メニュー

ウィズコロナ時代のショッピングセンター経営10 アパレルと百貨店が生き残るための2つの戦略とは

売上が戻らない。特にアパレル企業からは悲鳴に近い声が聞こえてくる。実際、ショッピングセンター(SC)のテナントとして全国に店舗を作ってきた大手ナショナルチェーンが次々に退店を始めている。なかでも百貨店を店舗展開の中心としてきた老舗アパレルメーカーの凋落が激しい。それはなぜなのか、そしてどうすれば良いのか。この2点についてSC経営の視点から解説していきたい

視界不良の百貨店とアパレル。生き残るための2つの道とは?(kitzcorner / iStock)

アパレル経済の台頭と成長を牽引した百貨店

  一国の経済成長の中で洋服が脚光を浴びる時期は、中産階級の勃興と重なる。苦しい生活の中でも明日の成長を夢見てがむしゃらに働き、ある程度、日々の生活が満たされ余裕が生まれた時、国民はオシャレに向かう。

 日本では、1950年代、白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫の家電3品目が「三種の神器」と呼ばれ神武景気と共に各家庭に普及、56年の経済白書で「もはや戦後ではない」と明記された。

 その後、60年代、いざなぎ景気時代にカラーテレビ、クーラー、自動車(Car)の3つが3Cと呼ばれ「新三種の神器」として国民に普及。そして70年代、人口が1億人を超えた時、国民の大部分が「自分は中流階級だ」と考える、「一億総中流」時代となり、大量消費社会を形成していく。いわゆる「中産階級」の勃興だ。

 そして、1980年代、アパレル経済の大きなエポックとなるDCブランドブームが訪れ、アパレルメーカーは大量生産大量消費の経済モデルを形成していくのである。

  このアパレル経済のけん引役だったのは紛れもない百貨店である。呉服店から発達した百貨店、私鉄が作ったターミナル型百貨店、地方の有力小売店が大型化した百貨店など、その生い立ちはいろいろあったもののどこも画一化されたフロア構成(図表1の百貨店を全国津々浦々まで作っていく。

 SCを開発してきた筆者は常々「なぜ、百貨店は、全国どこでも同じフロアプランなのだろうか」疑問に思ってきたものである。

 この百貨店の取り扱い品目は、アパレルと服飾雑貨が多くを占めた。それは経済成長と人口増加を背景にした中産階級の増大に合わせ画一化されたフロア構成が庶民にも受け入れられ、アパレルの売上を大きく牽引したからである。

 その百貨店の増加と市場の拡大に合わせ、アパレルメーカーはキャリア、ミス、ミッシー、ミセスの売場(フロア)ごとに合わせたアパレルブランドを多数開発し、全国の百貨店に消化仕入れと言う契約形態で商品を配送し販売する時代を謳歌する。

 女性のアパレルブランドは、1歳刻みの年齢にテイストやオケージョンやグレードと呼ばれるデザイン性と価格展開で全国の百貨店を相手に手広く商売が出来た古き良き時代である。

 

 

アパレル経済の衰退とその理由

 しかし、ニクソンショック、ドルの金兌換停止、固定平価制から変動相場制への移行など1970年代から世界経済が大きく転換し低成長経済へと突入する。そして90年代のバブルの崩壊とリーマンショックを経て百貨店の売上は91年を境に減少を始める。

 その後、2005年からの人口減少社会の到来、12年の東日本大震災、そして今年のコロナ禍によって百貨店の衰退はますます進行し、とうとう百貨店が1店舗も無い県が出るに至っている。しかし、この人口減少は、百貨店だけでなく、SCにも大きなダメージを与える。したがって、近年進む百貨店のSC化(定期借家化)は決してブルーオーシャンではなく、レッドオーシャンの中の動きでしかないのである。

 そして、今、多くの経験をした消費者は、これまでのようにアパレルをファッションと捉えることは減り、価格と機能性に価値基準に置くことになる。

 実際支持されているのは、一人勝ちの様相を呈しているユニクロ、人気急上昇中のワークマン、家具のニトリなど、いずれも価格と機能性を兼ね備えたものに他ならない。

 いまだに「おしゃれアイテム、有名バイヤーがセレクト、キレイめカジュアル、今年のトレンド、着こなし、かしこいアウター、大人のエレガント、新感覚、裾無しリブのラウンド仕様、スタイリッシュなシルエット」など並べたらキリが無いが、このような意味不明な言葉を並べているアパレルブランドは残念ながら低調を極めている。

 アパレル衰退の理由は、このDCSオンラインで多くの専門家の皆様が分析しているので細かくはそちらに譲るが、その最も大きな理由は他でも無い「人口の減少」にある。

 連載第2回でも触れたが日本の経済成長を支えた団塊世代は年間270万人生まれていたが昨年19年に生まれた数はわずか90万人と、3分の1まで低下している。要するに市場は3分の1になっているのだ。さらに驚くことに今般のコロナ禍によってこの減少は加速すると厚労省から発表があった。この半年、妊娠届が急減し、来年の出生数は80万人割れが予想されると言うのだ。コロナ禍は経済の停滞だけでなく人口の停滞までも引き起こすようである(図表2)。

図表2 出生数の推移

 

紳士服(スーツ)の減退

 アパレルの不調は婦人服に限らない。紳士服、特にスーツの売上が大きく減少し、最近の百貨店の紳士フロアの空き区画と仮囲いの増加は目を覆うものがある。

 クールビズによってネクタイやスーツを着る機会は減り、IT企業やベンチャー企業などそもそもスーツを着ない(着る必要のない)社会人が増加し、コロナ禍によって拡大した在宅ワークによって外出着が不要となり、ますますスーツの出番は減少している。

 筆者が社会に出た頃は、社会人(サラリーマン)になったら絶対にスーツを着るものと決まっていたが、今は少数派になってしまったようだ。

 要するに、「人口数×人口の増加率×スーツ着用率=スーツの販売額」という公式において、人口数↓、人口増加率↓、スーツ着用率↓とパラメーターのすべてがマイナスになったのだから、その乗数の答えは当然、減少する。

 この公式は、百貨店にも当てはまる。

 「人口数×人口増加率×百貨店利用率=百貨店売上高」、この数字のどれかが一定でもどれかが上昇すればこの答えは上昇する。ところが人口数は減り、人口増加率が減る今、百貨店利用率を増加させなければこの公式の答えが減少するのは当然である。

 

百貨店はどう対応すべきか

 そろそろこのテーマに解を求めたい。方法は2つである。

 ①ニッチとなること

 スーツも百貨店も残念ながら利用者は減少する。しかし、必ず一定数の利用者はいる。スーツもオシャレな人は着るし、誰しも着るシチュエーションは必ずある。

 しかし、その人の数も場の数も残念ながら過去に比べたら大きく減少していることは受け止めざるを得ない。

 アパレル企業はこれまで、洋服が売れるか売れないか分からないけど欠品を無くすためにとにかく作り全国へ配送し売上を上げることに躍起になってきた。確かに売上が拡大すれば自ずと利益が着いてきた時代ではあった。

 一説には年間28億着の衣服が供給されていると聞く。ナショナルチェーンと呼ばれるメーカーは、全国の百貨店やSCに多くの店舗を構え、国民全員を相手に洋服を売る典型的なマスマーケティング戦略を採ってきたわけだが、市場が縮小する中、その大量生産大量消費の公式は成り立つはずは無い。

 したがって、今後は、ニーズのあるマーケットに絞りニッチマーケティングに発想を切り替えるしか無いのである(洋服を売りたければの話ではある)。

 実際、オーダースーツに特化するなど、「スーツはニッチ」と割り切った一部スーツメーカーは売上を伸ばしている。ニッチマーケットでは数量が伸びない中でも、単価を上昇させることで利益を確保することは戦略の定石である。

 百貨店も同様である。百貨店の利用者は減少している。百貨店には行かないと言う若者も多い。しかし、百貨店を愛し、百貨店を利用する顧客は少なからずいる(私もその一人)。

 ただ、その数は少ない。だから、前掲の百貨店フロア構成のような巨艦型は不要となる。

 そもそも、この図表1に示した百貨店フロアモデルは、市場の全包囲網(親子三世代)を狙ったマスマーケティングの典型である。

「今ある大きな建物をどうするんだ」という声も聞こえてくるがそこは工夫するしかない。そうしないと百貨店の無い県が増えるだけだ。

 ITを使うこと

 もう1つの方法は、ITを駆使することだ。これまでのような外商や手厚い接客を続けたいのは分かる。オンライン接客など始めるところにそれをヒシヒシと感じる。

 しかし、それが立ち行かなくなっていることは関係者であれば薄々気づいているはずである。

 近年、伸びているDtoCのようにこれまで不可能だった顧客管理や採寸までテクノロジーを使って対応できる時代である。これを使わない手はない。

 レジをお帳場と表示するのもいい。でもバックオフィスは近代化を急がないと本当に人件費倒れし、雇用すら守れない時がやってくるだろう。

 

今後は多くがニッチとなる時代

 本稿では百貨店とスーツを題材にしたが、今後、ものすごい速度で人口が減りマーケットは大きく縮小する。したがってマスマーケティングで生き残るのは、わずかな企業やブランドだけになる。ユニクロやニトリがその代表例だろう。

 人口が増加し、経済が膨張する時代ではマスマーケティングは機能しやすかった。

 しかし、今、衰退しているほとんどの企業や商品やサービスは、この成長を背景にしたマスマーケティングをいまだ志向しているのではないかだろうか。

 1990年代後半から大量に建設されたRSC(リージョナル型ショッピングセンター)も同様、この市場の縮小にどのように立ち向かうのか、巨体なだけに大きな問題となることは間違いない。

 アフターコロナの時代に、大きく占有率を占めるプラットフォームとなるか、特定なニーズに特化したニッチ戦略を採るか、その選択が重要となる。

 中途半端な事業規模で固定費を抱えるようなビジネスが一番危険なことがコロナ禍で明白となった。

 ボリュームゾーンを狙ったマスマーケティングは終わり、固定費を下げて単価を上げた特定のマーケットを狙ったニッチ産業がさまざまな業界で主流になる日が来るのかもしれない。

 

西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役

東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員、渋谷109鹿児島など新規開発を担当。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒、1961年生まれ。