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お客さまや社会課題の解決に資する価値創造型企業をめざす!=J-オイルミルズ社長八馬 史尚

日本の製油業界をリードしてきた3社が合併して誕生したJ-オイルミルズ(東京都)。設立から15年を経た今、経営統合した価値の最大化に果敢に取り組んでいる。めざすは、お客や社会課題の解決に資する価値創造型企業だ。その舵取り役を担う八馬史尚社長に、同社の成長戦略について聞いた。

おいしさと品質重視の健康系カテゴリーが好調

はちうま・ふみなお1959年生まれ。83年4月味の素入社。98年7月インドネシア味の素販売社長2008年7月アメリカ味の素取締役副社長、09年7月味の素食品カンパニー加工食品部長、11年7月同社食品事業本部外食デリカ事業部長13年6月同社執行役員15年6月同社常務執行役員、15年6月J-オイルミルズ代表取締役社長、16年6月同社代表取締役社長執行役(現任)

──まずは、直近の業績について聞かせてください。

八馬 2019年度上期は減収ながら、増益を達成することができました。事業の三本柱のうち、油脂事業と食品・ファイン事業は好調でしたが、油脂加工品事業が苦戦し減益。しかしながら、当期純利益は3期連続で増益を達成しました。18年度は会社設立以来、過去最高益となりましたが、19年度は2期連続最高益更新をねらえる水準にまで来ています。

──業績好調が続いているなか、食用油の市場状況はいかがでしょうか?

八馬 現在、市場規模は1400億~1500億円ですが、10年は1000億円程度だったことを考えると、ドライグロサリーの中では比較的成長市場なのではないかと思います。なかでもとくに伸びているのが食用油市場における金額ベースでの最大のセグメントであるオリーブオイルで、400億円を超えています。そして、健康によいといわれるアマニ油やえごま油などが約300億円で、8年前は100億円程度でしたから成長著しいと言えるでしょう。

 一方で、家庭で揚げ物などに使うキャノーラ油などはダウントレンドです。小世帯化に伴い、家で揚げ物をする頻度が減り、量販店の総菜売場で購入する人が増えています。油の使われ方が大きく変わってきていると言えますね。

──オリーブオイルやアマニ油、えごま油が急成長した要因は何でしょうか?

八馬 これまで「油は体に悪い」というイメージがありましたが、栄養学の常識が一転し、「健康のために、良質の油をバランスよくとることが大事」という考え方が、海外だけでなく日本でも広がってきたことが挙げられます。

 それに伴い、業界自体がこうした情報を多層的に発信してきたことで、油に対する見方が変わりました。結果、付加価値があり単価の高い商品が伸びたことで、メーカー側も小売さん側も採算構造が変わってきました。

──J‐オイルミルズも健康系の油カテゴリーを強みにしていますね。

八馬 ええ。ただオリーブオイルなどは確かに健康イメージがベースにあるものの、やはり重要なのはおいしさです。調味料として生で食べる場面も多いため、おいしさをどのように高めていくかを常に追求しています。とくにオリーブは摘んだ直後から酸化が始まるので、徹底したクオリティコントロールを行っています。

 そうした取り組みを推進してきた結果、19年には、アメリカ油化学会(AOCS)*の「オリーブオイルパネル認定」にて、工場の品質管理室から選抜されたチームと、研究開発・アプリケーション組織から選抜されたチームの両チームともに1位の成績で認定を受けました。今後も品質の信頼性向上に向けて努めていきたいと思います。

*アメリカ油化学会(American Oil Chemists’ Society):1909年に設立されたイリノイ州アーバナに本拠を置く国際的な専門団体。脂肪、油、界面活性剤、その他の関連物質に関する科学技術に関わる人々のための支援ネットワークを提供

生活者に寄り添った商品と用途を提案

──貴社の製品には家庭用と業務用がありますが、まずは家庭用製品におけるマーケティング戦略から聞かせてください。

八馬 オリーブオイルについては、用途拡大の提案に力を入れていきます。これまでも日本の食卓に定着させるために取り組んできましたが、購入世帯率はまだ30%程度。さらに日常使いしていただくために、トーストに使うなど、食卓において出現頻度の高いメニューに使える油であることを訴求していきます。

 アマニ油とえごま油については、まだまだ開拓できる余地があると思っています。19年8月に100g瓶タイプの味の素ブランド「えごま油」と「アマニ油」を発売しましたが、使い切れる量で価格を抑えることで、手にとってもらいたいというねらいがあります。今後もよりいっそう裾野を広げていきたいですね。

 キャノーラ油やサラダ油などのベーシックオイルについては、メニュー特化型の油を提案していきます。近年、ご家庭では揚げ物をするのが特別なことになっているので、そうした場面に寄り添った商品を提案したいと考え、19年3月に味の素ブランド「から揚げの日の油」を発売しました。

──「から揚げの日の油」とはユニークですね。どんな商品ですか。

八馬 生姜のフレーバーが効いた、から揚げ専用の使い切りタイプの油です。鶏肉のコクやうま味を引き出すように調整されているので、この油に変えるだけで、専門店のようなおいしいから揚げをご家庭で簡単につくることができます。揚げ物の食卓出現率は減少していますが、鶏のから揚げは伸長している人気メニュー。ハンバーグやカレーと並んで子供が喜ぶメニューでもあります。もともと業務用製品に「J‐OILPRO® -プロのための調味油-」という香り付けされた調味油があり、そこで培った知見やノウハウが生かされています。

──小売店からの反応はいかがでしょうか?

八馬 鶏肉や粉、飲料なども加えた関連販売や、マネキンを入れた試食販売など複合的な提案ができるため、売場がつくりやすいと好評で、実際に数字も伸びています。油全体では好調であるものの、ベーシックオイルの価格競争は依然として残っているので、こうした利益のとれる商品で小売店さまのカテゴリーの採算性を高めることにお役立ちできればと思います。

社会課題の解決と利益拡大の両立を図る

──次に、業務用製品におけるマーケティング戦略について教えてください。

八馬 業務用市場では、「長調得徳®」や「J‐OILPRO® -プロのための調味油- 」、「ごはんのためのこめ油(炊飯用)」の提案を強化していきます。「長調得徳®」は一般的な油に比べて長持ちする油で、たとえば、従来なら4日に1回替えていた油を、5日に1回の切り替えで済むことから、オペレーションの効率化や年間の人件費削減に大きく寄与できます。

 また、「J‐OILPRO®-プロのための調味油-」はひと味違うメニューも簡単につくれるので、プロの調理人を確保できなくても、パートさんでも本格的な味付けができます。人手不足や生産性の向上が求められる環境下において、こうした商品はお役立ちできるものと思いますので、もっとアピールしていきたいですね。

 19年9月に発売した「ごはんのためのこめ油(炊飯用)」も同様です。米の一粒一粒を油でコーティングすることで釜へのこびりつきを抑え、食品ロスと作業効率向上に寄与します。

──中食市場が拡大するなか、ユーザーの課題に応えた商品が揃っています。

八馬 最近では食感改良材としてのスターチにも力を入れています。中食と外食の決定的な違いは“出来たてを提供できない”ことです。時間が経つとパサパサになる、あるいはべちゃべちゃになる。こうした食品中の水の移動に伴う離水・保水の問題に対して、スターチは水も油も両方吸えるという特殊な機能によって貢献でき、小売業のお客さまから評価いただいています。廃棄ロスやフードロス、欠品リスクの削減にもつながるため、油のみならずスターチなども合わせて総合的な提案を強化していきたいと考えています。

──成長が期待されるマーケットに対してきっちりと対応しているわけですね。

八馬 小売店さまとのコミュニケーションのおかげです。18年7月に東京・八丁堀に複合型プレゼンテーション施設の「おいしさデザイン工房®」を設立しましたが、その成果が現れています。ここは当社の企業理念である「おいしさデザイン®」をめざすための活動拠点ですが、自社製品はもとより、ときには社外の技術も取り込みながら、小売店さまにとって最適なソリューションを探す場となっています。これまで培ってきた知見やノウハウをもとに、「あぶら」が持つ付加価値機能の徹底した追求と強みの掛け算によって、新たな価値の創造をめざしていきたいと考えています。

──最後に、今後の展望を聞かせてください。

八馬 家庭用、業務用の両面において一つひとつの施策をきちんと丁寧にやっていきながら、小売店さまの売上と利益に貢献したいと考えています。そして、国内で培ったソリューションを、タイをはじめとしたASEANで展開し、持続的な成長をめざします。