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売上規模もEC比率も関係ない!勝ち組アパレルに共通する「ライトオフ期間」の長さとは?

前回、赤字続きのアパレル企業たちは、奇妙なデジタルツールにすがり、ビジネスの本分である顧客ファーストの視点を忘れてしまったと指摘した。さらに、市場が縮小しているにも関わらず、相変わらず売上を追いかける現状がいかに自社を崩壊に導くかを説いた。今回はその続編、巷で試験導入が進むダイナミックプライシングがいかにブランドを毀損させる恐れがあるのか、そうではなく企業が利益率とブランド力を高めるためにすべきことを解説しよう。

勝ち組アパレルに共通するのは、売上規模は関係なく、値引きに頼らず、ライトオフ期間が長いブランドだ。また、ユニクロのヒートテックに代表されるコモディティ商品は将来的に、店舗から自動販売機へその販売チャネルが移行するかもしれない(Photo by SeanPavonePhoto)

ブランド力を毀損する危険な劇薬、ダイナミックプライシング

 あなたの会社にも、デジタル企業が営業に来て、「ハイテクツールを使ってダイナミックプライシングをやりませんか」と言われた経験はあるだろう。ダイナミックプライシングといえば、響きは格好良いが、ようは、売れる商品も売れない商品も一律に値引きをするのでなく、単品毎に濃淡をつけて値段を変えてゆきましょうということである。

 一方、どの商品を値下げし、どの商品を値下げしないかというのは大いに議論が必要だ。それなのに、なんの事業目線もないデジタル企業に開発を丸投げすると、当然ながら「売れていない商品」や「在庫が残っている商品」の換金変数として値段を下げるアルゴリズムを組むことになる。

 しかし、これを消費者目線からみると、その店舗は「売れ残った酷い商品の山」に映るため、当然、消費者はその店舗から離れてゆく。消費者にとって、セールというのは、一種の宝探しのようなものだ。「この商品がこの値段で買えるのか!」という驚きがストアロイヤルティを作るのである。 

 私は、最近、とにかくセール時期でもセール案内はゴミ箱へ直行させている。欲しい商品が値引きされていないからだ。これに対して、ユニクロの売変(売価変更)は絶妙だ。売れている商品も、売れていない商品も等しく週末に値下げをする。判で押したように、昔のやり方をなぞり8月になったら一気に売れ残り商品を値下げをするのは自殺行為だ。消費者目線で考えればすぐに分かるのに、「ダイナミックプライス」「xxx」と横文字を聞くとアパレル各社は一気に思考停止となるようだ。

ユニクロはリアル店舗がいらない?自動販売機の方が合理的な理由

 ユニクロに代表されるコモディティ商品、ベーシック商品の中で、すでに国民の90%に認知されているようなもの、例えばヒートテックなどは、ほとんどが「買い換え」や「買い足し」がメーンと推察されるから、あえてUX(顧客体験)に力を入れる必要は無い。だから、大きな投資が必要な店舗を作るよりも、駅ナカや空港に自動販売機を設置する方が、よほど効率的だと私は思う。実際、米国ではすでにヒートテックは自動販売機で販売されている。

  私は、ユニクロのようなコモディティ商品は、すべて自動販売機が設置された「自動販売機ストア」を都心のど真ん中につくればおもしろいと思う。レジ待ちはなくなり、スマホでポチれば「ガチャン」とヒートテックが落ちてくる。デニムなどは、鏡に自身の姿を写し、AIがレングスサイズを計測する。店内の中央に置かれたコーヒーショップでデジタルサイネージの広告でも見て待っていれば15分程度でレングス調整後のデニムが「ガチャン」と落ちてくる。私は、ユニクロの店舗に行くたびに、駆けずり回っている販売員を見るとかわいそうになってくる。バラバラに散らかされた服を一生懸命たたんでいる時間を短縮できればどれだけ効率的だろう。

 サステナブルを標榜するなら、自社が中古品を買い取るべき

 世の中では、サステナブルという言葉が流行っている。これは、悪くいえば経済が停滞しているということだが、よくいえば、消費型経済から循環型経済に移行しているということだ。しかし、アパレル企業は、相も変わらず市場が求める30%以上も多くの商品を投入し、損金処理して赤字に陥いることを繰り返し、いまのところ改善の兆しはない。端から見ていると喜劇のようだが、やっている本人達は必死だろうと思う。これは、組織が分業化されているからおきるのだ。

 私の提案は、企業は仕入れを半分にして、消費者から不要になった自社ブランド商品を買い上げ、お直し、洗い、再プレスをやって、中古ブランドとして、例えば、「Certified by xxxブランド」というロゴをつけ再販するというものだ。つまり、新規仕入れは極小化し、一旦市場に流した商品を再販して循環させるのである。車業界では常識である。

 例えば、2019年1115日の日経新聞によれば、マザーズに上場したメルカリの株価は大幅高となっているし、「サブスク」、「シェア」、「C2C (カスタマー・トゥ・カスタマー)」などのワードは、すべて循環型経済への移行が背景にあり、成長市場と一般的に認知されている。しかし、なぜか、アパレル企業は、こうした成長市場に目を向けず大量生産を繰り返す。レンタルしている企業が成長し、また、その市場が伸びているのだから、自社がやれば最もよいと私は単純に思うわけだ。

  第三者にAIなどを使って正誤判定をさせるなど、単純なオペレーションを無理矢理複雑にしているとしか思えない。自社の商品であれば、その商品をつくった本人が正誤判断をすればAIなど導入する必要も無い。ここに、私が提唱するトヨタのJIT(ジャストインタイム)の「受注生産」を組み合わせる。布帛は半製品在庫とIot技術の融合。ニットはホールガーメントとの技術融合、そして、カットソーは高速プリンター技術の融合で、全ての衣料品はパーソナルオーダーが可能になる。これこそ余剰在庫ゼロに向けたサステナブルビジネスではないか。

 今、余剰在庫を買い取ってリネームして販売するビジネスが現れたが、大量生産により破棄損を作り出すアパレルビジネスの問題に対し、なんら本質的な解決になっていないと私は懸念している。本来は、大量生産そのものにメスを入れるべきであろう。実際、私が例に挙げた車業界では、余剰在庫の破棄問題など聞いたことがない。

 今、勝っているブランドは値引きせずライトオフ期間が長い

 これだけ世の中が変わっているのだから、昔の教科書の多くは既に使えなくなっているものが多い。例えば、売上は落ちていてEC化率が4%程度もないのに、営業利益率で10%もたたき出しているアパレル企業がある。理由を聞いてみると、年度落ちの商品を再プレスし、5年かけて売り切っているという。その企業のオフ率は10%程度以下で、残品率はゼロだ。

 破竹の勢いで成長しているワークマンは、オフ率が3%でライトオフ(在庫の損金処理)までの期間は5年から10年である。もはや世界企業に成長したユニクロ、GUKPIは知るよしもないが、調達原価率で40%以上もかけて利益をだしているのだから、必然的にプロパー消化率は780%を超えていると単純計算できる。同社の商品は、GUを除いてベーシックなものが多いから、一般アパレルのように1年から2年でライトオフをしているとは考えにくい。つまり、今勝っているアパレルの勝ちパターンは皆同じで、値引きをせずに定価販売を続け、売り切るまで時間をかけている、ということなのだ。

 私は、高い利益率を出している企業を売上規模に関係なく徹底して調べた。結果、勝っている企業は、ライトオフの期間が長く、3年から5年ということが分かった。これに対し、売上を上げるために余剰在庫を積み増し、低価格でたたき売り、期末に損金処理、あるいは評価減を行い業績悪化させている企業は、ライトオフ期間が1.5年から2年だった。

 高い利益率をだしている企業というのは、「時間」を強い味方を身につけ、ZARAなどのハイテク技術を駆使し、世界中に数万人のリサーチャーを配置し、膨大な情報をデジタルアナリティクスで分析しながら計画生産し、トレンド・ターンを高速回転させる外資企業と闘っている。残念ながら、日本にファッショントレンド・ターンでZARAなどに勝てるだけのビジネスモデルを持っている企業はない。

 

 アパレル業界は一部の勝ち組企業を除いて全滅に等しい。まさに「藁をもすがる思い」の断末魔、ノアの箱舟が昨今のデジタルツールである。前置きが長くなったが、私が転職をしてまで知りたかったデジタルツールのリアルな実態、そして、成功するための戦略を次回以降に書いてゆく。

 

プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)