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《特別提言》経営者の努力次第で中小食品スーパーは強くなれる!=エコス 平 富郎 会長

食品スーパー(SM)業界では合従連衡の動きが加速している。厳しい競争環境のなかで中小SMが大手と差別化を図り、強みを見出すことはできるのか。エコス(東京都/平邦雄社長)の代表取締役会長にして、中小SMが加盟する協同組合セルコチェーン(東京都/佐伯行彦会長)の理事相談役を務める平富郎氏の提言を掲載する。

提言(1) 規模の大きさは必ずしも脅威にならない

エコス代表取締役会長
平 富郎(たいら・とみお)
1939年1月22日生まれ。65年たいらや商店設立、75年同社代表取締役社長。84年に同社を株式会社に改組しスーパーたいらや(現エコス)設立、代表取締役社長に就任、2002年から現職。1995年協同組合セルコチェーン理事長、2007年より同理事相談役。75歳。

 SM業界ではM&A(合併・買収)が活発化しており、大手企業が規模拡大のスピードを速めている。たとえば、アークス(北海道/横山清社長)は規模拡大に積極的だ。同社はシジシーグループ(東京都/堀内淳弘代表)の加盟企業のなかで優良なSM企業との経営統合を進めている。純粋持ち株会社の下にグループ企業が参加するかたちで、各社の経営の自主性を重んじている。アークスと同様のケースとしては、アクシアル リテイリング(新潟県/原和彦社長)が挙げられる。このように今後は純粋持ち株会社制による規模拡大を図る企業が増えるとみている。

 今年4月にはイオン(千葉県/岡田元也社長)がマルエツ(東京都/上田真社長)、カスミ(茨城県/藤田元宏社長)、マックスバリュ関東(東京都/〓梨和人(たかなし・かずと)社長)の系列SM3社の経営統合を発表した。将来的には1兆円規模の首都圏SM連合が誕生することになる。今後もこうしたM&Aによる合従連衡が続くと思われる。

 しかし、統合によって企業規模が大きくなるほど、統合の効果を得るには相応の労力が必要となる。商圏が一気に拡大し、店舗数が増え、社員も多くなる。優秀な経営者がハンドルを握り、長期にわたる安定経営をしなければ、経営統合のシナジーを確実なものにするのは難しい。もし創業オーナーがいれば精神的な支えとなるのかもしれないが、いない場合には求心力を持つ経営者を据えることが最重要になるだろう。

 また、商品を一括で仕入れるスケールメリットを得られるかもしれないが、これも仕入れの統合という難題をクリアしなければならない。SMの主力商品である食品は、地域ごとに必要とされる商品が異なるため、地場商品の仕入れについては調整していくしか方法はない。組織の融合を促進し、円滑な組織運営を行えるようになるには5~10年かかるのではないか。

 企業規模の大きなSMの誕生に、危機感を覚える中小の経営者がいるかもしれないが、実際には規模の大きさは必ずしも脅威にならない。規模拡大によって得られるメリットが期待したほど大きくない場合もあるからだ。

提言(2) 自店の得意分野をつくる

 企業規模が大きくなることのデメリットもある。チェーンストアは商品を大量に仕入れることで効率化の実現をめざすが、こと生鮮食品に関しては、コストアップ要因になる場合もある。

 たとえば、ある大手SMが全店舗で焼肉のセールを実施するとしよう。肩やももの肉を特売するために、市場に大量の買い注文を入れると、その部位の供給が間に合わず、値段が高くなったりする。必要量が揃わなければ、価格が高いことを承知で買い集めるようになってしまう。精肉など生鮮食品は、発注数量が少ないほうが安くなることもあるというわけだ。

 一方、大手SMがセールをしなかった部位が、市場で半値八掛けの値段で売られることもある。ここで規模の小さいSMは機動力を発揮し、安値で仕入れて競合店の半額で販売すれば、お客さまが集まり、利益確保につなげることができる。

 要するに、企業規模が小さくてもできることはたくさんあると言いたい。規模に応じた強みを貫けばいい。SM市場は大手10社の市場占有率が約30%と、他の業態に比べてまだ低い。私の経験から言わせてもらうと、中小SMは大手が真似できない得意技で勝負すれば、生き残れるはずだ。

 私は1979年にSM1号店を出店した。当時、よく築地市場に通ったものだ。セリが終わったころにセリ場に行って、売れ残っている鮮魚や干物、練り物を捨て値に近い価格で仕入れた。それを安値で販売しても十分に利益を確保できた。

 ナショナルブランド(NB)メーカーから安く商品を仕入れる方法もある。NBメーカーは通常、品切れしないように商品を多めに製造するので、その余剰分をねらう。通常、NBメーカーは大手SMから1万個の商品を受注したとすると、5%分に当たる500個くらいを余分に製造する。数量は少ないが、このような余剰在庫を安値で仕入れ、低価格で販売すればお客さまが集まる。実際、こうしたNBメーカーの余剰在庫の安値販売を強みにしている中小SMはけっこう多い。

 このようにいろいろな商売の方法があり、それぞれ規模に見合ったやり方を追求すればいい。やる気さえあれば1店舗しかなくても、工夫次第で十分な利益を確保することはできる。

 品揃えの面では、あれもこれも揃えてしまっては、大手SMとの差別化が難しくなってしまう。これを避けるために、店舗の特徴を打ち出せる商品が必要となる。市価の半額以下で販売する商品を目玉にしてもいいし、生鮮食品や総菜など得意とするカテゴリーをつくり出せばいい。本当に強いカテゴリーがあるのなら、店舗の半分をそのカテゴリーの売場にすることもできる。逆に弱いカテゴリーは売場縮小を検討すべきで、鮮魚の品揃えに自信がなければ、冷凍食品で対応しても構わない。自店の強みを生かして、得意なカテゴリーにこだわっていれば、支持してくださるお客さまも増えるだろう。

 中小SMの商品政策(MD)は大手と同じことをしないこと。そして、自店の得意なカテゴリーを前面に出し、地域一番をめざすことが鉄則といえる。

提言(3) 高齢者の購買意欲をくすぐる

 お客さまにとって、価格は店舗を選ぶ重要な要素となる。ただ、昨年から価格競争は少し落ち着き始めたとみている。多少価格が高くても、品質がよく、値ごろ感のある商品であれば購入するという消費マインドに変わりつつある。こうした時流に合わせて、品揃えを見直していく必要がある。

 これからの小売業の重要なテーマは、少子高齢化への対応だと思う。量目を少なくしたり、柔らかく食べやすい商品を充実したりするなど、とくに高齢のお客さまが欲しいものを仕入れて、工夫して販売しなければならない。

 2013年度末の国民の金融資産は年度末としては過去最高の1630兆円に上る。12年度末に比べて金額ベースでは50兆円以上も増えていることからも、消費者はお金を持っていることがわかる。なかでも金融資産全体の6割を有する、60歳以上のシニア世代を取り込むような提案が求められる。高齢者の関心をつかみ、購買意欲をくすぐるキーワードは健康だ。健康維持に貢献する商品を店舗でしっかりアピールできれば、多少高くても売れるようになると確信している。当社も、生鮮食品を強化した最新フォーマット「TAIRAYA」において、中高年を主要ターゲットに健康をテーマとするMDの構築に取り組んでいるところだ。

提言(4) 成長のヒントはすべて店舗にある

 私は毎月1回、セルコチェーンに加盟する中小SMの経営者と話す機会を設けている。中小SMは情報が少ないため、セルコチェーンの勉強会は数多くの経営者にとって有益なものになっている。

 最近は、近くに競合店ができることがわかり、焦って悩んでしまう経営者が多い。そういう場合には、しっかり相手を研究して戦えばいいとアドバイスをしている。競争に打ち勝つためには勉強をしなくてはならない。しかし、ハングリーさを持ち合わせておらず、勉強しない経営者が多くなったと感じている。

 競争こそが企業と経営者を鍛え、強くする。厳しい競争を勝ち抜くために重要となるのが知恵を絞ることだ。そのためには知識の習得に加えて、経験も必要だ。両方をうまく掛け合わせて、知恵としてアウトプットできなくてはならない。

 中小SMの場合、社長が先頭を切って勉強し、社員を引っ張っていく必要がある。経営者はまず、基本としてMDや価格政策を地道に勉強しなくてはならない。競合店に対抗するためにはどのような売場をつくり、どんな商品を訴求すればいいのか、問題もその答えも店舗に行けばすべて見つかるはずだ。わからないことがあれば売場でメモをとって、従業員やお客さまに聞けばいい。

 少ない店舗数でも地域密着を強く打ち出し、お客さまとの距離を縮めてコミュニケーションを深めれば、必要としている商品が徐々にわかってくる。とくに高齢のお客さまはコミュニケーションに飢えており、地域の食文化や行事など、話題にできることはたくさんある。聞き出したニーズを、地域に根差した独自商品やサービスとして提案すれば、お客さまの支持獲得につなげることができる。

 中小が地域密着の度合いを深めることによって差別化できることはいくつもある。地域から強く支持されるSMは、大手との競争で簡単に負けてしまうことはないだろう。

 たとえ失敗したとしても、得られるものは大きい。社長が成功と失敗を繰り返せば、経営幹部も一緒に成長するからだ。逆に、幹部に仕事を任せ、失敗すると批判するから何もしなくなってしまう。だから、中小SMの社長はまず自分が勉強し、自分の責任で決断をしなくてはならない。人材育成については、規模が大きくなってから取り組んだとしても遅くはないと考えている。

 経営者が真っ向から向き合い競争すれば、恐れることはなにもないはずだ。むしろ危惧すべきは、競合する相手の規模だけを見て、やる気をなくしてしまう経営者が少なくないことである。

提言(5) 経営者の努力で業績は決まる

 セルコチェーンの勉強会では、経営者の心がけとして、自らの頑張りが企業の成長の源になると伝えている。経営者が遊ぶ時間も寝る時間も削って仕事をこなし、勉強する時間を確保しないと、中小SMは成長できない。会社の業績を伸ばしたいと思うなら、何かを犠牲にしなくてはならない。経営者の努力と勉強の量で業績が決まると言える。

 現在は経営の現場からほぼ退いたが、私自身、現場にいる時は冠婚葬祭で仕事を休まざるをえない日を除き、朝5時から夜23時まで働き詰めだった。いまの経営者も自分の頑張り次第で、会社を成長させることができるはずだ。

 勉強会では具体的には、私が経験してきたことをわかりやすく、噛み砕いて話している。とくに人間の土台となる部分について話すことが多い。どんな天候になっても、植物は根がしっかりしていれば枯れることはない。同じように、人間としてのあり方、経営者としてのものの考え方など、SM経営に必要な根幹について、経験を交えて伝えるようにしている。外部環境は刻々と変化するが、経営者に求められる人格や教養、思いやりなどへの理解は不変だ。

 すでに答えが用意されている学問と違って、会社経営に正解はない。これからも答えに近づき、答えを導くためのヒントを提供し続けていくつもりである。

 中小SMの経営は「努力に勝るノウハウなし」と考えている。必死にやれば見えてくる風景もある。新たなステージに踏み出せるよう、中小SMの経営者は自分よりも強い相手と切磋琢磨し、独自色のある店舗づくりにまい進してほしい。