新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の問題は、4月の緊急事態宣言後、その後のGO TOキャンペーン論争など、気付けはもう半年近くが立とうとしている。いまだに完全な収束の目処は立っていない中、Afterコロナはすぐ来ることはなかった。しかしこのWithコロナ時代はある意味、コロナをきっかけにDX(デジタルトランスフォーメーション)と言う言葉が浸透し、オンラインとオフラインが溶け合う新しい日常へと急激なシフトが進んだと言えそうだ。
これまでコロナ禍に緊急事態宣言前の3月に寄稿した過去2回の記事(前編・後編)では、これからますます小売業界の「本質的価値」と向き合う時代になっていくことを言及した。そしてグローバル視点から見た小売の状況と比較することで、VUCA※(ブーカ)時代の「小売と消費のカタチ」について考察を進めてきた。そして原稿の最後には「小売業界を中心に企業が手を取り合って、日本経済を元気にしていこう」というメッセージを発信した。
そしてその後、こうして記事としてメッセージを発信するだけで良いのだろうか、と内省する機会があった。そこで実際にこのコロナ禍で、実際の対話と行動を通じてこの想いを体現するべく「消費の現場」を応援するソーシャルアクションとしてTMJP2020(チームジャパン2020)の取り組みを行なってきた。今回はその活動を通じて見えてきた学びから、小売業界のこれからに繋がるヒントを語っていきたい。
「安全な消費」はどうすれば、かなえられるか?
そもそもプロジェクト開始時の問題意識は「コロナ死」と「経済死」をいかに防ぐかという問いからだった。私自身も所属している株式会社フェズのミッションは「『消費』そして『地域』を元気にする」である。そこで今回のコロナのタイミングで、消費の現場が疲弊する状況を見て、経営陣や社内のメンバーとともに、今何かできることはないかと自社のミッションについて深く考えた。しかし当時はより安全が求められていたため、単に消費を応援するアクションに踏み切れないジレンマを感じていた。そこでまずは課題の質と問いの質というマトリックスで考えを整理してみた。
こうして見るとコロナが起きるまでは小売業界は「いかに消費を活性化するか」と言う軸において各社競争してきたことがわかる。人を動かすイベントやCM、SNS施策などこれまで様々なマーケティング施策がおこなわれてきた。しかしコロナが起きた際、皮肉にも人を動かす優秀な施策であればあるほど3蜜などの「コロナ死」へ寄与してしまうと言う結果が生まれてきた。そこで「消費」よりもまずは「いかに『安全』を活性化するか?」の方がコロナの初期の食い止めにおいては重要なテーマとなってきていた。そこから生まれたのが、4−5月に始まった「ソーシャルディスタンス」であり「Stay Home ムーブメント」であった。しかしこの問いも、Withコロナ時代が長期化していくと、経済を停滞させ倒産や失業を生み出してしまう「経済死」の問題を後押ししてしまった。そこから「いかに経済と安全を両立する『安全な消費』を実現させるか?」と言う問いかけが生まれ、5−7月の間、我々が今、向き合うべき本質的な問いと捉えて活動をスタートした。
こうした課題意識をもとに小売、飲食、観光、美容、イベント、広告、教育、人材など「小売の現場」の有志が横断的に繋がって知恵をシェアしあうソーシャルアクションTMJP2020(チームジャパン)プロジェクトを5月ー8月の約3月ほど行ってきた。これまでスタートアップから大企業まで約100名近くの有志メンバーを中心に、消費の現場を応援する5つのプロジェクト(デザイン、スクール、コーチング、ファインド、フェス)に発展した。今回「消費の現場」のプロフェッショナルによる連続講義の中で見えてきた知見と重ねあわせながら、「安全な消費」を実現するヒントをシェアしたい。
TMJP2020プロジェクトの全体像
安全な消費を実現するために消費の現場でどう行動していくべきかを以下の5つのステップを通じて説明してゆきたい。
1:消費の原点に立ちかえり、自社のビジョンを「みがく」こと
2:生産性を高めるスキルと自助成長マインドセットを「学ぶ」こと
3:消費の現場で働く一人一人が内省し内発的動機を「見つめる」こと
4:異業種へ越境し、共にイノベーションを起こす仲間を「見つける」こと
5:新時代の生活様式を目指すべき未来として社会に発信し「願う」こと
1:消費の原点に立ちかえり、自社のビジョンを「みがく」こと
もともと当プロジェクトは消費の現場で危機に立たされたお店を応援するために「安全な消費」を啓蒙するポスターを貼るプロジェクトとして始まった。実際にポスターを制作し、小売店や飲食店に持っていくと様々なフィードバックをもらった。例えば「ポスターもありがたいけれど、実はこのご時世そもそもどんなメッセージをSNSで発信したら良いかわからない」「自分たちの業界だけでは打開策がない。他の業界が今どんな安全な消費のための工夫をしているのか知りたい」など生の声を聞くことで、より本質的な課題が見えてきた。つまりこのデザインアクションはポスターを貼ることが目的ではなく、ポスターというコミュニケーションツールを通じて、消費の現場の声が集まり、ミッションを磨きあげるための土台として機能したのだった。
上記のデザインプロジェクトの学びを踏まえ、最初にシェアしたいのは、電通エグゼクティブ・クリエイティブディレクターの並河 進氏に教わった「困難な状況を『逆に』と捉えると、新しい視点やアイデアが生まれてくる」という視点だ。コロナで人と会えなくなったと考えるか、逆にオンラインで時間場所を超えて会うことができるようになったと考えるかで、その後の可能性は変わる。
実際、今回のプロジェクトは東京だけでなく大阪、京都、長野、石川などの地方を始め、アメリカ、オランダなどからメンバーが参加してプロジェクトを進めてきた。またコロナ禍の新しい生活様式から次の消費の形が生み出せるのではないか?と前向きに向き合うこともとても重要だ。また電通のコピーライターの阿部 広太郎氏からは「そもそも『安全な消費』の定義について深く考えてみては?」という問いをもらった。そこで早速、消費(Consume:コンシューム)の語源について調べてみた。Consumeとは、Con(=完全に)+ sume(=取る)であり、コンソメスープの「コンソメ」と同じ語源を持つ。つまりコンソメスープとは、野菜のうま味を「完全に取り尽くした」スープだと言う。こうした視点で考えると消費は無駄なく価値が循環することこそ重要なのだという視点が浮かび上がってくる。大量生産・大量消費は無駄が多く、きちんと価値が循環することサーキュラーエコノミー的な経済概念こそが大事だということに気付かされた。このように、デザインやポスター作成する過程で、目指すべきビジョンは磨かれていくことを経験した。
また同じく、ビジョンを固めていくという視点では、日本の工場発アパレルブランドを手がけるファクトリエ代表の山田敏夫氏から「経済をつくるのは、参加人数よりも想いの量。他人との比較でなく自身の「あり方」から始めよう」というアドバイスも頂いた。
今回の消費の現場を応援するソーシャルアクションを通じて学んだことは、全てはビジョンから始まるということだ。小売業界も日々の苦境に立たされると、どうしてもビジョンドリブンではなく、ただ目の前の作業に追われてしまう。それでは、どうしても現場の指揮が下がってしまう。ある意味、コロナをきっかけに再編成されるべき時だからこそ、もう一度小売業界の本質に立ち返り、やるべきことをきちんとやり抜くことが大事になっていくのだろう。
次回:「消費の現場」を応援するソーシャルアクションに学ぶ、消費の現場における対話の3つのカタチ
堤 藤成
株式会社フェズ クリエイティブ・ディレクター/PR/コーチ
新卒で電通に入社し、コピーライター、デジタルプランナーとして、様々な小売・メーカーの店頭プロモーションやブランディング、人工知能コピーライタープロジェクトなどの新規事業等を担当。その後マレーシアのELM Graduate Schoolにて、MBA(経営学修士)取得。現在は『「消費」そして「地域」を元気にする。』をミッションに小売業界のデジタル革新を担う株式会社フェズに転職し、クリエイティブ・ディレクションと広報に従事。オランダ在住のリモートワーカーとして、EU圏からアジア圏まで、海外リテイルのトレンドについてもリサーチを進めている。