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実録!働かせ方改革(1) できるコンビニ店長の外国人従業員教育術はここがスゴい!

働き方改革が進み、ブラック職場撲滅を進める世の中の動きが進む。こうしたなか本シリーズでは、部下の上手な教育、働きがいのある職場環境の提供を通じて、業績を改善する、“働かせ方改革”に成功した具体的な事例を紹介する。いずれも私が信用金庫に勤務していた頃や退職後に籍を置く税理士事務所で見聞きした事例だ。諸事情あって特定できないように一部を加工したことは、あらかじめ断っておきたい。事例の後に「ここがよかった」というポイントを取り上げ、解説を加えた。
今回は、定着率が低く、人手不足に困るなか、従業員教育の仕方をガラリと変更させたコンビニエンスストアの店長を紹介しよう。当たり前のようでいて、実は相当に難しいことを試みている。ぜひ、参考にしていただきたい。

Photo by TAGSTOCK1

第1回の舞台:都内西部のコンビニエンスストア

(店長以下、アルバイト35人)

 

人手不足への危機感から、バイト育成方法を刷新

 私が買い物かごを持ち、レジの前に立つ。40代後半の店長がこちらに背中を見せて、新しく入った中国人の男子学生とおぼしきアルバイトの目を見つめ、レジの打ち方を教えている。私が「お願いします」と声をかけると、慌てて中国人がレジを打ちに来た。店長もこちらを向いて、「こんにちは」と小さな声で言った後、アルバイトの横でじっと見つめる。そして、つぶやく。

「(ペットボトルの水が)3本でしょう?(1本の単価に)3をかける。その3を押して…」

「……」

「うん、そう、そう」

「……」

「きちんとできているよ」

「……」

 

 ここ1か月半ほどで、10数回は見る光景だ。この店は事務所が近いこともあり、少なくとも2日に1回は利用するだけに内情がよくわかる。

 このコンビニは元々、アルバイトが頻繁に新しく入るものの、半年から1年で辞めていくのが通例となっていた。常連となった2014年からの私の観察では、店長のアルバイトへの指導、育成は十分とは言えない感じがした。忙しいからか、外国人に限らず、丁寧に教えることができていない。作業の大雑把な流れは伝えるが、そこからは各自の創意工夫になっているようだった。店長を支える役職として「チーフ」のアルバイトを数人配置していたが、彼らも新人への指導はあまりできていなかった。

 ところが今年になり、店長が新人に最初の3か月間ほどかけて、つきっきりで教える姿が増えてきた。おそらく、人手不足のうえ、定着率がよくないことに危機を感じたのだろう。

 店長は、アルバイトへの指示の仕方に大きな特徴がある。「~するように」で終えるのではなく、さらに踏み込む。指示をした作業がどのくらいできたのか、といった「確認」を念入りにする。店長ひとりで確認するのではなく、新人と一緒に作業の1つずつを話し合いながら、確かめる。たとえば「さっき、単価に(商品の数を)かけたけど、あれでいいんだよ。わかった?」といったように。そのうえで、「今の時点でここまでできているならば、順調だよ」と添える。

 2014年の頃のように「~できていないから、ダメだよ」と突き放すこともしない。どこがどのようにいけないのか、どのようにすればいいのか、と懇切丁寧に指導をしている。同じ店長とは思えないほどに変わり果てたように見える。なぜ、これまでにこんな素晴らしい指導をしなかったのだろう。それでも、見ていて気持ちがよくなるほどの育成だ。

 

ネチネチと時間とエネルギーをかけるのが人材育成だ!

 今回は、アルバイトの育成に力を注ぐ店長から、私が導いた教訓を述べたい。

ここがよかった①
作業の確認を念入りにした

  ほとんどの会社で大半の管理職が部下に何らかの指示をしているはずだが、その指示のもと、どのように仕事が進んでいるか、結果はどうなったか、などと確認を本当にしているだろうか。「できている、できていない」から、さらに「どこをいつまでにどうすべきか」「そのためには、どうすると最もいいのか」と確かめ合っているだろうか。

 上司としては、これら一連の指導を「できた」と思っていても、部下がそのように感じているとは限らない。むしろ、「うちの上司は指示のしっぱなし」「命令はするけれど、それ以上をしない」と思っている場合もあるのかもしれない。これでは、「指導」「育成」はうまくいかないはずだ。本来は、双方で「確認」をしないと、作業の進捗や精度も正確には把握できないだろう。人事評価をすることもできないし、適材適所の配置など不可能だ。

 店長は、実に丁寧に確認をしていた。すぐに定着率が上がるとは思えないが、少なくともアルバイトの満足感、納得感は高まるはずだ。地道だが、このような試みをするしか、育成はできないものだと思う。私が信用金庫にいる時に以前、ヒアリングをした著名な人事コンサルタントの言葉「人の育成は、ネチネチと時間とエネルギーをかけてしていくもの」をあらためて思い起こした。

 新卒採用の場合、いわゆる母集団形成(エントリー者を増やすこと)や面接の仕方をどうするか、といったテクニカルな面に注意が向きがちだ。一方で、定着や育成について深く考え、効果のある施策や取り組みをつくろうとしている会社は必ずしも多くはない。

 今回の店も、例外ではない。新卒を雇い入れた場合、中堅の職人の下につくのは想定できていはずだ。それならば、事前に中堅を集め、パワハラなどについいて繰り返し教え込んでおくことはできなかったか。職人の世界ならば、ありそうではないだろうか。職人出身であるはずのオーナーがそのことに鈍いのが、私としては残念だった。

 「受け入れ態勢」というと、それを整えるまでに相当なコストと時間が必要に思える。その通りなのだが、はじめは、中堅や幹部に「パワハラ」「いじめ」「セクハラ」など重要な事柄を教えるだけでもいい。その後、「コーチング」などをテーマとすればよいのではないか。トラブルになりうることは、はじめに教えておきたい。

 

ここがよかった②
成長の気づきを感じさせる

 店長は、アルバイトが自らの成長を感じてもらえるようなアドバイスをしている。たとえば、「今の時点でここまでできているならば、順調だよ」と言うだけでも、効果はある。経験の浅い人は現時点でどこにいるのか、今後どうなるのかがわからないから、それらを伝えないといけない。成長の気づきを本人に与えることが大事なのだ。

 欲を言えば、その言葉を繰り返し本人に伝えることと、チーフたちも店長と同じ言葉を新人にかけてあげるとよい。店長とチーフの言葉が異なると混乱するから、双方で共有したい。「成長しているんだ」といった実感を何度も感じ取らせるのは大切な育成手法なのだ。

 

神南文弥 (じんなん ぶんや) 
1970年、神奈川県川崎市生まれ。都内の信用金庫で20年近く勤務。支店の副支店長や本部の課長などを歴任。会社員としての将来に見切りをつけ、退職後、都内の税理士事務所に職員として勤務。現在、税理士になるべく猛勉強中。信用金庫在籍中に知り得た様々な会社の人事・労務の問題点を整理し、書籍などにすることを希望している。

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