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武器は現場感覚!ローカルスーパーとしての責任を果たす=カスミ 藤田元宏 社長

関東地方を中心に食品スーパー(SM)を展開するカスミ(茨城県/藤田元宏社長)。2012年2月期連結業績は、営業収益2216億9700万円(対前期比1.4%増)、営業利益81億6200万円(同20.1%増)、経常利益83億6300万円(同13.3%増)、当期純利益14億5700万円(同54.8%減)だった。13年2月期は中期経営計画(中計)の最終年度に当たり、新中計の策定作業も控えている。カスミはどのような成長戦略を描くのか。12年3月1日に社長に就任した藤田元宏氏に聞いた。

来店頻度と客数が減ることに危機感

カスミ代表取締役社長 藤田元宏 ふじた・もとひろ 1955年生まれ。明治大学政治経済学部卒。1978年カスミ入社。店舗勤務を経て、2000年に取締役に就任。04年常務取締役、05年上席執行役員業務サービス本部マネジャー兼コンプライアンス統括室マネジャー、06年開発本部マネジャー。07年5月、専務取締役に就任。09年店舗開発・サービス本部マネジャー、10年販売統括本部マネジャー兼フードマーケット運営事業本部マネジャー、11年営業統括本部マネジャー兼フードマーケット運営事業本部マネジャーを経て、12年3月に社長就任。56歳。

──カスミでは、初のプロパー出身の社長になります。今回の就任をどのようにとらえていますか。

藤田 自分では特段、プロパーかどうかについて意識はしていません。

 当社はダイエー(東京都/桑原道夫社長)さんやイトーヨーカ堂(東京都/亀井淳社長)さん出身の人が多く働いていた時代もありましたし、私はそういった先輩方の近くで長く仕事をしてきましたので、社外出身の方に対して抵抗感はありません。「会社にとって有益な人がリーダーになればいい」というスタンスです。

 当社はローカルエリアで商売をしていますので、世間知らずな所が多くあります。地元でいちばんであることに甘んじてしまうと、情報に疎くなり、世の中の変化から取り残されるリスクがあります。そして、ウイークポイントはそこだと認識していますので、今後も外部の方とのお付き合いやそこで得られる情報を大事にしたいと思っています。

──これまでどのような業務に携わってきたのですか。

藤田 入社してから13年ほどは店舗に勤務していました。青果部門を7~8年担当した後、スーパーバイザーを2~3年、次長を1年、店長を3年ほど経験しています。その後、本部勤務となり、人事の教育担当、人事部長、営業部長を経て2000年に人事担当の取締役になりました。

──現在は、少子高齢化や人口減少、原子力発電所の問題など、難題が山積みの舵取りが難しい時代です。その中で《藤田色》をどのように打ち出していきますか。

藤田 経営は継続性が大事ですから、社長に就任したからといって《藤田色》を前面に押し出していくということはありません。

 ただ、難しい時代の舵取りに当たって、危機感を抱いているのは、当社の生命線である店舗から半径1km圏内のお客さまの数や来店頻度が減ることです。

 私は、ローカルスーパーがこれまでのような商品政策や価格政策で商売を続けていくことはできないと考えています。高齢化の進展で急増する65歳以上の単身世帯の家計にどう貢献できるのか。店舗から半径1km圏内のお客さまの買物行動を考えて売場づくりをしない限り、毎日来店いただけるお店にはなりません。

──お客の買物行動に注目している。

藤田 そうです。10年9月から販売統括本部マネジャーを担当してから意識するようになりました。不振店を立て直すために数字をどう解釈し、従業員にわかりやすく伝えるのか。その際、注目したのが買上点数でした。買上点数を増やすためにはどの商品をあと何個売ればいいのか。どのように商品を販売すれば購入してもらえるのか。それを考えていくうちに、お客さまはどういう意識で実際に買物をしているのかといった買物行動に着目するようになったのです。

 お客さま視点で売場に立つと多くのことが見えてきます。また、お客さまが直接、改善点を教えてくれることもあります。

──よく臨店をすると聞いています。

藤田 はい。私は売場が大好きです。とくに営業中の売場に立ち、お客さまの買物行動を見ているとあっという間に時間が過ぎてしまいます。そこで見たことと実際の数字とを検証してみると「やっぱりな」ということが多々あります。たとえば「お客さまがあまり立ち寄らないコーナーだな」「うまく商品をアピールできてないな」と感じた売場はうまくいっていないことが多いものなのです。売場で見て感じたことと、実際の数字を照らし合わせて仮説を立てて行動してみる価値はあります。

──そうしたギャップの改善を、具体的にはどのようなかたちで施策に落とし込んでいるのですか。

藤田 当社は全店長に毎月の売上予測を出してもらっています。一方で予算がありますから、予測と予算の差額をどのように埋めるのかを部門ごとに考えるよう指示しています。たとえば、お店で月間90万円の差を埋めるために、どの商品をどう販売して1日3万円を稼ぐのか。商品部はカテゴリー別に予測を立て、週間単位に落とし込んでその差をどう埋めていくのかを毎週確認しています。

──論理的なアプローチですね。

藤田 まだまだです。何よりも、誰にでもわかりやすくしなければならないと考えています。SMはパートタイマーさんの比率が高い業界なので、そこはとくに注意しています。私はこの4年ほどマネジメント改革を担当してきましたが、管理職には販売を担当するに当たって具体的でわかりやすい指示を出すことを徹底させています。これが企業風土として定着するまでには時間がかかりますが、ぜひともやり遂げたい。

「声なき声」を拾うためのSNS研究会

──さて、3月1日付けで「ソーシャルメディアコミュニケーション研究会」を新設しています。これも買物行動の分析・検証と関係しているのですか。

藤田 そうです。いくつか仮説を立てて研究しています。

 1つめはソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)上でお客さま同士が交わされる「声なき声」に真摯に対応したときに、企業風土や売場を変えることができるのではないかということ。

 2つめはSNSの人間的でポジティブでスピーディなやり取りを社内のコミュニケーションツールとして取りこむメリットがあるのではないかということ。

 3つめは、チェーンストアはマーケットのお客さまの最大公約数をターゲットにすることが一般的ですが、高齢化の進展と人口減少の時代にそれだけでは立ち行かなくなるのではないかと考え、一人ひとりのお客さまの行動や声に対して従業員が個店ごとに対応することが大事なのではないかということです。

 この3つの仮説に基づいてSNSを研究しています。

 12年度の方針はお客さまの「不便さ」を徹底的に取り除くことです。実際に来店されるお客さまの意見を聞く体制はすでにありますが、問題は「声なき声」です。それに真摯に対応していかないと客数を伸ばすことはできないと考えています。

──最大公約数以外には、どのような客層を想定していますか。

藤田 小さな子どもがいる30代の家庭や75歳以上の高齢者、クルマを持っていない人、そして買物難民と言われている方々です。

──移動スーパー(移動販売)とネットスーパーもすでにスタートさせています。

藤田 はい。まだまだ黒字化のめどは立ちませんが、授業料を払っているつもりでやっています。移動スーパーは予想以上の反響がありました。今後は収益の上がるビジネスとして磨きあげたい。

震災で消費者の買物行動が変化

──増収増益決算だった12年2月期業績をどのように振り返りますか。

藤田 上期は東日本大震災からの復旧と原子力発電所の事故への対応で苦心しましたが、従業員の頑張りにより“食のライフライン”としての使命を果たすことができたと自負しています。お客さまの買上点数を増やすための施策が奏功したこともあり、増収につながりました。増益となったのは、売上総利益高(粗利益高)が対前期比3%増と何とか確保できたことと、節電や地道な作業改善運動の効果が表れたからです。

──買上点数は伸びているということですが、とくに重要視している客数は減っています。

藤田 東日本大震災後は夜6時以降の夜間のお客さまが減り、逆に開店から昼の12時までの間に来店される方が増えています。つまり、買物行動が夕方・夜間から午前中に若干シフトしています。

 買上点数が伸びているのは来店頻度が減っているからだと考えています。これはガソリンの値上げが影響しています。当社はクルマ利用の店舗がほとんどなので燃料価格高騰の影響を大きく受けます。

──ほかにもお客の買物行動に変化はありましたか。

藤田 はい。とくに下期から大きく変わったと思います。そのポイントを3つ挙げるなら、1つめは先ほど述べた夜間の来店客が減っていること。2つめは購入する商品の量目が適量になっていること。つまり冷蔵庫にストックすることがなくなりました。そして3つめは保存性の高い食品をより多く購入するようになったことです。

 当社ではこうした変化に対応するべく、店内作業の時間を変更したり、必要な量目と価格の品揃えで《値ごろ感にあふれた売場づくり》に努めています。その結果、3月は前年を上回る客数を達成しています。

 13年2月期の予算上の客数は、既存店ベースで対前期比3%増が目標です。業態別、店舗別に1日当たり何人客数を増やすのか、商品部と営業企画部は1カ月当たり何人客数を増やすのか、といった具体的な数値目標を立てて取り組んでいます。

──販売促進施策については、約1000品目あったEDLP(エブリデイ・ロー・プライス)商品の品揃えを見直しているそうですね。今後、EDLPとハイ&ローのどちらに注力するのですか。

藤田 この2月中旬から3月上旬にかけてEDLPの対象商品を見直し、無駄な商品については取りやめています。お客さまからの支持の高い商品の価格を下げており、すでに実績として表れています。

 販売施策については、現時点でハイ&ローの手段としてのチラシ配布を減らそうとは考えていません。EDLPはEDLC(エブリデイ・ロー・コスト)あってのものです。ローコストオペレーションを徹底するとなると、どうしても人件費を減らさなくてはなりません。しかし、ローカルスーパーには地域の雇用責任がありますから、当社は今後もハイ&ローを中心に、われわれが提案したい商品をできるだけ安くお客さまに提供していきます。

足場をしっかりと固めドミナントを強固に

──13年2月期は中期経営計画(10~12年度)の最終年度に当たります。来期を初年度とする新中期経営計画ではどのようなことに取り組みますか。

藤田 新しい組織づくりを行い、組織内のコミュニケーションを改善したうえで何をめざすかを考えたい。

 今の時代は個人が強烈なリーダーシップを発揮して組織をぐいぐいと引っ張っていける環境ではありません。知識や経験、知恵を持った人をどのように意思決定の場に集結できるか。それを企業価値にしようと考えています。

 出店戦略については、当社が展開する3つのフォーマットの特徴づけをしたいと考えています。

 食卓への提案機能を高めた当社のフラッグシップ店舗「フードスクエア」は、延床面積1000坪、売場面積700~750坪で半径3kmを商圏に設定しています。価格帯を広げる一方で、収益力をいかに上げていくかが課題です。

 標準業態の「フードマーケット」は、売場面積600坪前後で半径1kmの商圏をベースにしっかりとした収益を恒常的に上げるべく、来店頻度を追求したいと考えています。

 売場面積300~400坪の価格訴求型店舗「FOOD OFF ストッカー」は、半径500mという小商圏でローコストによるロープライスを実現します。損益分岐点の低い小型店舗として「フードスクエア」と「フードマーケット」の2業態の間を埋めていくようなイメージで出店します。

 12年度は、「フードスクエアカスミ越谷大袋店」(埼玉県:開業4月13日)、「フードスクエアカスミ流山おおたかの森店」(千葉県:同4月20日)、「フードスクエアカスミ春日部武里店」(埼玉県:同4月27日)、「フードマーケットカスミおもちゃの町店(仮称/栃木県:同7月)」、「フードスクエアカスミ越谷東駅前店」(仮称/埼玉県:同9月)、「フードスクエアカスミふじみ野西鶴ケ丘店」(仮称/埼玉県:同11月)の6店舗の出店を予定しています。

 来期以降も年間6~7店舗の出店は継続します。埼玉県や千葉県への出店を強化する一方で、ドミナントエリアである茨城県への出店にも力を入れ、足場をしっかりと固めていきます。