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実録!働かせ方改革(7) 残業是正や女性管理職増は実は小手先 働きやすい職場の作り方!

働き方改革が進み、残業時間削減や有休休暇促進、在宅勤務に踏み込む会社が増えてきた。それにともない、働きやすい職場が注目されている。本シリーズでは、部下の上手な教育を実施して働きがいのある職場をつくり、業績を改善する、“働かせ方改革”に成功しつつある具体的な事例を紹介する。
いずれも私が信用金庫に勤務していた頃や退職後に籍を置く税理士事務所で見聞きした事例だ。諸事情あって特定できないように一部を加工したことは、あらかじめ断っておきたい。事例の後に「ここがよかった」というポイントを取り上げ、解説を加えた。
今回は、社員が働きやすい職場づくりをするIT企業の取り組みを紹介しよう。注目すべきは、社員間の情報格差を取り除くために組織をフラットにする試みに力を注いでいる点だ。働き方改革残業時間の削減や女性管理職を増やすといった点に主眼を置く企業が多いが、実はこれらの取り組みは対処療法のようなもの。そうではなく、情報の格差是正を取り上げることは、実は働き方改革の本質でもある。その理由と取り組み方について解説しよう。ぜひ、参考にしていただきたい。

Photo by SARINYAPINNGAM

第8回の舞台:創業6年のIT企業

(社員50人)

 

情報、意識、目標を共有する体制

「当社では情報の格差をつけて、経営層が社員をコントロールすることはない。自分が前職(大手IT企業)の頃に疑問を感じたことが契機となり、働きやすい職場づくりをしてきたからだ」

 昨年秋、30代後半の人事部長が私のヒアリングに答えた。この場合の「情報の格差」とは、役員など経営層が管理職と一般職で伝える情報に差をつけることを意味する。たとえば、決算報告についての情報を管理職には詳細に説明するが、一般職には大まかな内容しか伝えないというケースだ。

 人事部長は、3年前に前職を辞めた。課長補佐だった当時、全社規模で「情報の格差」が蔓延していたと見ている。情報の格差がある場合、該当する情報について把握している層とそうでない層に分かれ、情報を得ていない者は不安になる。経営層はそうした心理を活用して、社員をコントロールしていたのである。

「安心したいから、情報を持っている人の顔色をうかがい、従うようになる。結果として、上司が部下に対し、必要以上に強い立場になる。ここから、いじめやパワハラに近いことも起きていたと私は思う。このようなコントロールをしていると、働きやすい職場はつくれないはずだ。残業を減らしたり、女性の管理職を増やしたりすることだけが、働き方改革ではないでしょう?組織をフラットにすることも、大切な試みだと考えている」

 最も力を入れている試みが、IT機器を活用した情報、意識、目標の共有だ。この会社では3年前から、全社員のうちの9割が週に2∼3日、在宅で勤務している。そのため、独自に制作したチャットツールを使い、意思疎通を図る体制を取る。机に向かって作業する様子を各自パソコン内蔵のカメラで撮影し、定期的にチャットツールのトップページにアップしている。また、1日に数回スカイプを使い、数人のチームごとに仕事の進捗を確認し合う。会議は週に1∼2回、テレビ電話会議システムを使ってウェブ上で行い、全員参加で1時間話し合っている。

 社長のほか、数人の役員で行う役員会にも全員が無条件で参加できる。また、管理職が参加するグループリーダー会議についても、一般職が自由に参加できるようにした。一方、一般社員のミーティングにも、役員や管理職が加わる。そのうえ、この1年で役員と管理職をそれぞれ2人減らし、組織をできるだけフラットにしようとしている。今後、さらに役員や管理職の人数を減らす予定で、情報の格差をなくすための挑戦を続けていく考えだ。

管理職のあり方を見直し、組織のヒエラルキーを壊す!

 今回は社員が納得感を高め、働くことができる職場をつくるうえでの盲点をあぶりだしている事例だと思う。私が導いた教訓を述べたい。

これをしたからよかった ①
役員や管理職のあり方を見直した

 働き方改革では、残業の削減や女性の管理職を増やすことなどに取り組むケースが多い。それらは大切な試みではあるが、会社のあり方を構造的に変えることにはつながらない。ある意味で小手先の応急処置なのだ。メスを入れるべきところは、役員や管理職のあり方なのだと私は思う。たとえば、一般職から管理職に昇格するときに厳格な審査があるだろうか。あるいは、管理職から役員に昇格するとき、多くの社員が納得するような基準やプロセスがあるだろうか。おそらく、多くの職場で「NO」だろう。

 会社の中枢である管理職や役員の選抜基準が曖昧ということは、彼ら彼女らのマネジメントスキルも違えば、仕事の仕方、仕事のさせ方も違うことを意味する。それゆえに残業時間の削減が進まない、あるいは単に残業時間は減ったものの、労働生産性を上げることは不十分な企業がほとんどなのではないだろうか。それでは結局、問題の本質には到達できずじまいだ。従業員のモチベーションが高く、働きやすい職場をつくることを通じて、企業の活性化、ひいては好業績につなげていくことが働き方改革の本質なのだが、残念ながらこの点についてはあまり取り上げられることがないため、盲点となっている(企業側が対処療法のみを求めているという事情も影響しているだろう)。

 この会社は、「情報の格差」を撲滅することが課題解決の方法と考え、それを是正するためには、役員や管理職のあり方を変えることだと認識して、改革を積み重ねた。評価すべき事例だと思う。

 

これをしたからよかった ②
組織をフラットにした

 IT機器を活用し、情報を共有するという試みはこの20数年間で多くの企業が行っている。問題はそこから先に踏み込むことができているかどうか、だ。残念ながら、私が知る限りではそのような企業は少ない。そのなかで、この会社は、役員や管理職の数を減らそうとしてきた。誰もが既得権を奪われることに抵抗したくなるものだが、それでも挑戦するのだから、評価するべきだろう。

 組織をフラット型にしていかなければ、情報の格差はどうしても生まれやすい。この差があると、上司が部下に対して力が強くなり、さまざまな問題が生じる可能性が高くなる。職場の空気も悪くなり、社員の意識が低くなりがちだ。このような状態では、生産性が上がらず残業時間の削減もなかなか進まないだろう。情報の格差をなくすために、組織のヒエラルキー階層をできるだけ減らせるかが大切になってくる。

 

神南文弥 (じんなん ぶんや) 
1970年、神奈川県川崎市生まれ。都内の信用金庫で20年近く勤務。支店の副支店長や本部の課長などを歴任。会社員としての将来に見切りをつけ、退職後、都内の税理士事務所に職員として勤務。現在、税理士になるべく猛勉強中。信用金庫在籍中に知り得た様々な会社の人事・労務の問題点を整理し、書籍などにすることを希望している。

 

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