近くに出店をすれば当然既存店の売上は落ちますが、そのエリアでのトータルのシェアは確実に高まるでしょう。

 若者向けのカジュアル衣料を扱う「アベイル」は301店舗となりました。17年2月期は商品構成の見直しなど既存店に力を入れたため出店は5店舗にとどまりましたが、今期は積極的に出店していく考えです。

 また、ベビー・子供用品の「バースデイ」は240店舗となりました。17年2月期は「しまむら」よりも多い30店舗を出店しており、今期も同じようなペースで出店する計画です。衣料品に加えて、子供用品がひと通り揃う専門店としての認知が進んでおり、既存店は好調を維持しています。

150坪を標準的な売場とする靴専門店「ディバロ」の出店を加速させる方針だ

 靴専門店の「ディバロ」は17年2月期に100坪以下の9店舗を閉鎖し、11店舗となりました。これからは150坪を標準店として出店を加速し、早期に100店舗体制とする方針です。

 国外では、台湾が順調です。17年2月期は3店舗を出店して42店舗となりました。今後も年間2~3店舗を出店していく予定です。中国は上海に出店しているのですが、厳しいというのが正直なところです。現在の11店舗を維持しながら、中国のマーケットに合わせた品揃えを探っていく考えです。

──国内の衣料品市場をどのように見ていますか。

プライベートブランドのヒット商品も生まれている。写真は「素肌涼やかデニム&パンツ」(税込2900円)

野中 国内は今が事業拡大のチャンスと見ています。衣料品業界は為替が安定せず、売上が伸びない「衣料品不況」に直面しており、閉鎖する店舗が増えていく可能性が高いからです。そのぶん、当社が出店する余地も増えると前向きにとらえています。

 国内の衣料品市場は漸減しています。今後もその傾向が続くでしょうが、枚数ベースでみると減少幅は小さいと見ています。高単価の商品が売れなくなる一方で、リーズナブルな商品へのニーズが高まっていると感じています。われわれにとっては大きなチャンスであり、「しまむら」に見向きもしなかった消費者の来店が期待できる状況にあるのです。とくに店舗の少ない大都市部には、多少無理をしてでも「しまむら」を出店していく価値はあると考えています。

 既存事業だけでなく、新しい事業を立ち上げるのも今がチャンスでしょう。M&A(合併・買収)を含めて、可能性を検討していきたいと思います。

20年2月末までに全店で電子マネー対応

──ネット通販(EC)についてはどのように考えていますか。

野中 リアル店舗ばかりを増やしていけばいずれ限界にぶつかりますから、ECにきちんと対応していかなくてはならないと思っています。

 ECに限らず、消費者が求めていることについては、できるだけ対応していきたいと考えています。今期から電子マネーを導入するためにレジを順次入れ替え始め、20年2月期末までに全店で電子マネーを利用できるようにする計画です。

 お客さまの利便性を考えると、自社ポイントや共通ポイントの導入も検討すべきかもしれません。実際に導入するかどうかは慎重に詰めていきますが、これまでのように「やらない」と決めつけるのではなく、なんでも検討していくつもりです。

──SPA(製造小売業)志向の企業が増えていることについて、どのように見ていますか。

野中 SPAであるとか、SPAでないとかをそれほど区別する必要はないと思っています。

 お客さまの生活を豊かにできる品質であり、流行を取り入れた商品を低価格で販売することが当社の使命です。これを実現するサプライチェーン・マネジメントを自社だけでやるのか、取引先を含めた複数社でやるのか、どちらであってもローコストで運営することが最も重要になると思います。

 当社は全店で販売する商品を増やしており、SPA企業並みの数量を発注する場合もありますので、それなりのスケールメリットを発揮できていると思います。

 また、われわれが扱う商品は、サプライヤーが当社向けに開発しているものがほとんどですから、今のところはSPAにこだわる必要性を感じていません。