メニュー

トライアルが福岡県宮若市と連携して「街づくり」に着手する理由

トライアルホールディングス(福岡県)が、福岡県宮若市と連携協定を結び、同市内にリテールAI技術開発拠点「リモートワークタウン ムスブ宮若」を開設することを発表した。長年「小売とITの融合」を追求し、直近ではAIカメラやスマートカートを導入した「スマートストア」を九州および関東で展開し注目を集めているトライアル。今回新たに「街づくり」という壮大な構想を明らかにした背景とは。

トライアルグループのAI開発拠点を開設

トライアルは福岡県宮若市と連携協定を締結し「リモートワークタウン ムスブ宮若」を開設する。写真左からトライアルの亀田晃一社長、宮若市の有吉哲信市長

 トライアルホールディングス(以下、トライアル)は9月18日、福岡県宮若市とリテールAI技術開発拠点「リモートワークタウン ムスブ宮若」(以下、ムスブ宮若)の開設等に関する連携協定を締結した。

 ムスブ宮若はトライアルと宮若市が協業する「まちづくりプロジェクト」に位置付けられ、市内にある公共施設や商業施設の跡地を活用し、トライアルグループのオフィスや開発拠点、店舗、ホテル、飲食店などを順次開設していく。

ムスブ宮若に開設予定の施設(トライアル発表資料より)

 まず、2021年5月末に、廃校になった旧宮田西中学校と旧吉川小学校を改装し、トライアルグループのAI技術の開発拠点を開設する。ここにはグループ傘下のRetail AI(東京都)の開発担当者を中心に、グループ内でAI研究を担う社員が集まる予定だ。

 21年6月には、同じく廃校となった旧笠松小学校の跡地に、「ファッションビレッジ」を設置する計画。ここではトライアルではこれまで手薄となっていたアパレル・ファッション領域において、モノづくり・販売手法・接客に関する新しいモデルづくりを、最新のテクノロジーを活用しながら行う。トライアルの亀田晃一社長は、現時点では具体的な取り組み内容については決まっていないとしたものの、「間違いなく取り組むことになるのはライブコマース。デザイナーやパタンナー、インフルエンサーに集まってもらいながら、外部と連携してファッションの発信基地をつくりたい」と言及した。

新たな「スマートストア」を市内に開業 農家レストラン、オーベルジュ、温泉宿なども順次開業!

 実店舗に関しては21年9月中旬に「スーパーセンタートライアル宮若店(仮称)」を開業する。トライアルが近年展開している「スマートストア」としての出店だが、亀田社長は「市の協力も仰ぎながら、ほかの店舗ではできないような実験もしていきたい」として、ドローン配送や自動走行実験など新たなテクノロジーの実験拠点としても運用する考えを示した。

 さらに、市内にある農産物直売所「ドリームホープ若宮」について、22年3月をめどに旧吉川小学校のグラウンドに移設、売場を拡大して開業する。同所はトライアルと宮若市による共同運営となり、トライアルが持つ「リテールAI」に関する知見も取り入れられることになる見込みだ。

温泉施設「虎乃湯」の外観イメージ(トライアル発表資料より)

 また、同じく旧吉川小学校の体育館を改装し、「農家レストラン 『グロッサリア』」を22年3月ごろに開業。隣接するドリームホープ若宮で取り扱う地場の食材を使った料理を提供する。さらに21年4月ごろには、オーベルジュ「颯香亭」、温泉宿「虎乃湯」「古民家neri」が一体となった複合宿泊施設を市の研修施設の跡地に設置する計画だ。

 これらの取り組みに伴い宮若市に転入することになる、技術開発者や店舗従業員向けに、21年4月末には旧吉川幼稚園の跡地に126戸からなる従業員寮も開設する。

なぜ今「街づくり」に注力?

 まさに「街づくり」と称して相違ない壮大な取り組みだが、気になるのはなぜトライアルがこのタイミングで同事業に着手したかということだろう。これについて亀田社長は次のような見方を示した。 

 「コロナもあって、時代が大きく変化している。もともと小売業は大量生産・大量販売でチェーンストアを展開して成長してきた。しかし、(そうしたビジネスモデルは)いよいよ変わらないといけない。これまでは「モノ」をどう届けるかだったが、これからは「人」を中心に考え、”住まう街”をつくるということにチャレンジしていく」

 「今後はサステナビリティ(持続可能性)も大切になってくる。われわれはこれまでも居抜き出店を行ってきたが、今回も(宮若市内の公共施設などの)跡地を譲り受けてリノベーションしていく。日本は建物の価値を大切にしてこなかった。懐かしさみたいなのも残しながらデジタルを融合させていく」

 「リテールAI」を標榜し、店舗・小売ビジネスのデジタル・トランスフォーメーション(DX)を先頭を切って推し進めてきたトライアルのイメージからすると、亀田社長の発言内容はやや異質に思えるかもしれない。しかし、コロナ禍で人々の働き方や生活スタイル、価値観が大きく変わるなか、トライアルという1つの企業・グループの枠組みを外して、外部企業や一般消費者とより近いところでコミュニケーションを取りながら既存のビジネスモデルに変革をもたらす――その取り組みのベースとなるのがムスブ宮若というプロジェクトであり、場所なのだろう。

 もっとも、今回のプロジェクトがトライアルの店舗や商品、あるいは企業そのものに具体的にどのような変化を与えることになるのかはまだ見えてこない。とはいえ、AI開発というトライアルの中枢機能を宮若に置くことから、トライアルにとってムスブ宮若は今後の成長を大きく左右する重要なプロジェクトであることは間違いないだろう。小売業界内外からその動向に注目が集まること必至だ。