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ウィズコロナ時代のショッピングセンター経営7 ネット時代を生き抜く戦略とは

ウィズコロナ時代のショッピングセンター(SC)経営第7回は、ECが台頭するなかでSCが生き残る戦略について提示する。現在多くのSCが行っているのはあくまでも対処療法、本当の意味でのニューノーマルにおけるSC像を解説していきたい。

rfranca / istock

不要不急消費の減退

 今、リアルの売上が冴えない。20204月、コロナ禍により国民は外出を自粛し、生活に必要の無い不要不急消費は低迷、緊急事態宣言解除後も食料品や医薬品に比べ衣料品など買回り品の売上は戻らず、自宅での生活時間が長くなることで買い物はECBtoC電子商取引)の利用が一層増加した(図表1[1])

[1] 出所:経済産業省商業動態統計速報-2020年7月分-

 

 しかし、このECの伸びはコロナ禍によって始まったものではなく、通信販売がインターネットの普及によってECに置き換わり、2008年のスマホの登場により利便性が向上し、急速に拡大したことがその要因である。

 今やその規模は、32兆円のSC売上高に対し19兆円と年々迫ってきており、このままでは抜かれることも十分に予想される(図表2)[2]

 そのためSC事業者は「リアルの売上が下がったのはECのせいだ」と売上低下の原因をECに求める。

 しかし、消費額に占めるECの割合は7%程度に過ぎず、その7%のうち、SCで取り扱っている商品すべてがECに置き換わっているわけでは無い。

 したがってECの伸びをSCの売上減少の原因とするのは短絡すぎだろう。

[2] SC売上高:日本SC協会、EC売上高:経済産業省電子商取引調査

ECに怯えるSCとネット流通の捉え方

 では、なぜ、SC事業者はECの伸びに怯えるのか。それはSCの収入がテナント売上高に連動する売上歩合賃料の形態を採用しているからに他ならない。

 テナント(店舗)売上の低下はSCの賃料収入の減少となるため消費がECに移ることを脅威と感じる。

 しかし、SCEC同様、モノを流通させるプラットフォームであれば利便性の高いECに購買が移るのは当然と言えば当然である。

 このECの伸びという社会変化に今後どう対峙するか、それをECの成長に従って見ていくと次のようになる。

【第一段階】 
 過去「アパレルはネットに移らない」と言われていた。アパレルは実物を見てフィッティングをしないと買わないものという固定概念のより発せられたものだが、その当時は、リアル店舗に対してネット流通の影響は限定的と考えられていた。

【第2段階】
 2008年のスマホの登場によりECは急速に伸びていく。その状況を見たSC事業者は、「リアルvsネット」と対立軸として捉え、売上を奪われる脅威としてECを受け止めるようになる。

 雑誌などもリアルとECの強み弱み、メリットデメリットなどを整理した記事も多く対立軸として扱うことが多かったのがこの時期である。

【第3段階】
 徐々にネットでの流通がモノだけでは無く、SNSなどにより集客機能を持ち始めたことからO to(Online to Offline)やクリック&モルタルと表現し、ネットからリアルへの誘導を考え始める。しかし、これらの取り組みは残念ながら奏功することは少なかった。

【第4段階】
 いよいよネットの伸長を無視できなくなり、「ネットとリアルの融合」や「オムニチャネル」を考え始め多くの施策を実施した。しかし、この段階でもまだリアルとネットは別個のものとして捉えられていた。リアルとネットは併存するという理解であるが、残念ながらリアルとネットは併存ではない。

 では、リアルとECを今後どうやって捉えたらいいのか。筆者は、「リアル店舗はネットの一部」になると考えている。(5段階)

【第5段階】 
 考えてみてほしい。今、商品が生産され消費者に渡る過程で介在するSCMSPAECSNS、これら全てネットの中で動いている。発注から生産、物流から在庫、販売からアフター、すべてがデータとしてネットの中で完結する。

 この時、リアルの店舗の役割は、ネット流通の中で消費者にモノを受け渡す場所という一機能に過ぎないのである。

ではSCはECにどう対応すればいいのか?

 SCの運営現場では、テナントが自社ECで販売した商品を店舗で渡すことを禁止するSCが多い。テナントが店舗内で自社ECを案内することを禁止するSCも少なからずいる。

 しかし、そんなことをしていてはそのうちお客様はSCへ来なくなるだろう。流通業は、お客様へ進化した利便性を提供することで成長してきたし、今もそれは変わらない。

 ところがテクノロジーの進化に着いていかないばかりかそれを回避・阻止することで過去のビジネスを継続しようとするSCも多い。

 相変わらず、「接客ロープレ、コミュニケーション、店舗巡回、ヒアリング」とアナログな活動を繰り返す。これらは否定されものではないし、一定の成果は出るだろう。

 しかし、SC事業は、テナント売上に依存するビジネスを続けている限り、ECを敵とみなすしかない。ネットを敵と見ている限りますますお客様の足は遠のく。

 SC事業者は、店舗の機能がネット流通の一部になることを真摯に受け止め、その上でお客様へ利便性と価値を提供する。

 この活動こそがネット時代に生き残る戦略ではないだろうか。 

 

 

 

西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役

東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員、渋谷109鹿児島など新規開発を担当。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒、1961年生まれ。