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経営効率を向上し、確実に利益を生み出せる仕組みをつくる=バロー 田代 正美 社長

出店を加速し規模拡大を図るバローがめざすのは、規模拡大を収益の最大化に結びつけられる経営だ。そのために、物流センターの整備や製造小売化など、次代を見据えた基盤づくりに取り組む。今後の事業展開をどう進めるのか、田代正美社長に聞いた。

今後、同業態のM&Aは原則として行わない

──「事業規模の拡大」を掲げ、積極的な出店政策を打ち出しています。進捗はいかがですか。

 

バロー 代表取締役社長
田代正美(たしろ・まさみ)
1947年生まれ。1971年早稲田大学法学部卒業、山武ハネウエル(現・山武)入社。1977年バロー入社。1979年取締役。1984年常務取締役。1990年専務取締役事業統括本部長。1994年代表取締役社長就任

田代 計画は順調に進んでいます。今期(2014年3月期)は、食品スーパー(SM)21店舗、ドラッグストア25店舗を出店する計画です。ホームセンター、スポーツクラブもそれぞれ1店ずつ出店する計画です。

 時代は、めまぐるしく変化しています。今後3~4年間でSM業界は大きく様変わりするでしょう。そのなかで、当社が存在感を示し続けていくには、事業規模の拡大が最重要課題という認識です。

 当社は経営効率を上げ、確実に利益を生み出せる仕組みを構築することに力を入れています。利益を最大化するには、一定水準以上の規模が必要になります。経営効率が悪い状態のままで事業を拡大するのは危険です。

──SM業界では、最大手の売上規模が5000億円超です。

田代 念頭に置いているのは、SM業界で3位以内に入るということです。今後、競争が激化することを考えれば、それくらいの売上規模がないと、生き残っていくことは難しいでしょう。

 それはSMだけでなく、GMS(総合スーパー)、コンビニエンスストアなど、どの業態にも言えることです。メガバンクや地方銀行といった金融業にしても、上位数社だけが次代に勝ち残れるという構図は同じでしょう。

 11年3月期を初年度とする中期経営計画では、15年3月期までの5年間でSMを80店舗、ドラッグストアを100店舗出店する計画を立てました。最終年度の15年3月期には連結で営業収益5000億円、経常利益200億円、純利益100億円を達成するのが数値目標です。

──これまで、M&A(合併・買収)も手がけながら売上規模を拡大してきました。今後も、M&Aを活用していくのですか。

田代 いいえ、同業態のM&Aは、原則として行わない方針です。

 というのも、これまでの経験からすると、M&Aのメリットは「時間を買う」こと、つまり短期間に店舗数を増やせることです。しかし、買収した企業の店舗の経営効率が悪ければ、スクラップ&ビルドなどをして改善しなくてはいけません。場合によっては、企業を買収したのと同じくらいの投資になることもあります。こうした点を考えると、必ずしも買収する必要はない、という考えに行き着いたのです。

──新規出店で十分、規模は拡大できるとの判断ですか。

田代 そうです。すでに、当社の店舗開発部は年間30店舗を出せる力を持っています。よほど大きくて好条件のM&A案件は別にして、自社で出店したほうがスピード感もあり、最初から標準化された店舗を増やしやすいのは間違いありません。

PBの売上シェアを拡大し収益性を改善する

──店舗網の拡大を支えるため、物流センターの整備にも力を入れています。12年11月には、岐阜県可児市に新しく「ドライ物流センター」が稼働しました。

田代 これまで、岐阜県多治見市の本部に隣接していたセンターを移転し、規模を拡大したほか、処理能力も高めました。

 従来は、取引先に店舗別の仕分けをしてもらっていたのですが、現在は在庫型センターとなり、在庫から仕分け、各店への配送までを自社で行うようにしました。現在、ドライ物流センターの向かいには、青果物のプロセスセンター(PC)を併設したチルド物流センターを建設している最中です。今夏にも稼働する予定です。

 ここ数年、インフラ整備を戦略的に進めてきましたが、それもあと1年ほどで一段落します。今後5年間は店舗が増えても、それらのインフラにより、各店舗に効率的に商品を供給することができます。

──「規模の拡大」と並んで、「製造小売業への進化」を重要な戦略として掲げています。

田代 衣料品などの専門店チェーンでは、高い収益性を実現する製造小売業が生まれてきました。当社も、プライベートブランド(PB)の開発にあたって、原材料の調達などから手がけることで、付加価値を生み出すことをめざしています。単にモノを仕入れて販売する小売業から、製造小売業へと進化しなければいけないと考えています。

 ただ、課題もあります。中期経営計画がスタートした当時、PBの売上高構成比を上げながら、出店で店舗数が200店になれば、収益性を改善できると考えていました。13年3月期末で当社グループの国内店舗は236店になりましたが、収益性は想定ほど改善していないのが現状です。

──収益性が改善しなかった理由は何ですか。

田代 われわれが扱っている商品が食品だからだと思います。衣料品や家具といった非食品の粗利益率は高く、それを扱うメーカーの儲けも大きい。だから、それを製造する機能を自社に取り込んだ小売業は大きく収益性を向上させることができたのです。

 それに対して、そもそも食品は儲けが少なく、メーカー、さらにそれを扱う卸売業、小売業も大きな利益を出していません。だから、当社の収益性も大きく変わらなかったと考えています。

──食品の製造小売化を進めるメリットをどこに見いだしますか。

田代 多段階の流通経路を含めて、日本の流通は複雑で、何か商品を仕入れるとなると、小売業まで届くのに長い経路を要します。

 ですから、製造小売業へシフトすることで、その長い経路を短縮化し、川上から原材料を安く調達できるというメリットは大きいと思います。これまでどおり、PBの売上構成比を2割以上、さらに3割程度まで拡大しながら、収益性の改善を実現していきたいと考えています。

再来年から出店地域を拡大 関西での出店も強化

──09年4月の師勝店出店以来、EDLP(エブリデイ・ロー・プライス)を価格政策とする店舗を徐々に増やしています。成功モデルは見えてきましたか。

田代 たとえば、EDLPの代表的な企業である米ウォルマートの店舗は、無機質なイメージが拭えません。いつも決まった売場と商品で、変化に乏しい。

 これに対し、当社がめざすのは、生鮮食品の売上構成比が高く、季節や催事などで、ある程度売場を変化させる店です。東京のような大都市は別かもしれませんが、変化のない店舗は地方にはなじみません。

 当社のEDLP型店舗は6店舗になりました。これまで売場面積400坪と650坪の2つのサイズでテストしてきました。現在のところ、適正フォーマットと考えているのは650坪です。

 生鮮食品を強化しているわけですが、生鮮食品は相場に左右されやすいことがデメリットです。安定的な利益の源泉となるのは、グロサリーになります。グロサリーの売場をできるだけ確保しようとすると、400坪では小さい。やはり650坪程度必要になるのです。

 EDLP型店舗の可能性を検証しましたが、すべての地域、立地で通用するわけではないというのが現在の評価です。

 既存店舗をEDLP型に切り替えるのはそう簡単ではありません。既存店舗のイメージが定着しているため、EDLP型に転換すると、お客さまが離れてしまう可能性があるのです。ですから、今のところ一気に既存店舗をEDLP型店舗に切り替えるつもりはありません。

 EDLPはやはり、日本においてはまだまだニッチな存在だと思います。今後も出店は続けますが、マーケットや物件を見極めながら出店していく方針です。

──積極出店を続けていますが、今後は出店エリアも広がるのですか。

田代 当社では東海地区をベースに、北陸地区や関西地区でも店舗展開しています。今後1年間は、この商勢圏で出店をしていきますが、再来年以降は、新たなエリアへ進出する考えです。

 これまで、ドミナント化を進めてきましたが、自社競合が多くなり、メリットが薄れてきています。商勢圏に出すなら、SM以外の業態でエリアを固めたほうがいいと考えています。

──再来年から、具体的にはどのエリアへ出していきますか。

田代 現在、出店地域は東は静岡県までですが、さらに東への店舗展開も検討します。また、西は滋賀県まで出店していますが、関西地区でも出店地域を拡大します。京都府でも出店を検討していますが、小さな物件が多いため、大型の店舗は難しいかもしれません。

 それと連動して、たとえば滋賀県などで配送拠点を設置することも検討しています。いずれにしても、具体化するにはもう少し時間がかかるでしょう。