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プーマの「プロスニーカー」 一般価格の3倍でもプロの職人が「安い」と感じるワケとは?

建築現場をはじめ、製造業や軽作業などの現場で働く際に欠かせない「安全靴」。JIS基準をクリアする必要があるが、これに準じたJSAA(日本保安用品協会が規格を制定)という基準をクリアした靴は「プロスニーカー」と呼ばれる。最近ではスニーカーに先芯を入れた軽くて疲れにくいこの「プロスニーカー」が続々と発売されている。靴底には丈夫な素材が使われ、つま先部分に先芯という硬いパーツが入っているため、作業中の怪我を防止し、安心して働くことができる。その「プロスニーカー」市場に参入している大手スポーツブランドPUMA(プーマ)の「PUMA SAFETY(プーマセーフティ)」は、2021年に発売した新モデル「ジャパンアスレチック」の売れ行きが好調だという。好調の理由やその背景、今後の戦略について、「PUMA SAFETY(プーマセーフティ)」のライセンス生産元、ユニワールド(和歌山県/江川真史代表取締役)の常務 藤田健太郎氏に話を聞いた。

「軽い」「疲れにくい」+「ファッショナブル」を実現

2021年に発表されたジャパンアスレチックシリーズ

 「プロスニーカー」とはどのようなシューズなのか、ご存知だろうか。「プロスニーカー」の第一条件はつま先に芯が入っていること。また靴の幅はワイドで、それでいて先芯が足に当たらないような構造になっているのが特徴だ。

 馴染みがない人も多いかもしれないが、建築現場などで働く人の足元の安全を守るためのシューズとして、全国の作業服専門店、ホームセンターの作業服売場などで販売されている。通常使用するシューズより消耗が激しく、作業場所によってその度合いは違うものの、23カ月程度で買い替えていくのが一般的とされている。

 そのプロスニーカー市場に、2014年から参入しているのがプーマである。ヨーロッパでは、すでに20年以上前からプーマブランドとして展開し、欧州の高い安全基準に沿った頑丈で重いプロスニーカーを販売してきた。新たに日本市場への展開が実現したのは、日本でプロスニーカーの開発、製造で実績をもつユニワールドとの共同開発が決まったからだ。ファッション性の高いプーマのデザインと、長年ユニワールドが培った製造技術が掛け合わされたことで売上は好調、参入当初から販売数は計画通りに推移しているという。

 各社から販売されている日本のプロスニーカーの多くは、およそ3,000円前後。一方で、プーマのプロスニーカーシリーズ「プーマセーフティ」は1万円程度と、3倍を超える価格帯である。しかも、プロスニーカーは消耗が激しいことから、一般的なシューズより買いかえ頻度も多くなるにもかかわらず、選ばれる理由はどこにあるのか。

 「『プーマセーフティ』は、日本人がもとめる『軽さ』を最も重視した上で、シンプルな中にもプーマのフォームストライプが目立つデザインが最大の特徴。さらに、基本モデルはベルトタイプで脱ぎ履きがしやすいほか、安全上厚みがある部分もできるだけ足あたりをやわらかくし、先芯が当たっても痛くないように工夫するなど、細かい部分にまでこだわって開発した」(藤田氏)

 さらに、2021年モデルのアスレチックシリーズからは、「軽さ」に加えて、クッション性のある「疲れにくい」シューズを開発したことで販売数が大きくアップ。履き心地や、長持ちする点を評価され、工場からの一括注文も舞い込んでいるという。

 とことん日本人のニーズを満たすように作り込んだ性能の高さと、プーマブランドの両面から、「ユーザーの方々からは、1万円前後という価格帯もむしろ『仕事に対するモチベーションが上がる』、『価格は高くても長持ちする』と認知されていると思っている」(同)

日本独自モデルの開発にこだわり、高価格プロスニーカー市場参入に成功

軽さと見た目にこだわって開発

 プーマが欧米向けに作ってきたプロスニーカーは、頑丈なブーツやミニタリーシューズを元に誕生していることから、安全性が高い一方で、とにかく重いのが特徴だ。一方、日本人がもとめるのは、とにかく「軽さ」。欧米モデルをそのまま日本に持ってきても、こだわりの強い日本人に受け入れられるとは考えにくい。

 藤田氏は、「ドイツの担当者と日本人がこだわる細かい部分を伝えて共同開発を行い、何度もやり取りを重ねて今の『プーマセーフティ』が誕生した」と話す。

 実際、日本モデルは欧米モデルとは開発経緯がまったく異なり、日本基準の安全性を担保しつつ、軽くて疲れにくい運動靴に先芯を入れるという考え方から誕生している。

 「プロスニーカーの第一条件はつま先を保護することだが、ランニングシューズそのものに先芯を入れようと思っても当然入らない。幅をワイドにして足に先芯が当たりにくく工夫しながら、いかに見た目をランニングシューズのように細身でおしゃれに見せるかを考えた」。

 実は、スポーツブランドとして日本で最初に安全靴市場に参入したのは、アシックスである。アシックスが1万円前後で性能にこだわったプロスニーカーの販売を開始し、値段は高くても「疲れにくい」「履き心地がいい」プロスニーカーが人気を集め、2010年頃から高価格帯の商品が売れ始めた経緯がある。ユニワールドはそのタイミングでプーマセーフティとライセンス契約を結び、高価格帯のプロスニーカー市場に参入した。

スポーティーモデルとカジュアルモデル両方が揃うのがプーマの強み

カジュアルモデルのヘリテイジシリーズ

 一般的なプロスニーカーと比べて高価格でも、スポーツブランドのおしゃれで疲れにくいタイプを選ぶ消費者は確実に増えている。これまでプロスニーカーの売場には、アシックス、ミズノ、プーマなどのブランドが並んでいたが、最近では、新たにニューバランスやコンバースも日本の安全靴市場に参入。消費者にとっては選択肢が増えている。

 一方、競合ブランドが増えていることについて、藤田氏は「『プーマセーフティ』は独自の路線を追求しているので、競合ブランドとは認識していない」と話す。

 その理由は、他ブランドはあくまでもスポーティーなモデルが中心であるところ、「プーマセーフティ」はスポーティーモデルとカジュアルモデルの両方が揃っているからだ。さらに、1年に2回のペースで新しいカラーを投入するなど、ファッション性の高いプーマらしくファッションとしての楽しみ方も提供している。

 全国の代理店経由で現場からの声を拾い、「こんなカラーがほしい」「こんな機能がほしい」という要望は常に商品の企画に活かしているが、「プーマセーフティのスポーティー、カジュアルの両モデルに、ユーザーの声をいかに反映していくかは永遠の課題」(藤田氏)

 よりスポーツライクでおしゃれな作業用品をもとめる消費者のニーズを受け、作業服メーカーもアウトドアライク、スポーツライクな作業服の展開を始めるなど、プロスニーカーに限らず作業用製品全体が変化しつつある。

 プーマセーフティブランドとしては2024年に、より着脱が楽に行える、プーマのディスクモデル(靴ひもを使用せず、足の甲部分に取り付けられた円形のパーツを回して靴をフィットさせるプーマ独自のディスクシステムを搭載したモデル)を採用したプロスニーカーが投入される予定だ。それに先立ち、2023年初夏に作業用手袋の販売をスタートすることが決まっている。

 「今後は、プーマブランドをトータルにコーディネートしていただけるような新しいラインも登場する予定なので期待して欲しい」と藤田常務は意気込む。

 安全性だけでなく、ファッションとしてもこだわりたいという消費者のニーズを受け、これまでの常識を覆すような進化はますます加速しそうだ。