メニュー

日本のチェーンストアの育ての親、日本リテイリングセンター渥美俊一が「釣りを最高の接待」としていた理由

ダイエー、イトーヨーカ堂、イオン、吉野家、すかいらーく、日本マクドナルド…… 日本を代表するチェーンストアの創業者、経営者が理論的支柱としてその拠り所としたのが日本リテイリングセンター(通称ペガサスクラブ)。ペガサスクラブを率いた同センターチーフコンサルタントの渥美俊一先生は、日本のチェーンストアの育ての親と言ってよい。今回は、渥美先生が語った、釣りにまつわる小咄を紹介したい。

 

釣りの仕方には人格が表れる 

日本リテイリングセンター チーフコンサルタントの渥美俊一氏

 ルーレットや麻雀などのギャンブルやテニスやゴルフのスポーツなど、個人のプレースタイルに人格が表れてしまう遊戯・競技は少なくない。

 日本リテイリングセンターチーフコンサルタントの渥美俊一先生は「“釣り”の仕方には人格が現れる」と言っていた。

 だから、コンサルティング契約を結んでいる企業のトップを時折、釣りに誘った。

 釣行は、レクリエーションとしての一面もあったが、もうひとつの大きな目的は、“人格観察”である。

 たとえば、入れ食い状態でバンバンと釣果があがれば、各人やることには大きな差が開かない。

 けれども、釣りは大自然を相手にしているので、まったく釣れないことも多い。その時にどんな対応をするのかをじっくりと見ている。

 釣れないからと、早々に諦めてしまう人、同行の部下に八つ当たりする者、場所を変えるなど工夫をこらす者、その場でひたすら継続する者――。釣りとの向き合い方には個人差がかなり出るのだという。

 取り組み姿勢があまりにも不真面目なので、「この人、経営者として大丈夫かな?」と三角マークをつけていたら、後日、その企業がどんどん傾いていったなどということは一度や二度ではない。 

 たかが釣りなのではあるが、そうとも言っていられない側面もある。

釣りを通した資本提携も その背景には?

 渥美先生は、釣りのなかでも「サーモンフィッシングこそ接待の王様」と言っていた。

 川岸に宿を取り、そこを拠点にボートでサーモンフィッシングのポイントに繰り出す。「ゴルフよりも遥かに充実しているし、会話もたくさんできるのでサーモンフィッシングで接待する欧米のエグゼクティブは少なくないんだ」(渥美先生)。

 そのメッカはカナダと遠いが、コンサルティングをしている企業のトップたちを海外に連れ出す機会も少なくなかった。

 ロッジから2人1組でボートに乗せる。大自然の絶景を前に同じペアが2日間も顔を合わせ続けると変化が起きてくる。

 2人とも釣れない場合、初日と2日目と釣れる人が異なる場合、2日間とも同じ人が釣れる場合…いずれの場合も、2人の間には一種の仲間意識が生まれるのだという。

 先生は「このことが契機になっているかどうかは証明できないので何とも言えないが…」と前置きをしたうえで、「帰国後に同じボートに乗った2人の企業が、業務提携や資本提携に走ったケースもあった」ことを教えてくれた。

 ウォルマート創始者である故サム・ウォルトンとPG社の営業担当副社長(当時)であったルー・プリチェットがスプリング・リバーでの2日間に及ぶカヌー下りを通じて、戦略的同盟関係を構築したことを彷彿させる。

 しかし、もし、提携促進を意図して、乗船者2人の組み合わせを決めていたとしたら――。

 

 “釣り”は先生の最高の接待ということができるかもしれない。