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日本のアパレルの半数が消滅!?コロナではなく支離滅裂な政治に殺されるアパレル業界

本稿は2020年4月末日に書いた。この3〜4月に本連載で掲載されたものはすべて2月に書いたもので、まさかコロナがここまで猛威を振るい、日本人を恐怖のどん底に陥れるとは思いもしていなかった。
このままでは、アフターコロナの日本、特にアパレル業界は第二次世界大戦の大空襲の後のような焼け野原となるだろう。金融機関は、クライアントから預かった大事なお金を投資に回すことを止め、リスクマネーは産業界に流れていかない状況になっている。銀行は支払い猶予を伸ばす、あるいは、債権放棄を行うという話も舞い込んできている。このままでは、アパレル業界は、秋には産業崩壊を迎えてしまう。以下にその論拠を示そう。

RichLegg / iStock

産業破壊!日本アパレル企業の半数が秋までになくなる

 誰もが将来に不安を抱く昨今、日銭を稼ぐリテーラーたちは止めどなく流出する現金を目の前にして会社がいつまで持つのかを計算し始めている。

 アパレル企業の原価率はおおよそ50%で、利益率は一ケタ台だ。となると販管費が推定できるわけだが、それらのほとんどは固定費である。

 つまり、年商100億円の企業であれば、3~40億円程度の固定費がのしかかり、これを12で割れば月間3億円。これだけの金額が毎月失われていることになる。役人や政治家は「自宅に巣篭もりせよ、何か欲しければECで買え」などと、全く的はずれな発言をしているが、日本の衣料品のEC化率など10%にも満たないし、百貨店にいたっては5%以下だ。全体の売上を下支えすることはとてもできない。EC売上を差し引いても、年商100億円規模のアパレル企業は毎月2〜2.5億円程度の現金が減少しているのである。おそらくみなさんもたくさんのメールを受け取っているので気づいていると思うが、アパレル企業は今必死に在庫の「叩き売り」を行っている。中には、70〜80%オフというものまである。それでも、政府とメディアが国民を脅した結果、国民は「こんなときに着飾っている場合ではない」と考え、たとえ、二束三文の値段でも服など買う気になっていないのだ。日本のアパレル市場は約9兆円。その半分をトップ10が占めており、残りの50%に中小弱小企業含めて2万社ものアパレルが存在する。そして、それらのほとんどが日々の日銭でやりくりしており、私の感覚だと経済活動が再開されなければ、秋頃には半分の企業が持たないだろう。

 こうした状況下、通販企業に神風が吹いていることは意外に知られていない。国民のほとんどは巣ごもり状態で、やることといえばNetflixやHuluなどで映画を見るか、それ以外は通販で買い物をするぐらいだからだ(「自宅フィットネス」「セルフカット」など新たな購買需要を伴う生活行動も当然でてきている)。それでも「日本中が大変だ。みなで手を合わせて乗り切ろう」というメッセージでなければ国民の共感は得られない。「実は、とても儲かっている」などとは、口が裂けてもいえないのである。

的外れで弱腰な政策は日本のお家芸

 このように、年商100億円の企業でひと月に3億円。10億円の企業でも3000万円である。某県では3000万円の無利子融資を実施しているが、それさえ、ストレートにいわせてもられば「ケタが違う」のである。ましてや政府の行う「一律10万円支給」や「布マスクの配布」など、まさに冗談の世界だ。このままでは、コロナに殺される前に経済に殺される日が来るだろう。

 日本の政策はいつも対応が遅く、玉虫色で強制力を発揮しない。海外を見れば、ドバイなどではクルマに二人で乗っていれば罰金をとられるというほど強烈に国民の動きを制御している。日本は、未だにパチンコ屋が空いており、未だに会社に通っている人もいる。なぜ、もっと強い強制力とペナルティをださないのか。

 論理的に考えて、国民を全く動かさない状況をつくって、コロナ潜伏期間である二週間経てば感染者と非感染者が明確になる。そして、感染者のみを対象に医療政策を行えば問題は解決するだけの話だ。それを、不急不要の、とか、自粛を、など、いわゆる玉虫色の言葉を使い、ロックダウンを避けている結果がこのザマだ。ウイルスは見えないまま、夜遊びを繰り返す人、なんの責任感ももたずにパチンコ屋に集まる人などを伝ってどんどん感染し、また、彼らが街を闊歩することでさらに広がってゆく。

 流通業界は、日本の総雇用の16%を占める重要産業である。このままでは、コロナに殺される前に政策に殺されるだろう。政府は海外のように強烈なペナルティを課す政策を速やかに実施し、国民を2−3週間、絶対に動かさないようにし、まずは、明確に感染者と非感染者を明らかにした後で感染者の方のみ医療を行い、非感染者たちに早急に経済活動を再開できるような政策をとるべきだろう

 現在の政策は、日本の中でたった10%しかないECでものを買えといっているわけだから、90%の人に対して「死になさい」と言っているのと同じだ。例えば、専門店と呼ばれる店舗には、お店と自宅が同じ家屋にあるところ、自電車で通勤できる店舗は山のようにある。政府は、「日本人は全員、半蔵門線に乗って大手町あたりに通勤している」とでも思っているのだろうか?社数でいえば99.7%は中小、零細企業なのだ。従順な日本人を対象に、こんな大企業前提の政策を続けていては、笑うのはAmazonだけだ。同社は米国では人が足りないほど商売繁盛で、他産業から人員をレンタルしているほどだ。日本の血税は、全てAmazonなどの海外企業に流れるだろう。

 このままでは、コロナに殺される前にアパレル業界は医療崩壊でなく、産業崩壊を起こすだろう。政府は至急、(見識のある)有識者を集め産業別の対応策を検討すべきである。私も、何度か呼ばれるが、表にでてくる人間はいつも同じで老人ばかりである。聞けば「彼らを前にださないといろいろあるのだ」という。私はやる気を失い、お手伝いを辞めたこともある。しかし、もう一度呼ばれれば、企業再建の裏側をみてきて、誰にも負けないノウハウと情報をもった私は協力を惜しまないつもりだ。

 次回は、このような産業の実態を顧みない政策が続けばどうなるか、そして、本来どのようにすべきかを提言したい。

プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)