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全国生協アンケート!コロナ禍で宅配、店舗の経営環境はどう変わった?今後の課題と強化施策は?

生協宅配大

本特集に当たり『ダイヤモンド・チェーンストア』誌は、独自のアンケート調査を実施し28生協から回答を得た。新型コロナウイルス(コロナ)感染拡大の影響により宅配事業の供給高(小売業の商品売上高に相当)がともに大きく伸長するなか、現場では実際に何が起き、今後、生協陣営はいかなる方向に進もうとしているのか。調査結果からその実態をみていこう。

宅配の利用単価、頻度がすべての生協で増加

 今回、回答のあった28生協の平均登録組合員数は46万434人。最多は約510万人、最小は約1万400人だった。まず、コロナ禍における組合員の新規加入状況では「増加傾向」と回答した生協は全体のうち約7割だった(Q1)。

 前年の調査結果の約8割より低いのは、コロナ禍での需要急増を受けて、一時、新規加入受付を中止した生協もあったことが理由として考えられる。ただし、全体的には増加傾向であり、なかには新規加入者数が前年同期比で5割近く伸びた生協もあった。

生協宅配では、コロナ禍において感染防止の観点から置き配対応が増え、組合員との接点が希薄化していることが課題となっている

 事業展開エリアでの平均世帯加入率は29.85%で、コロナが流行する以前の今年1月と比較して8ポイント(pt)も上昇した生協も見られた。

 Q2のコロナ禍での宅配事業の利用動向では、まず、平均実質利用率(宅配利用登録組合員に占める実質利用者の割合)は27生協平均で84.5%。前年の調査結果と比較して13.6ptも高くなっている。

 次に、利用増加の内訳では、28生協すべてが1人当たりの利用高、利用頻度ともに「増加傾向」と回答した。外出自粛生活で買物頻度を減らすべく生協宅配の利用や注文点数を増やしているとみられる。

 好調なカテゴリーを聞くと、生協が安全・安心にこだわる農産が最多で、そのほか米や冷凍食品といったストック向きの商品、またマスクや衛生用品などの雑貨が上位にあがっている。

 なお、本アンケートでは店舗事業の利用動向についても調査している(Q3)。結果、ほとんどの生協が供給高は「増加傾向」と回答。業績を見ると、対前年同期比で110~120%と2ケタ伸長を遂げている生協が多かった。とくに客単価の増加が好業績に寄与しているようだ。

 おおむね全カテゴリーが好調のようだが、節約志向の高まりもあってか、割高となる総菜やベーカリーよりも、青果や精肉など生鮮品が伸びる傾向にある。

 近年、店舗間競争の激化で不振が続き、宅配事業がそれを補完する構造となっていた店舗事業だが、コロナ禍により一気に息を吹き返したようだ。

Q1 組合員の加入状況について

①平均登録組合員数 46万434人(28生協平均)
最大約510万人/最小約1万1400人
②コロナ禍での組合員の新規加入状況 増加傾向 20
変わらない 4
減少傾向 4
③現在の事業展開エリア内での世帯加入率 29.9%(27生協平均)

Q2 コロナ禍での宅配事業について

登録組合員数は約7割の生協がコロナ禍で「増加傾向」と回答。宅配ニーズの高まりで新規加入希望者が増えた一方、物流量の調整のために加入受け付けを一時中止した生協もあったことから、「増加傾向」の割合は前年調査より減った。利用単価と利用頻度は全生協で増加。コロナ禍で求められた商品・非食品の買場となったようだ。

①サービスの平均実質利用率 84.5%(27生協平均) 増加傾向 25
変わらない 2
減少傾向 0
②利用の内訳 1人当たりの宅配利用高の傾向 増加傾向 28
変わらない 0
減少傾向 0
利用頻度 増加傾向 28
変わらない 0
減少傾向 0

増加傾向の理由

  • コロナ禍で平均実質利用率が83.5%から96%に伸長。利用を促進するべく8月は特価セールを実施した
  • 感染リスクの少ないWEB加入の提案を強化した
  • 販売するアイテム数を絞って物量の増加に対応した
③とくに伸びているカテゴリーは?(複数回答) 農産 8
6
雑貨 6
冷凍食品 5
酒類 5
菓子 4
水産 4
畜産 3
日配 3
生鮮 2
パン 2
加工食品 2

Q3 コロナ禍での店舗事業について

外出自粛生活で内食やまとめ買い需要が高まっていることから、多くの生協で店舗事業の供給高が同110~120%前後で伸長した。基本的に全カテゴリーが好調という声が多い。節約志向の高まりもあり、割高となる総菜やベーカリーよりも、青果や畜産など生鮮素材が伸びる傾向も見られた。

①供給高の動向 増加傾向 19
変わらない 1
減少傾向 0

増加傾向の状況

  • 供給高は3~5月が前年同期比約120%、6~8月が同110%超で推移
  • 直近9月は同110.2%
  • 既存店の多くは供給高が伸長したが、乗降者数が減少した駅構内の店舗では売上が激減した
②利用の内訳 客数 増加傾向 6
変わらない 7
減少傾向 5
来店頻度 増加傾向 6
変わらない 5
減少傾向 7
客単価 増加傾向 18
変わらない 0
減少傾向 1

売上が伸長しているカテゴリー

●野菜、精肉●総菜、ベーカリー以外はすべて伸長●日配、加工食品●菓子など●非食品含む全部門●冷凍食品、高質な肉類

増加傾向の場合、そのために行ったこと

●品切れの削減●ストック商品として精肉の大容量を訴求●消毒など感染防止対策の徹底●料理見本の設置などの食べ方提案●5%還元企画

配送現場の人手不足が6割以上の生協で改善

 次にQ4では宅配利用者の世代別割合について聞いた。すると、40代以降の世帯がほぼ同じ割合で並ぶ結果となった。

 一方、利用が増えた世代では、最多回答は31~40歳だった。コロナ禍は近年生協が取り込みを強化してきた若い世代に宅配サービスを利用してもらう好機になったようだ。

 しかし、同時に61~70歳や51~60歳といった年齢の高い層の利用も増えたため、生協が長年の課題とする「組合員の高齢化」という構造は変わっていない。

 これを解消するべく、WEB広告の強化や、子育て世帯への配送サービスの割引適用など、若い世代を獲得するための施策に引き続き取り組んでいるようだ。

 続いて、「コロナ禍での需要集中で、宅配サービスに影響が出たか」という質問に対しては、9割以上の生協が「出た」と回答した(Q5)。多くの生協で物流現場の混乱や欠品、配送の遅延などが生じたようだ。

 その一方で、近年、深刻な課題となっていた配送現場の人手不足については6割以上の生協が「改善している」と答えた(Q6)。前年の調査結果は約3割だったことを考えると大きく状況が変わっている。コロナ禍で失業者や採用をとりやめる企業が増えたことで、生協の新卒・中途採用希望者が多く集まるとともに、退職者も減少傾向にあるという。

 Q7の宅配事業で今後、強化していく取り組みでは「組合員とのコミュニケーションの強化」に回答が集中した。週次配送モデルの生協は、定期的に顔を合わせることによる組合員とのコミュニケーションを強みとしてきた。しかし現在は、感染防止の観点から置き配対応が増え、組合員との接点が希薄化していることが課題になっているようだ。その対策として、スマホアプリやSNSなどのネットを活用したコミュニケーションツールの開発に動きだしている生協が多くみられる。

 絶好調の生協宅配だが、宅配ニーズの高まりで競合各社も勢力を拡大しており競争は激化している。そうしたなか競合対策を行っているかという質問に「はい」と回答したのは半数未満にとどまった(Q8)。対策を打っている生協では、配送や注文の利便性向上などに取り組んでいるようだ。

Q4 宅配利用者の世代別割合について

利用が増えた世代の最多回答は「31~40歳」。コロナ禍は若い世代に生協宅配を利用してもらう好機となったようだ。しかし同時に高齢者の利用も増えたこともあって、宅配利用者の平均年齢は上昇している生協が7割で、生協が課題とする「組合員の高齢化」に変わりはないようだ。

①宅配利用の組合員の世代別割合(27生協平均) 20歳以下 0.8%
21~30歳 3.5%
31~40歳 14.0%
41~50歳 19.9%
51~60歳 19.0%
61~70歳 19.5%
71歳以上 22.3%
②コロナ禍で利用が増えている世代(3つまで選択) 31~40歳 12
61~70歳 8
41~50歳 7
51~60歳 7
③宅配利用者の平均年齢の傾向 高くなっている 7
変わらない 2
低くなっている 1

高くなっている理由

●65歳以上の新規加入者が多い ●地域の高齢化 ●若い世代への宣伝不足 ●外出自粛要請にしたがい若い世代向けのイベントを中止したため●高齢者の夕食宅配利用の伸長

低くなっている理由

●以前よりも若い世代の加入が増えたため

④若い世代の獲得のために行っていること ●WEB広告の強化 ●生協や協賛企業の商品を詰めた「はじめてばこ」を子供が産まれた世帯へ送付する加入推進策 ●子供のいる世帯へのサービス料割引(妊娠中~未就学児まで)の実施 ●子育て世帯向けのカタログの充実

Q5 コロナ禍での需要集中で宅配サービスに影響が出たか

予測なく受注量が急増したことで、ほとんどの生協では、物流や配送現場がひっ迫。配送の遅延や、欠品、新規加入者の受け付けができないといった状況に陥った。こうした事態をいかに防いでいくかが、今後の生協宅配の課題の1つになりそうだ。

出た 26
出ていない 1

具体的な影響と対応策

●宅配の新規利用受付に遅れが出た ●物流が滞り一部商品で規格変更や遅配が発生 ●受注点数の増加による欠品の発生 ●荷量の増加により物流センターがひっ迫したため、ラインや稼働時間を増やした

Q6 配送業務の人手不足は改善しているか

近年の大きな問題となっていた配送業務の人手不足については、コロナ禍の不況で求職者が増えたことで採用が進むとともに、離職者も減り、解消傾向にあるようだ。一方で、需要増に対して人手の確保が追いついていない生協もある。

している 16
していない 10

改善した理由

●コロナ禍の影響で求人への応募者が増えた ●コロナ禍の不況による退職者の減少 ●新卒・中途採用が進んだため

改善していない理由

●地域の雇用環境が改善していない ●今後の見通しが不透明なため積極的な採用ができない ●配送コースが増加しているものの採用が追いつかない

Q7 配送業務の人手不足は改善しているか

「組合員とのコミュニケーション強化」に回答が集中した。生協がこれまで強みとしてきた組合員との接点が、コロナ禍で希薄化していることに対する危機感を感じているようだ。そうしたなか、デジタル活用による個々のニーズに沿った提案ができる仕組みの構築が進んでいきそうだ。

❶組合員とのコミュニケーション強化 21
❷注文のしやすいシステム開発 11
❸年齢層に合わせた提案やカタログの作成 9
❹配送の利便性向上(配送回数・受け取る時間帯や曜日・受け取り拠点の拡大など) 5
❺取り扱い商品のカテゴリー拡大 5
❻独自に開発する商品を増やす 4
❼配食や見守りなどの新規サービス 1
❽そのほか 1

理由と具体的な取り組み(丸数字は上記項目番号)

❶コロナ禍での置き配の増加で、組合員とコミュニケーションが図りにくくなっているため ❶個々のニーズに沿った対応の強化が必要。CRMシステムを活用した取り組みを検討中 ❷WEB注文サイトの改善 ❷注文用スマホアプリの開発 ❷WEB活用による対面以外での加入方法の検討 ❺内食、健康志向、プチ贅沢などのニーズに応える商品の拡充

Q8 競合のECやネットスーパーが成長するなか対策を打っているか

競合のECやネットスーパーへの対策は打っていない生協が半数以上だった。理由としては生協組織の定期配送と、民間事業者の即時配送では事業モデルが異なるとみている意見が多かった。一方で対策として配送や注文の利便性向上を積極的に推進している生協も少なくない。

はい 12
いいえ 14

「はい」の場合の具体的な取り組み

●WEBでの受注の推進 ●配送手数料の見直し ●配送員と組合員とのコミュニケーション強化 ●都市部での夜間配送対応 ●新築マンション等に置き配ができるように不動産会社へ折衝 ●アプリやLINEなど注文チャネルの拡充

「いいえ」の場合の理由

●ECやネットスーパーの大きな進出がないエリアのため ●優先順位が低いため ●競合のECとはビジネスモデルが異なるため ●従来の方針からブレずに進んでいく

課題は「デジタル活用」「物流・配送効率化」

 最後に、今後の成長戦略についての質問では(Q9)、今度の成長のために強化する事業に「宅配事業」を挙げる生協が多かった。コロナ禍で宅配サービスの利便性にあらためて注目が高まったこともあり、生協陣営が宅配事業を強化する動きは加速していきそうだ。

 宅配事業の強化策としては、「WEB注文への対応」や「物流・配送の効率化」などが多くあがった。サービスの利便性向上による若い世代を中心とした新規利用者の獲得と、物流や配送の効率化による収益性の向上という両面からの対策を進めていくと考えられる。

 一方で主な課題として挙がったのが、物流センターのキャパシティや処理能力不足と、注文や決済手段におけるデジタル活用だ。とくにデジタル活用は生協が遅れをとってきたといわれる領域で、本腰を入れて取り組んでいくことが予測される。

 さらに今後予測される景況感の悪化への対応では、商品力の強化やポイント還元策などで低価格を訴求する方針の生協が多く、コロナ特需を受けた生協陣営が一気に競争力向上に動き出している。

Q9 今後の成長戦略

コロナ禍で、宅配・店舗ともに利用が伸長するなか、物流の混乱や在庫の確保など、不測の事態における対応への課題が浮き彫りとなった。今後の対策では、デジタルを活用した受注システム構築や利用販促策に取り組む方針の生協が多い。また景況感の悪化に対し、ポイント還元をはじめ低価格訴求にも注力するという声もあがっている。

①今後、強化していく事業(複数回答) 宅配事業 26
店舗事業 12
その他事業(福祉、共済など) 3

理由(丸数字は上記項目番号)

❶宅配事業が供給高全体の98%を占めているため ❶事業エリアがオーバーストア状態のため宅配を強化 ❷組合員の暮らしに貢献するには店舗事業も不可欠 ❸人口減、高齢化社会で成長するため

宅配事業の具体的な方策

●WEB注文サイトの強化 ●接触機会が減少するなかでの組合員との関係づくり ●アフターコロナを見越した経費バランスの見直し ●組合員拡大と商品の充実 ●物流のコストダウンとスピードアップ

②コロナ禍で明るみになった課題 ●物流機材の不足●物流センターのキャパシティが限界を迎え配送拠点への納品が遅れた●メーカー商品の欠品の発生●宅配ではWEB加入システム、店舗ではキャッシュレス決済など、非接触ニーズへの対応の遅れ●チラシやポイント施策を中止したことを機に、これら施策の費用対効果をあらためて見直すことになった

今後の対策

●職員が安心して働ける環境の整備 ●物流、配送拠点の強化 ●物流機材の拡充 ●チラシの最適化 ●OCR注文書からWEB受注への移行を進める ●動画による情報発信 ●コロナ禍での計画欠品数が適切だったかの再検証 ●本部機能の分散化やリモートワークの推進

③今後、予測される景況感の悪化への対策

宅配事業

●デジタル化 ●利用メリットの見直し ●小額低頻度利用者へのサービス見直し●スマホやSNSを活用した組合員とのつながりづくり ●クリスマスや年末の事前予約の検討 ●新規利用者拡大 ●ミールキットなどの品揃えの強化 ●ポイント還元策の実施

店舗事業

●商品力・サービスの強化 ●品揃えや接遇の向上など基本の徹底 ●キャッシュレス決済の拡大 ●コロナ禍で増えた利用者の維持・定着 ●他店との価格面での差別化

 

●アンケート回答生協(50音順):エフコープ、おおさかパルコープ、こうち生協、コープあいづ、コープいしかわ、コープおおいた、コープデリ連合会、コープながの、コープみやざき、自然派くらぶ生協、生協あおもり、生協えひめ、コープしが、生協しまね、生協ひろしま、生協にいがた、東都生協、とくしま生協、鳥取県生協、富山県生協、パルシステム埼玉、パルシステム千葉、パルシステム東京、福井県民生協、ユーコープ、みやぎ生協、よつ葉生協、ララコープ