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楽天市場、一律の送料無料化延期の理由は?

大手ECサイト「楽天市場」を運営する楽天(東京都/三木谷浩史会長兼社長)は36日、ウェブ配信による記者会見を実施し、318日に開始予定だった楽天市場での送料無料化の一律導入について延期する方針を明らかにした。同施策に対しては一部の出店者が反対しており、228日には公正取引委員会が東京地方裁判所に「緊急停止命令」を出すよう申し立てるなど、問題が山積していた。

楽天の三木谷浩史会長兼社長(写真は「楽天新春カンファレンス2020」のもの)

「新型コロナウイルスの影響」を理由に一律導入を延期へ

 楽天は、楽天市場利用者の利便性や料金体系のわかりやすさの向上などを理由に、1つの店舗で合計3980円(税込)以上の商品を購入した場合に送料無料とする制度(酒類や大型商品など一部の例外は除く)を318日に開始すると発表していた。会長兼社長の三木谷氏は、1月に開催された楽天市場出店者向けのイベント「楽天新春カンファレンス2020」で「何が何でも成功させたい」と豪語しており、一部出店者の反対や公正取引委員会の調査を受けながらも、実現への意志は固かった。

 そんな同社が今回大きな方針転換に踏み切った主な理由として挙げているのが、新型コロナウイルスの影響だ。周知のとおり日本でも感染者が増加しており、観光業や飲食業、イベント産業などを中心に経済に少なからず影響を与え始めている。

 楽天は楽天市場の出店者にも影響が出ていることを考慮し、318日から予定していた送料無料化を全店舗に一律導入するのではなく、対応が可能な店舗から開始することを決定した。「配送など物流面での人員が不足しているほか、海外から原材料や商品を仕入れている出店者の在庫確保が難しくなっているなど、出店者への影響が拡大している」と、楽天のCEO戦略イノベーション室の川島辰吾氏は話す。出店者は専用フォームで事前申請することで、送料無料化の適用対象外となることができる。なお、導入そのものを中止しなかった理由としては、「すでに準備をしており、送料無料化に大きな期待を寄せている一部店舗さまの気持ちを考慮したため」(出店者向けの配信メールより)としている。

送料を無料化した店舗への支援を開始

 今回の会見では、送料無料化の対象となる店舗への支援策として「安心サポートプログラム」の内容も明らかにされた。同サービスが提供されるのは、送料を無料化した全店舗。無料化実施後の売上・利益の減少を不安視する出店者の声を反映し、送料無料化の影響で減少した利益額、もしくは送料差額を対象として給付金が支給される仕組みだ。

楽天は送料無料化ラインを導入した出店者に対しての支援策を発表した

 安心サポートプログラムの適用期間は、数カ月間程度を想定しているという。送料無料化によって出店者への負担が大きくなるという指摘が多いなか、新型コロナウイルスの影響も鑑みて「出店者の不安を緩和するセーフティネット」(川島氏)を提供する目的で同サービスの導入を決定した格好だ。

「明瞭な料金体系の実現」という本来の趣旨から遠ざかる結果に

 一律導入延期の背景として新型コロナウイルスの影響を挙げる楽天だが、2月末に公正取引委員会が東京地方裁判所に同施策の「緊急停止命令」を要請したことが多分に影響しているとみてよいだろう。

 楽天は今後も楽天市場の出店者や利用者にとってメリットのあることを実施するという方針自体は変えず、裁判所や公正取引委員会に対しては学識者の意見書を提出するなど、丁寧な説明や話し合いを続けていくという。出店者に対しては205月をめどにあらためて今後の送料無料化の方針について提示するとしており、現時点では出店者の準備状況に応じて段階的に導入を進めていく考えだ。

 今回の延期や安心サポートプログラムについては出店者にも通知したばかりであり、実際にどの程度の出店者が送料無料化を実施するのかは不透明だ。しかし、これからは送料無料化を実施する店舗とそうでない店舗が混在することになるため、消費者への混乱は避けられない。顧客により明瞭な料金体系を提供するという本来の目的からは遠ざかってしまう結果となった。

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