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危機感をバネに巻き返し着々=ベイシア 橋本 浩英 社長

14都県に141店舗を展開する食品スーパー(SM)大手のベイシア(群馬県/橋本浩英社長)は、危機感をバネにV字回復モードに入った。今年6月23日に社長に就任した橋本氏は、ここに至るまでどんな舵取りをしてきたのか? 詳細を聞いた。

危機感と変革の必要性を共有

はしもと・ひろひで●1961年生まれ。群馬県出身。84年、明治大学政治経済学部卒業。同年、いせや(現:ベイシア)入社。98年ベイシアハード事業部長。2002年ベイシア電器執行役員営業部長、16年ベイシア役員待遇法務部長を経て、16年6月代表取締役社長に就任。

──2016年6月23日にベイシアの4代目の社長に就任しました。その前の年に当たる16年2月期の業績を振り返ると、売上高は2798億円で対前期比0.1%減。当期純利益は76億円で同9.8%減の減収減益。大半のSM企業が増収増益トレンドにあった同時期のなかでは元気がないように見えました。

橋本 そうですね。私にも危機感はありました。就任後は、ずっと売場を回り、問題点がどこにあるのか実際に目で確かめていきました。

 まず目に付いたのは、生鮮食品、とくに主力となる野菜の品質です。商品部は、取引先に品質をチェックしたうえで発注していたのですが、実際に売場に並ぶのは発注した品質とは異なる商品というケースが多々ありました。店舗の担当者に「自分で買いますか?」と尋ねると返事がないので、自覚症状はある。売場の誰かが商品部に一言、「品質がよくない」とフィードバックすれば、それで解決する問題なのですが、その回線自体がさび付いてしまっていたようなきらいがありました。

 売場を回って痛感したのは、私たちの品質基準や商品基準が現場では曖昧になっていたことです。ただ安ければよいのではなく、よいものが安いことが大事ということが、展開店舗数が増えていくなかでなおざりにされていたようなところがありました。

──大企業病に罹患していたということですか?

橋本 かかりそうになっていた、というのが正確かもしれません。多くの社員が指示待ちで、仕事を率先して楽しむというよりは、やらされている感が散見できました。

 そうした状態でしたので、最初に会社が危機的な状況にあるということを伝えていきました。「このままではベイシアはお客さまから見放されてしまう。そこから脱するために、まず商品を強化し、売場はそれを売り込む方法を考え実践する。それができなければ、ベイシアはますます後退してしまう」と語りかけました。

 そんなこともあって、青果部門では、注文した商品と入荷した商品の品質チェックを再度実施し、主力となる野菜の再強化を図ることができました。

 当社の社員は素直で真面目ですから、背中を押すと、あとは真剣に取り組んでくれます。それで危機的状況にあることと変革の必要性を共有することができました。

部門の垣根を取り払う

──そのなかで、16年10月に「ベイシアスーパーマーケット藤枝店」(静岡県藤枝市:以下、藤枝店)をリニューアルオープンしました。

橋本 15年3月に開業した売場面積3732㎡の店舗です。同一商圏内に4つのSMが林立し、厳しい競争環境のなかにあります。

 ベイシアには主力業態として、①スーパーセンター、②スーパーマーケット、③小型店舗のベイシアマート④グループ会社のカインズ(埼玉県/土屋裕雅社長)と共同出店のかたちをとるフードセンターの4つがあります。藤枝店の場合は、スーパーマーケットでありますから、1つの業態としてしっかりと確立すべきだった。だが、実際の売場構成はスーパーセンターの食品売場の単なる縮小版になっていました。しかし、それでは地域を熟知し地場商材に強い地場SMには勝てません。

 しかも、生鮮食品を安価で提供する分、同業他社と比較されやすいグロサリー(一般食品)とデイリー(日配品)では価格競争をほとんどせず、“安いお店”として認知されていませんでした。

 そこで、改装を機に、生鮮食品強化と同時並行でグロサリーやデイリーの価格を下げたのです。すると、お客さまの評価は一変し、現在は対前年度比約30%増で推移するようになっています。

──青果部門以外の生鮮食品は、どんな方向で強化しているのですか?

橋本 従来は素材の販売が中心でしたが、有職主婦や独り暮らしのご老人が増えていますから、意図的に即食商材やハーフデリ型の簡便商品の品揃えを増やしています。

 現在、総菜部門でとくに強化しているのは、サラダ、寿司を含めた米飯、スープ類、焼き物です。これまで、サラダは、ベースとなるものがほとんどでした。今は、厚生労働省が推奨している「一日の野菜摂取量350g」にちなみ「ベイシアサラダスタイル350」と銘打ったコーナーを展開。鮮魚部門が扱うサーモンやタコを乗せたシーフードサラダや精肉部門のローストビーフやローストポーク、生ハムを使用したディッシュサラダを一箇所に集めてバラエティ豊かな品揃えで訴求しています。

 米飯も手法はサラダと同じで、精肉部門の黒毛和牛を使った弁当や燦さん々さん鶏どりを使った鶏めしなどの開発も始まっています。

 さらには、米飯の商品分布図を作成して空白エリアへの商品投入を模索しているところです。実際、米飯は、298円弁当等のガッツリ系弁当が多かったのですが、女性を意識した「カフェ飯」等のヒット商品も出てきています。

──部門の垣根を超越した商品開発は難しくありませんか?

橋本 確かに従来の組織は縦割りでしたからなかなか部門を超えての取り組みは進みませんでした。しかし、私が社長に就任して以降、組織変更を実施し、全社的に風通しがよくなるように努めています。

 私が営業部門のトップに就き、その下に商品部と販売部をぶら下げる格好の組織図にしました。本部内のレイアウトも変更して、部門間の物理的な壁になっていたキャビネットを移動して、空いたスペースにはパッと集まれるようなテーブルを置き、頻繁に会議や会話ができるようにしました。

 現在は、商品部と販売部がいつでも1つの問題についてフランクに話し合いができ、協力し合って問題解決に当たれる組織になろうとしています。

 また、女性の視点も積極的に導入しています。当社は典型的な“男社会”“男会社”でしたが、女性の従業員の方から意見をいただき、試食していただき、商品化につなげるという取り組みも積極的に行っています。

EDLPを進化させる

──生鮮食品を強化しながら、今度は、グロサリーやデイリーの価格を下げる。御社の経営理念のひとつである「チェーンストア イズ モア ディスカウントビジネス」の実践ですね。

橋本 EDLP(エブリデイ・ロー・プライス)政策を徹底していますので、再度価格を下げたグロサリーについては、競争力があると自負しています。

 ただ、グロサリーの場合は、競合企業にマークされて同じ価格に合わされることも少なくありません。その結果、販売数量が減少して利益が出なくなってしまうことも多々あります。その原因は、一度決めた商品を変えることなくずっと同じ価格で販売しているためです。

 現在、約1000アイテムの商品で実施していますが、たとえば、単価が500円のドレッシングを390円にするという具合に、ちょっと高質で高額の商品や季節性のあるもの、話題性の高いものを積極的にEDLPで販売しています。こういう手法は、正確にはEDLPとは言えないかもしれませんが、お客さまに「よりよいものをより安く」提供することを重要視した結果です。

──それにともなって、商談の仕方も変わってきますね。

橋本 そうですね。たとえば、健康軸でEDLPを施行する場合は、減塩やグルテンフリーや無添加といった、さまざまな知識とアイデアが必要になります。

 数が売れている商品を安く売ることは、多くの企業ができるはずです。しかし私は逆に、これがEDLPのデメリットではないかと考えています。だから競合企業ができないことをやりたい。難易度は高いのですが、それをやりぬくことがお客さまづくりにつながると確信しています。EDLPも常に進化させていかなければいけません。

──一方で、EDLC(エブリデイ・ロー・コスト)の進化の度合いはいかがですか?

橋本 今は、インフラ整備に乗り出しているところです。そのなかでフル装備のプロセスセンター(PC)づくりを計画しています。PCを活用しても問題のない商品はPCに移管するとともに、店内では差別化の図れる付加価値の高い商品づくりに集中します。

 それと現在は、アウトパッカーの業者育成に努めているところです。ベイシアの品質基準や商品基準を遵守しながら商品化できるようなアウトパッカーです。

 アウトパッカーの商品の粗利益設定は、店内加工よりも低くなりますが、その分人件費は下がりますので、相対的にコストは下がることになります。

プロセスチーズが大ヒット

──商品面でほかに政策はありますか?

橋本 「これを買うのならベイシア」という商品をたくさん開発していきたいと考えています。その基準は、PI(Purchase Index:レジ通過客千人当たりの購買率)値になります。1000人いれば、10~15%のお客さまに買っていただける販売量を持つ商品の開発と育成です。

 現在、青果、精肉、鮮魚、総菜、デイリー、グロサリーの6つの部門がありますから、各々5つずつ。当面30品目の開発が目標です。

──コロッケなどはその域に達しているのではないですか?

橋本 いや、まだまだです。もちろん販売数量は多いですが、コロッケを買いにベイシアに来てくださるというレベルではありません。ベイシアのコロッケ食べたさに来店してしまう。売っている私たちでもそう思えるようなコロッケじゃないといけません。

──実際にそうした商品は生まれているのですか?

橋本 まだまだです。ただ、その兆候はあります。1番の候補になりそうなのは、つい最近、販売を開始した6Pのプロセスチーズです。1週間で4万3000個を販売。発売当日には1日に265個を販売した店舗もありました。

 このような数量は事前には想定していませんでした。しかしできました。私たちにもやればこれだけ実績がつくれるという自信が芽生えました。

 価値ある商品をどんどん開発しようという商品部の思いとそんな商品なら一生懸命売ろうという販売部の思いが一緒になったと実感しています。これが私たちの大きな成功体験になると期待しているところです。この体験の数をさらに増やしていきたいと考えています。これからは、製造小売化にシフトもしていかねばいけません。商品に情報をしっかりつけて、コンセプトや商品価値をしっかりお客さまに伝えたいと思います。

──プライベートブランドのパッケージングなども変わってきますか?

橋本 パッケージングも専門の担当者を置きました。単品ごとのコンセプトをパッケージに反映させるだけでなく、全体の統一感も重要になります。まだまだできていない部分もたくさんありますが、1つの成功体験がこれからの私たちの背中を押してくれていくような気がします。

FOR THE CUSTOMERを再確認

──さて、グループ会社のカインズとの共同の取り組みはありますか?

橋本 フードセンターはカインズとの共同出店ですから、まったくお客さまの数が違います。このお客さまの数をどれだけ、ベイシアのお客さまとして迎えられるかという部分にチャレンジしていかないといけません。まだまだやらなければいけないことはたくさんあります。

 共同の取り組みとしてはカインズカードがあります。一部の店舗では一緒にやっていますので、どなたが何を購入されているのかがわかりますから、さまざまなご提案をすることもできるでしょう。また、商品の関連販売にもつなげていきたいと思います。従来は、慣習に基づいて独善的に関連販売を実施していましたが、データの裏づけをベースに関連陳列や実験を進めていきたいと考えています。

──社長就任以来、相当のスピードで改革を進め、それがうまく回り始めています。

橋本 そうですね。悪天候の9月は対前年同月比0.1%減でしたが、10月は同4%増、11月も同2%増で推移しています。

 ベイシアは、もともと来店客数が多いので、さまざまな商機があるのです。

 しかし、最近は、新しい発想やチャレンジに消極的だったゆえに停滞を余儀なくされていました。お客さまも不満を感じながら、でもご来店いただいていたのだと思います。

 そのことを危機感として全従業員が共有して、改善・改革に注力していきます。お客さまにお越しいただければ、商品を買いたくなる、来店目的のある店舗にしていきたい。お客さまにもっともっと貢献させていただくことで私たちも最終的に成長させていただければと考えています。

 「FOR THE CUSTOMER」という私たちの経営理念がちょっとぼやけてきたようなところがありましたが、当社の「FOR THE CUSTOMER」は何なのかを全社員が共有化して、さまざまなことに積極的に取り組んでいけば必ず上昇気流に乗れると考えています。