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「塚田農場」の弁当がじわりと人気を集めている理由

「塚田農場」「四十八漁場」などの屋号で国内外に約260店舗の飲食店を展開する、外食大手のエー・ピーカンパニー(東京都/米山久社長)。そんな同社が中食市場にも参入していることはあまり知られていない。傘下の塚田農場プラス(東京都/森尾太一社長)が製造し、駅ナカや百貨店などで販売する弁当が、じわりと人気を集めている。その理由とは。※商品の名称および価格は取材時(1月中旬)のものです。

素材にこだわった定番メニューで大人気

 塚田農場プラスは、エー・ピーカンパニーの新規事業としてスタートした法人向け宅配弁当ビジネスが軌道に乗ったことから、2015年に分社化して誕生した。現在は宅配事業のほか、東京都内の駅ナカや百貨店に弁当の販売店舗を出店している。業績については公表していないが、「会社設立から増収増益を続けており、駅ナカの店舗もすべて前年実績を大きく超えている」(森尾社長)という成長企業だ。

 同社の弁当が人気を集めている理由は、買い求めやすい値段と、それを上回るクオリティの高さにある。駅ナカで販売されている弁当は1000円以下の商品がほとんどで、一般的な「駅弁」に比べるとかなりリーズナブルな価格設定といえる。それでいて、メーンのおかずだけでなく、米、付け合わせ、ソースなどにも徹底的にこだわり、価格以上の本格的な味わいを楽しめることで人気を博しているのだ。

定番メニューでありながら素材にとことんこだわった弁当が人気を集めている

 たとえば、駅ナカの弁当に使う米には山形県産のブランド米である「はえぬき」、それも特別栽培米を使用している。冷めても旨味と香りが引き立ち、もちっとした食感が楽しめるためだ。また、多くの商品に付け合わせとして入れているだし巻き卵はオリジナル卵「塚だま」を用い、専用工場で毎日1本1本を手づくりで焼き上げている。

 一方、売場に並ぶ商品を見てみると、「チキン南蛮弁当」「銀鮭弁当」「チキンカツ弁当」など比較的オーソドックスなラインアップだ。「弁当は外食とは違い、奇をてらったものは売れない。定番メニューでありながら、こだわりの素材を使って手づくりすることで、『食べれば差がはっきりわかる』という打ち出し方をしている」(森尾社長)。

食材が持つ“ストーリー”を重視


 商品開発のコンセプトについて森尾社長は「弁当にはできる限り“ストーリー”が存在するものを入れるようにしている」と説明する。弁当に使う素材の多くは、塚田農場プラスが開拓した生産者から直接仕入れたもの。単においしい食材を探して使うのではなく、生産者の想いや塚田農場としてのこだわりが消費者に伝わるような弁当づくりを追求しているという。


 その好例が、「漁師とコラボして作った国産銀鮭弁当」だ(税込1000円)。その名のとおり、三陸エリアの若手漁師グループ「フィッシャーマン・ジャパン」とコラボ開発した商品で、森尾社長はじめ塚田農場プラスの担当者が直接現地を訪れ、メンバーと議論を重ねながら開発した。宮城県産のブランド鮭「銀王」をメーンのおかずに据えたほか、品質に問題ないにもかかわらず色味が悪いために廃棄されることも多かった、三陸産の昆布の根元部分を使った「昆布煮」も盛り込んだ。

「漁師とコラボして作った国産銀鮭弁当」(税込1000円)

 さらに今年1月に発売した「ロース生姜焼き弁当」(税込900円)は、旧知だった生産関係者から紹介を受け出会った、宮崎県産の「まるみ豚」を使用。弁当の掛け紙にはまるみ豚のロゴを大きくあしらい、その傍らに生産者の写真を掲載した。

 このように、“生産者の顔が見える”弁当を開発しているのも塚田農場プラスの特徴だ。単なる即食商品としてだけではなく、生産者のこだわりや日本全国の魅力ある食材を発信するツールとして弁当を位置づけているわけである。森尾社長は「生産者がこだわり抜いて生み出した食材は全国にたくさん存在する。その魅力を少しでも世の中に知ってもらえるよう、生産者の方と一緒になってアピールしていきたい」と力を込める。

塚田農場プラスの森尾太一社長

 塚田農場プラスは今後、弁当だけでなく総菜の開発・販売についても検討していく考えだ。「食に関するニーズはますます多様化し、外食と中食の垣根はどんどんシームレスになっていく。そんななかで、これまでの業界の常識に縛られてしまってはイノベーションは起きない。塚田農場プラスとしては、中食マーケットそのものを一歩前進させるようなことをしていきた
い」と森尾社長は抱負を語る。