メニュー

繁盛マッサージ店が教える、離職せずに成果の上がる人材の登用・管理・育成の方法!

このシリーズは、部下を育成していると信じ込みながら、結局、潰してしまう上司、あるいは逆に人材活用が上手で成功している企業や店を具体的な事例をもとに紹介する。いずれも私が信用金庫に勤務していた頃や退職後に籍を置く税理士事務所で見聞きした事例だ。特定できないように一部を加工したことは、あらかじめ断っておきたい。事例の後に「こうすれば解決できた」「ここが良かった」という教訓も取り上げた。
今回は、私が5年程前からほぼ毎月、数回は通う「整体マッサージ」の社長の優れたマネジメントを紹介したい。

Photo by Yagi-Studio

 

第28回の舞台:マッサージ店

(中国人の社長以下、アルバイトの店員15人)

 

目標とするレベルを個々に共有し、到達するために教育

 私がこの店に腰痛の痛みを和らげるために通い始めたのは、マッサージ師である中国人たちの技術のレベルがほかの店に比べ、相当に高いと感じたからだ。20代前半の頃から慢性的な腰痛で、腰や背中、首などのマッサージは平均で月に数回は通い続けている。20年程で15店舗以上でもんでもらったが、この店が最も優れていて、早いうちに腰の痛みが和らぐように感じた。

 社長であり、店長の中国人男性(46歳)によると、マッサージ師は16人で、全員が中国人。平均年齢は、30代前半。ほかの店でマッサージ師として働いていたのを社長がハンティングしてきた。「技術のレベルが高い」と社長が判断したためだ。ここからが、社長の本領発揮。自らがハンティングをした理由を詳細に各自に伝え、双方で目標とするマッサージのレベルを話し合い、共有する。そのうえで、お客がいない時間を見計らい、練習する。社長がお客になり、ベットに横たわり、マッサージを受けながら、「ここはこうしたほうがいい」と指摘する。

 こんなトレーニングが、毎日1時間はみっちりと続く。もともと、レベルが高いマッサージ師たちだけに、社長の助言を素直に受け入れる力や下地がある。早いうちに全員のレベルの底上げがされたようだ。私が5年ほど前から通い、16人のうち半数近くにローテーションでもんでもらっていたが、たしかに全員の技術は高いところでそろっていた。このようなマッサージ店は、私が知る範囲でいえば、決して多くはない。

 社長は、16人を年に数回は高尾山や江の島、鎌倉などに観光をかねて連れていった。全員で行動を共にすることで、一体感を養うことが狙いなのだという。全員の技術が底上げされているがゆえに、このような観光でも話が弾み、楽しくなるらしい。スキルや経験の共有があるからこそ、互いに深く知り合うことができるのだろう。

 この店は1年前、私の勤務する事務所のそばから、5キロ程離れた駅そばに移転した。今も、私は同じペースで通う。それほどに、マッサージ師たちのレベルは高いからだ。130分で3200円を支払うが、その額以上のサービスをしてくれていると思う。店が移転したときに、16人のうち、辞めたのは1人だったらしい。残りは全員が社長の判断に従い、新しい店に移った。これもまた、この業界ではあまり聞かないことだ。

 社長は、「みんな(マッサージ師たち)の声を聞いているだけ」と流ちょうな日本語で、私に答えていた。

 

一体感をつくり、人が辞めない組織にする!

 今回は、部下の心を掌握し、店舗の経営を担う経営者の指導力や着眼のすばらしさを学ぶ事例と言えよう。私が導いた教訓を述べたい。

ここが良かった①
技術の共有を図る 

 「情報共有」が盛んだが、その場合の情報で最も大切なものは何か。私は、仕事に関する経験であり、個々のスキルや技術、技能だと思う。このあたりの共有は何かと難しいのだが、ある程度進むと、互いに深く話し合い、支え合うことができる。仕事の達成感や充実感なども味わえるようになるだろう。

 避けなければいけないのは、決算などの経営数値に関する情報共有だけ行い、個々のスキルや技術、技能の共有が行われないことだ。社員のモチベーションを管理するためには、まずは後者の共有を行うべきだ。今回のケースでは、社長がそこを見失うことなく、丁寧に進めたことが大きい。たとえば、「双方で目標とするマッサージのレベルを話し合い、共有する。そのうえで、お客がいない時間で見計らい、練習する」くだりは、ほかの業種の企業も参考にすべきではないだろうか。

今後すべきこと
一体感を大切にする

 この店は社員旅行を通じて、マッサージ師たちの心を1つにしようとしている。古典的な手法であるのだが、前述の個々のスキルや技術、技能の共有が徹底化されているからこそ、効果を発揮しているように思える。旅行をするだけでも一体感を感じ取らせることができるのかもしれないが、より効果をあげるためにも、個々のスキルや技術、技能の共有をふだんから進めておきたい。

 店舗を移動させるときにも、この一体感は崩れることはなかった。社長の手腕は高く評価されるべきものではないだろうか。この一体感は、結果的にコストの大幅な削減に繋がっており、組織存続のためには極めて重要な施策となった。今回のケースを模範に、あらためて自社で取り組めているかどうかを考えてみてはいかがだろうか。 

 

神南文弥 (じんなん ぶんや) 
1970年、神奈川県川崎市生まれ。都内の信用金庫で20年近く勤務。支店の副支店長や本部の課長などを歴任。会社員としての将来に見切りをつけ、退職後、都内の税理士事務所に職員として勤務。現在、税理士になるべく猛勉強中。信用金庫在籍中に知り得た様々な会社の人事・労務の問題点を整理し、書籍などにすることを希望している。

当連載の過去記事はこちら