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誰も語らなかったZARA圧勝の秘密2 欠品だらけでも消費者が満足する理由とその仕組みとは

「誰も語らなかったZARA圧勝の秘密」第2回。多くの書籍やメディア記事でZARAの強みとされていることは実はなんという事もないことで、強みとはなり得ないものばかりである。それを立証するとともに、クローズアップされたことのない取り組みに実はZARA圧勝の秘密が隠されていることを解き明かそう。

Photo by tupungato

 

メディアに表面的な強さだけを取材させ
その本質はひた隠しにするZARA

  ZARAについて書かれた書籍、論考は多い。しかし、同社は数年前から実務を知らないメディアの人間のみをスペインに招待し、自社の凄さを世界に知らしめているPR戦略をとっているが、業務経験者は絶対に招待しないことで有名だ。だから、メディアには「ZARAは凄い」という記事ばかりが掲載するが、その裏にある「勝つための秘訣」は誰も知り得ない。ここがわからなければ、フォーエバー21が破綻に追い込まれ、H&Mの調子が良いとはいえないのに、ZARAだけが一人勝ちしている理由が説明できない。
 「すごい」だけでは、我々は何も学ぶことはできないのである。
 ここで、同社について書かれたものを要約すると以下のようになる。

  これらの情報は、世界的なコンサルティングファームが書いた本、ZARA本社の中に入ったという人間、そして、数多くのメディア記事から作成したものであり、すべて二次情報を前提とした仮説であることを最初に断っておきたい。
 さて、このジグソーパズルを解きほぐす前に意外な事実を伝えたい。アパレル業界を30年間見てきた私から言わせてもらえば、ここに列挙されたことは、実は日本のアパレルは20年前からやっている、ということである。つまり、これらは、なんらZARAの強さを立証するものではないのだ。

  例えば、売り切り御免など、しまむらもやっているが同社の業績は悪化している。また、原料の備蓄は商社もやっており、実際、私自身もブロックブッキングという手法でやっていた。
 リードタイムについても、二週間、一ヶ月など、現場の人間からしてみれば驚くことではない。ワールドが全盛期だったとき、生機で生産した衣料品を長野県の染色工場に備蓄し、一週間で染め上げて店頭に並べていた。店舗発注も、昔のマルキュウアパレルは普通にやっていたし、国内生産をやれば48時間どころか24時間で店頭配送が可能だ。
 つまり、鬼の首を取ったように語られるこれらのZARAの特徴は、日本のアパレルは大昔からやっていたことばかりなのだ。

  さらに、「売り切り御免が店頭鮮度を保つ」というのは自己矛盾をはらんでいる。MD業務では、売れ筋と死に筋予想ができないから期初企画の初速を見てQR (クイックレスポンス)ECR (イフェクティブ・コンシューマ・レスポンス)を発達させたのだ。QRを世界で初めて開発し、日本に導入したカートサーモンのトップをやっていた私がいうのだから間違いない。売れ筋もわからないのに、毎度、売り切り御免の「博打ビジネス」をやれば、アパレルは余剰在庫の山になり即死するだろう。

  つまり、これらの分析や情報は、アパレル未経験者、アパレルの歴史を知らない人間が書いたもので、アパレルビジネスのトレンドセッター(トレンドを自ら作り上げる高回転型ビジネスモデル)の分析としては不十分であるということなのである

  しかし、自画自賛かもしれないが、私は、これらの点と点をつなぎあわせ、同社圧勝の秘密をモデル化することができる。私は、その仮説(圧勝のモデル)を検証するため、まだZARAが門戸を開いていた時代、ZARAの本社に入ったというワールド出身の複数の人間とのインタビューに成功した。

 

ZARA圧勝の秘密は世界中に存在する数万のリサーチャー

  日本企業が上記に書かれていることをやり、店頭の好きなまま商品発注を行い、毎回売り切り御免の博打勝負をしてゆけば即死は間違いない。
 また、計画生産と備蓄された原材料は、QRのボトルネックとなる。なぜならQRとは、店頭変化に呼応し、ニットが流行ればニットを追加投入し、ウールの重衣料が流行れば、ウールの重衣料を追加生産するからだ。あらかじめ備蓄している原材料は、必ずしもトレンド変化に呼応しない。この二つのパラドックスを説くことこそ、同社の強さを検証する上で重要な論点となる。

 結論から言おう。ZARA圧勝の秘密は、ZARAが世界に配置した「数万人単位のトレンドリサーチャー」にある。
 ZARAは、世界中にリサーチャーを配置し、街、競合店舗、街行く人を見、分析させて、本社にその情報を集める。ZARAは、集まった膨大な情報をアナリティクス技術で分析し、地域特性などを加味しながら、まるでスペインのTapas料理のように、そのとき最も旬な小皿料理(必要以下の量の商品)を世界の店舗に都度配送する。

 当然、数量が少ないわけだから、ZARAは常に欠品だらけであるが、膨大なリサーチの結果、投入されるTapas料理 (トレンド商品) に消費者は満足し、「欠品は増加する」が「客単価は向上する」のである。つまり、ZARAは、「欠品最小化」を捨て、「客単価向上」を主要KPIとしているのだろう。
 Aという商品がなければ、Bという魅力的な商品を出す。白身魚を食べたいと寿司屋に行けば、大将から「今日はマグロがうまいよ」といわれ、白身でなくマグロを食べるかのごとく、緻密に演出された店舗空間VMDの中で、さらに魅力的な商品が見つかれば、そちらを購買するのが自然な消費者心理だろう。

 

日本企業を蟻地獄に落とす、ZARAの仕組み

  供給過多の時代には、どこでも売っているような商品よりも、消費者は「その先」を選択する。ZARAは膨大な情報から「ヒット要因」を見つけ出し、計画生産の商品にそのエッセンスを注入し、同時に店舗の空間演出を変えることで、顧客に「その先」を提案しているのだ。雑誌を数冊見て新規企画を行う日本のデザイン業務とはレベルが違う。これが、売り切り御免でも勝てる理由であり、属人的企画業務から抜け出せない日本企業に対し、システム化されたトレンド把握の仕組みである。

  そして、忘れてはならないのが、同時にQRを盲信し「シーズン遅れ商品」を次々と投入する競合を地獄に送る勝ちパターンでもあるという点だ。ZARAは次々と投入される小皿料理(少量商品)にあわせて店舗構成を変化させている。ファッション商品というのは、単品完成度が高ければよいというわけでなく、商品、店舗空間VMD、接客の3つがセットとなって世界観を出す。ZARAは伝統的に4シーズンでMDを組んでいた日本のアパレルに対し、シーズンを細分化し、8シーズンにすることで、日本企業がQRをやればやるほど、シーズン遅れの商品を投入するという、蟻地獄のような仕組みを作り上げたのである。

 第3回では、残されたいくつかの疑問についても解き明かしていく。

 

プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)