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アパレル商社復活の道-1 「サステイナブル経営」が商社を殺す訳

「今、アパレル業界で最も不要なのは繊維商社だよね、河合さん」
先日、企業内講演で、あるアパレル企業の社長に言われた。私は、首を縦に振らなかった。私は確固たる商社活用論、そして、商社こそがアパレル業界の救世主たり得るという信念があるからだ。私の30年にもおよんだ、商社復活のための戦略づくりの旅。この成果
がいかなるものか、アパレル業界の様々な課題を商社の視点でみることを含め、全3回に渡って解説していきたい。初回は、死の淵にある商社の現状をえぐる。

golubovy / istock

死にゆく商社と生き残る商社を分かつもの

 冒頭のように、アフターコロナの世界で最も「不要」な業種として繊維商社、あるいは、商社の繊維部門だといわれだした。今や繊維商社は変わり果て、過去の栄光の影は見えない。かくいう私も2000年、商社繊維部門の将来不安を感じ、なんとか商社を救済できないかとコンサルティング会社に転職した

 世の中はコロナショックで、アパレル企業の余剰資金は枯渇しはじめている。繊維商社の客先であるアパレルは「死に体」となっており、新規仕入れ (商社にとっては売上) は半分以下だ。今、アパレルは2020年に仕入れたS/S(春夏)商品を、二束三文で売り切ることで精一杯。不安を抱えた秋冬商品を従来どおり仕入れる余裕など資金面でも戦略面でもない。6月は「リベンジ消費」などといって、今まで真面目に巣ごもりしていた消費者が街へ繰り出したが、「第2波」到来でそれも長続きしないだろう。いずれにおいても、商社の売上を戻すほどには回復しないというのが、大方の見方である。

サステイナブル経営で、
なぜ商社が窮地に追い込まれるのか?

 世の中では「サステイナブル経営」という言葉がバズワードとなりつつある。商社も思い出したように「リサイクル素材」などを打ち出しているが、これは自己矛盾を孕んでいる。なぜなら、大局的にものを見れば、新規素材を使って過剰供給をしているか、リサイクル素材をつかって過剰供給をするかの違いであり、なんらサステイナブルでもなければ資源の有効活用でもないからださすがに、アパレルの「売上至上主義」にも変化がおきてきたため、今後アパレルの仕入は下がり続け、また、直貿と呼ばれる商社飛ばし(商社の売上を下げる)が拡大しており、商社の売上はますます下がり続けてゆくことになる。

 なんとかS/Sを乗り切ろうとしているアパレル、その次に破綻の恐怖が襲ってくるのは商社である。なぜなら、4〜5月の初夏商戦時期に店舗閉鎖によりアパレル業界は危機的状況に陥ったといわれている一方で、S/Sの仕入れ(商社にとっては売上) は、満額アパレルに納品されていたので、商社はS/Sについては痛くも痒くもなかった。だが、上記の通りアパレルはFWの仕入れを極端に抑えているし直貿を拡大しているため、商社の売上は激減するからだ。
 実は、その兆候はすでに現れており、私が提唱する商社2.0 (投資でアパレルと垂直統合をする戦略)、および、商社3.0 (左記に加え、デジタルをアパレルに提供する)に業態変換できていない商社は壊滅的な打撃を受ける可能性が高い。

 そもそも、サステイナブルというのは、地球・自然との調和であり、リデュース、リユース、リサイクル、の3Rが基本思想の根底にある。一方、商社のKPI(重要経営指標)は今でも売上であり、粗利は一桁台という世界でも珍しい超ハイリスク・ビジネスモデルだ。余談だが世界の株式市場で商社が評価されたことは過去一度もない商社のPBR<株価純資産倍率>は、巨大商社であっても過去から1倍を超えたことはない)。

 この超売上至上主義ともいえるKPIは、ドラマ「不毛地帯」にあるように、焼け野原となった第二次世界大戦後の日本を復興させる立役者となった時代では有効だった。しかし、成熟社会である現代では、むしろ「致命的自己矛盾」ともいえる欠陥を孕んでいる。だから、商社は変わらねばならないのだ。超売上至上主義のビジネスモデルにおいては、ときに「不要な在庫」でさえアパレルに「押し込む」こともあり、リデュース(減らす)とは対局にある。

 ユニクロクラスの大企業であれば、控えめに仕入をしても、40ft (フィーター:20フィーターの倍の貨物が入る輸送コンテナー)を数十本でまとめられるだろう。しかし、ユニクロ以外のアパレルの発注など、小口のカートン数個という単位である。私などは、商社時代、アパレルの仕事が遅い責任を負わされ、香港(当時は広東省での生産が多かった)から、幾度も「人間輸送」をやらされていた。時には、全く関係のないファーストクラスの乗客(ファーストクラスは荷物を山のように持ち込める)に「カートンを持ってきて欲しい」と香港の空港で頼み、運んでもらい、通関税まで支払ってもらったこともある。働き方改革も何もあったものではない。会社には、香港から帰国する人間のリストが貼られ、間に合わない貨物は「ハンドキャリー」といって、手でバルク商品をもって往復するのが当たり前になっていた。たった3枚のサンプルを運ぶことだってあった。今では、サンプルの修正など3D CADでやるのが世界の常識だが、現物をみないと気が済まないアパレル企業の場合、今でも場合によれば、当時ほどではないにせよ、似たようなことをやっている。

 現実は、仕入の絞り込みと過度なQR(Quick Response) によって、日本のアパレルの調達物流は必要な商品をCFS (コンテナフレートステーションの略、コンテナーをばら売りし、小さな単位で積むことをCFSという)で積むのがせいぜいで、時にクーリエ (FedexやOCS <一般人が使う国際輸配送ドアトウードア・サービス>という最も高価な輸配送を使って商品を積むこともある。したがって、真のサステイナブルビジネス実現に不可欠な「二次流通市場」(アパレルが市場に出回っている余剰な自社ブランド商品を買い取り、再プレスして販売する)ができあがれば、商社は売上が激減してしまうのだサステイナブル経営だと叫んでいる商社の人は、素材をリサイクルにした程度で、サステイナブルは実現しない。サステイナブルの行き着く先には、このような現状が待っているという危機感をもっているのかと聞いてみたい。

 

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二次流通市場が大きくなれば、商社は生きられなくなる

 私は、この「二次流通市場」を少子高齢化が進む「子供服」からやるべきだと思っている。もはや、1カップルあたり、平均で2人以上の子供は日本では産まれない。ならば、これまで家庭内で姉から妹へという服の流れを、異なる家族間でできるようにすればよい。メルカリがそういう利用のされ方をしているが、私は、アパレル自身がメルカリがやっている二次流通を率先して作るべきだと思う。

筆者はアパレルの二次流通市場は子供服からスタートしたら良いのではないかと考えている(Mukhina1 / istock)

  子供の身長は毎年10cmも変化する。「6ポケット」という言葉がある通り、子供服を毎年買う人は、おじいさんやおばあさんで、ギフト需要がほとんどなのだから、毎年新商品ばかりを販売していたら大量に在庫の山となり、メルカリや在庫買取業者が儲かるだけだ。ならば、子供服アパレルから引率して仕入を半分以下に激減し、リユースをやり結果的に資源のリデュースをするのである。この流れは、やがて成人に広がり、そして、日本中に広がって広範囲な「二次流通市場」が形成されるだろう。

 そうなれば、経済が元に戻っても、新規仕入以上に日本中の余剰在庫を回流させて、アパレルが自社ブランドの買取事業を本格化させることでブランド価値を下げず、再利用できる。これを商社にやらせると、どうしても「売上拡大」の呪縛から抜けられず、せいぜい、ポリエステルのリサイクル (7月12日の日経新聞) で、大量生産、大量販売につないでしまうわけだ。私は、こうした取り組みは一定の評価はできるも、本当の意味でのサステイナブルとはいえないと思う。なぜなら、素材がリユースされただけで、完成品の過剰在庫の問題解決にはなっていないからだ。つまり、サステイナブル社会では、根本的に商社事業モデルの構造を変えなければならないのだと思う

 加えていうなら、今のアパレル不況は、日本の政治・政策と無関係ではない。私が思うに、服のような嗜好品が売れない根本的な理由は社会不安にある。実体経済の弱体化に対し、本来は日本が目指すべき新しい産業構造の転換を企てなければならないのに、そのような成長戦略があいまいなままで金融政策で帳尻をあわせ、株価を上げて束の間の喜びを感じさせ、あたかも経済が回復したと錯覚させただけだと言えないだろうか。

 今の若い人は将来に対する展望をもっておらず、自分を着飾ったり贅沢品を買ったりする余裕もないし、その興味も無い。アパレル商品、とくに、ファッション商品というのは、明るい未来が待っていれば消費が発生するが、未来に展望が持てなければ人は服を買わなくなる。これは、政治問題なのだ。結果、ごく一部、それもコンマ数パーセントという富裕層だけが高価な衣料品を買い、あとは、子育てと家のローン、そして、毎年上がる一方の税金で貯金もできない状況になっている。

 結果、アパレル商品はますます売れなくなっている。にも関わらず、AI (人工知能)などを使えば余剰在庫の破棄問題が解決するとばかりに、「売上が下がるのは、予測があたっていないからだ」と考え、私が、幾度も問題解決の処方箋がズレていると指摘をしているQR を昔の教科書に書いてあるという理由だけで乱発し、発注はますます細切れとなり、商社はミニマムロット(素材や商品のこれ以上少なく発注できない生産ロット)を吸収しきれなくなり、そのオーバーコストは工場の研究開発費となっているか、商社との口頭約束になっているなど、いずれにおいてもバリューチェーン全体のコストを押し上げているわけだ。

 その結果、アジアのあちこちに、付属(表生地以外のアパレル商品に必要な資材)、生地、糸などの簿外在庫(口約束で約定をいれた帳簿に載っていない在庫)が散らばっている。数年前、徹底的にバリューチェーンを「見える化」したところ、なんと、1枚1円もしない下げ札(タグ)の2000万円分の簿外在庫も見つかった。その顛末は、担当者が逃げてしまい、その付属業者さんから「どうにか引き取ってくれ、約束が違う」と泣きつかれたこともあった。こんなことは日常茶飯事だ。こうしたドタバタ劇は決して表にはでないが、これが「ものづくり」の実態であり、「変われない商社」の主たる仕事なのである。

 

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プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)