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流通再編の衝動その4 “地方豪族”が結集、その意味するところとは?

昨年12月、アークス(北海道)、バローHD(岐阜県)、リテールパートナーズ(山口県)の食品スーパー3社が資本業務提携を締結することで合意した。北海道、中部、九州と、地続きでない地方の“豪族”が地域を跨いで手を組んだ格好だ。この提携の背景には、イオン(千葉県)の食品スーパー事業再編や、セブン&アイ・HD(東京都)とイズミ(広島県)の業務提携といった流通大手の動きがあると見て間違いないだろう。地方の有力食品スーパー同士の同盟は今後、どういった絵姿を描いていくのだろうか。

「規模の時代」は終わったのか

 「山が動いたな」

 ある食品卸の幹部は、「新日本スーパーマーケット同盟」の発足が報じられた際にこう話した。

 アークス、バローHD、リテールパートナーズの3社の売上高を足すと約1兆3000億円となる。イオンの食品スーパーグループの合計売上高である3兆2350億円(2019年2月期)、セブン&アイ・HDが提携、あるいは資本参加するSM企業の売上高合計には届かないものの、競合している食品スーパーだけでなく、メーカーや卸にとっても脅威に感じる規模になったのは確かである。

 3社の首脳は昨年の会見で「(われわれの結集軸に)どれだけの企業が参加してくるか」と強調した。まず3社で旗幟を鮮明にし、参加企業を増やしていきたい考えだ。

 3社の連携に対して、「規模の時代ではない」という指摘もある。しかし、これからの流通を考えると、デジタル投資は増すばかりであり、規模のメリットも無視できないのもまた確かだ。

 情報システムや決済サービスの投資にはじまり、加工センターの設置、物流網の整備や人材の確保など、やはり案件によっては規模のメリットは働く。アークスの横山清社長はかつて「(アークスグループの)業務システムが完成したら、提携の話を進めたいとする企業が複数ある」と語ったことがある。この新システムはすでに完成している。

 食品スーパー企業にとって、システム整備などのインフラ投資を単独で行っていくのは大きな重荷となる。店の“顔”は違っても、共通できるところは共通化した方が得策であるのは間違いない。

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総合商社の思惑うごめく流通再編

総合商社による食品スーパー再編はあり得るか

 イオン、セブン&アイに続く第三の勢力として新日本スーパーマーケット同盟が名乗りをあげた食品スーパー業界だが、ほかにも無視できない勢力がある。総合商社だ。

 流通業と総合商社は縁が深い。代表的な例でいえば、三菱商事と三井物産がかねてよりアークスに対してそれぞれ人材を派遣している。アークスにとっては世界にネットワークを持つ商社のリソースを活用できるのは大きなメリットになる。グループに卸やメーカーを抱える総合商社側からすれば、大手食品スーパーと関係を構築しておかなければ、今後の動向いかんによっては商権を失いかねない。

 三菱商事は三菱食品、三井物産は三井食品をそれぞれ傘下に抱えている。しかも三菱商事は食品スーパー最大手のライフコーポレーション(東京都)の大株主であり、オーケー(東京都)とも資本提携している。コンビニのような、商社主導による食品スーパーの大再編がこの先ないとも限らない。

 もう1つ注目すべきなのが食品スーパー出身ではない企業による再編の動きだ。流通業界ではパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(東京都)のドン・キホーテ(東京都)がじわじわと勢力を拡大している。総合スーパーのユニー(愛知県)を傘下に入れたことで、19年6月期の売上高は1兆3300億円を見込んでおり、これは、前出のアークスなど3社合計の売上高に匹敵する規模である。ある経営コンサルタントは「ドンキは生鮮食品も扱う。業態が違うからといって食品スーパーは無視できない存在だ」と話す。

 食品スーパーの再編圧力は今後いっそう高まると見て間違いない。今後、流通再編の主役となるのはイオンか、セブン&アイか、新日本スーパーマーケット同盟か、はたまた別の企業連合か。再編のうねりはますます大きくなりそうだ。