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効率改善どころかアパレル業界を死に追いやる! 「PLM」5つの致命的な誤解とは

製品の開発・設計・製造といったライフサイクル全体の情報をITで一元管理し、収益を最大化していく手法であるProduct Lifecycle Management(PLM)の失敗報道が絶えない。このままでは産業界は崩壊の一途だ。幾度も警報を鳴らしてきたにも関わらず、なぜシナリオ通りのことが起きるのか。先週は、PLM導入の裏舞台について語ったが、今週はPLM導入に関しての”大いなる勘違い”について述べる。特に大きな投資を迫られる経営者はしっかり理解してもらいたい。

putilich/istock

 誤解と真実①PLM導入にアジャイルなどない

 PLMベンダーの中には、当社は「アジャイル導入が可能だ」と吹聴しているところがあるがそれは嘘である。百歩譲って、パッケージ導入におけるアジャイル導入のことを指すのであれば、それは「システム開発」のことであり、運用まで視野にいれたPLM」によるDX (デジタルトランスフォーメーション)のことを指してはいない。   
 PLMベンダーのホームページには、これ見よがしに導入スケジュールや実績が書かれているが、導入に成功した企業は、下着メーカやシューズメーカなど、自社でR&D、工場、流通、販売チャネルを持つ企業でProduct lifecycle 全体を一社のグループで制御できる企業だけである。

  日本のアパレルは、売場はECであれば「ZOZO」や「楽天ファッション」など、リアル店舗であれば「イオンモール」や「百貨店」などの小売で、調達・流通は複数の商社が担う。さらに、その後ろにはテーブルメーカーや縫製工場、さらに、素材メーカーや原料メーカーが連なっている。

 ある1000億円のアパレル企業は、仕入先のアカウントがなんと5000もある。こんな状況で、PLMが入るはずがない。
 なぜならPLMを導入するということは、これらの膨大かつ複雑なサプライチェーン上に一つだけ置き、経済圏(エコシステム)、つまり数千人の人間が一斉に動き、一つのマスターをアップデートするという、ウルトラC級の技と取り組みが必要になるからだ。PLMベンダーの「アジャイル」には、こうした話は一切入っていない。

  本来、こうしたエコシステムをつくるには、投資計画を立てる前に、誰がクラウドオーナーになる(プラットフォーマー化)のか、誰が投資をするのか、誰がオペレーションをして、サプライチェーン全体で生み出される生産性向上によるリスクシェアとプロフィットシェアをどうするのかを、マネジメント層が集まって決めなければならない。こここそが、我々デジタル戦略コンサルのノウハウなのだ。

  サプライチェーンの最終段階は、CPFR (シーファー)といって、Collaborative Planning,Forecasting and Replenishmentをいう。これは、日本語で、サプライチェーン全体が共同で生産計画をたて、共同で予測を行って、共同で商品供給を行う、ことだ。つまり、細分化された(バラバラの)サプライチェーンを整理整頓し、商社を外すのか、商社と心中するサプライチェーンをつくるのかを決め、ものづくりから店頭までの最もベーシックなサプライチェーンを定義し、構築することなのである。
 例えば、3D CADはアパレルが投資をするから、そこで得られるサンプル費の削減は工場の研究開発費に計上されるはずなので、その工場に対する年間発注量の目標をたて、サンプル償却費の総額から一枚あたりのコスト削減効果を算出し、CMT(製品加工賃)から削減してもらう、というオペレーションをすれば簡単にできる。定期的に商社ごとに比較を行い、もし商社が嘘をついていたら他の商社に代えれば良い。

 

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誤解と真実②導入前のフィット&ギャップなければ、金をドブに捨てるだけ

CreativaImages/istock

 私が驚いたのは、PLMベンダーの「アジャイル」という言葉に翻弄され、本来はマーチャンダイザー 20名を大部屋にあつめ、レベル1の業務フローの上段から一つずつ、フィット&ギャップといって、現業の業務に合わないオペレーションを、①パッケージの開発をするのか、②パッケージの標準機能を使いパッケージの外の運用で対応するのか、③パッケージの外の運用にRPA (ロボティクス:作業を自動化するツール)を導入し、パッケージを標準のまま使うのか、の 3つの選択肢から選び、業務担当者、パッケージベンダー、情報システム部を集め、一つずつ決めてゆくのだ。とくに、最も時間がかかるのは、商社や素材メーカーとの要件定義である。ダメなアパレルは、このフィット&ギャップを省略し、勝手にシステムをつくって、いきなり商社や工場に説明会を開き「このシステムにリアルタイムにデータをいれて欲しい」といって断られ、あたふたする。

  これは、笑いごとではない。先日、経済産業省と私が主宰する研究会のメンバーが話し合う機会があった。過去、私(河合)は、10年も前から日本とアジアの業務コードの標準化をやれ、と経済産業省に提言してきたのに、経産省は分科会という形でお茶を濁し、業務をしらない学者やコンサルを集めてフェードアウトしている。その結果、メンバーである某商社の社員が経産省に切実に訴えた内容によれば、その商社では全社員の7%が「キーパンチャー」(伝票をコンピュータで処理するために、データ入力する専任の人)として採用され、アパレルの身勝手なPLM導入によってその数は膨れ上がっているという。
 聞けば、PLMベンダーが、生産部などと一緒に勝手に開発を進め、「アジャイル」でシステムを作って請求書を渡して去って行くという。PLMベンダーからすれば、「さあ、我々の仕事は終わった。あなたたちは検収もしている」というわけだ。そして、動かないPLM3年間のミニマム費用を払い続けることになる。余談ながら、アパレル と同じPLMを、その商社も別途自前で導入している。

誤解と真実③PLMをいれても売上は一切上がらない

 PLM導入の目的は何かと尋ねると、「売上をあげることだ」と、述べる人間がいるのには驚きだ。なぜか、と訪ねると、PLMを導入すればリードタイムが短くなる。リードタイムが短くなれば欠品を埋められ売上が上がる、という理屈だ。
 だが、これは意味不明な論理である。

  聞けば、ベンダーからそのように説明されたということだが、今、日本市場のアパレルの海外生産比率は99%に迫り、リードタイムは中国で2-3ヶ月、バングラデッシュでは半年というのが一般的だ。その原因は、日本市場は縮小していることに加え、QR(クイックレスポンス)の名の下に小刻みに数百枚の発注をバラバラに行っているため、工場にとってうまみがないためだ。海外工場は「ジャパンパッシング」(日本無視)を行い、成長著しいアジア内陸向けの受注を優先、日本からの発注を後回しにしているのだ。だから、物理的にリードタイムが2ヶ月もかかったり、半年もかかることはない

  具体的には、欧米、内陸向けの空き時間に日本向けを埋め込むか、ラインを一本にして(通常は5-10本)細々と生産するかのいずれかだ。このように、リードタイムの長期化は、デジタル導入とは全く関係ない。私が、商社不要論から商社活用論に変化したのは、商社の中には工場のラインを買ったり、工場に出資して日本向けの仕事を優先しているところがあるからだ。

  よく考えて頂きたい、商品的中率には二つの大きな変数があり、それは「計画が正しいか」、「仮に正しければ、その通りに商品が納入されるか」である。全社は商品政策(MD)の領域でPLMとは関係なく、後者も成長著しいアジアの市場へ工場の戦略が変わっている話でPLMとは一切関係ない。だから、PLMが売上を上げるという理屈はおかしいのである。

 

誤解④PLMはMD精度を高めないし分析もできない

 PLMベンダーの中には、PLMにはMDの分析ツールが入っており、需要予測までできるなど嘯くところもある。だが、PLMというのは、予算計画が商品計画に落ち、サンプル作成が終わり量産商品が確定した段階でBOM (Bill of material 部品分解のこと)をまわし、素材発注や付属発注をして終了だPLMがもっとも有効なのは、売上計画や利益計画、投入計画が瞬時に見える点。また、来るべきSDGs時代に、サプライチェーンのトレーサビリティをデータ化できる点にある。

  それでは、なぜPLMベンダーはPLMを導入すればMD分析ができる、と嘘をいうのか。理由はシンプルで、彼らは実務をしたことがないからだ。MDというのは、初期計画を約30%程度たて、店頭での売れ行きをみて「初速」と呼ばれる売れ行きのスピードを見ながら、短納期で売れ筋を追加発注してゆく。52週で回すと、週指数、在庫週数、アイテム別初速など、PLMではまったく対応できない機能が必要となるが、そんなことも知らないのだ。つまり実務においては、この時点でPLMは関係なく、プロパー消化率や最終消化率などの過去実績を踏まえ、残在庫の換金を優先させて期末の余剰在庫を極力減らすことになることはいうまでもない。  

  私は、このモデルを、Excelを活用し、SPA向けや通販向けなどを作った。一つのファイルで20MBもするお化けのような計算式が組み込まれた代物だ。

 PLMについている「MDダッシュボード」と呼ばれる機能は、こうしたデジタルツールが裏側で動き、そのデジタルツールをマネジメント向けに集約して一覧できるようにし、Excelに毛が生えたような機能がついただけだAI でも、予測が難しいMD計画を量産商品のBOMをするだけのPLMにできるはずがない。加えていうなら、3D CADについては、韓国のCLO(クロ・エンタープライズ)が産業界のデファクトとなっているが、このCLOと大手PLMは標準機能では結合できないことも付け加えておこう。

誤解⑤PLM同士を結合させるのは愚の骨頂

 このようにカオス状態となったPLMは、一社ではどうしようもないということで、バリューチェーン同士、データ結合しようとする動きがある。しかし、クラウドというのは、URLにログインIDPWがあれば、世界中のどこからでもPLMを操作することが可能だ。だから、何度も言うように、PLMはサプライチェーン上に一つあればよい。

  アパレルももっている、商社ももっている、工場ももっている、だから全部繋げればよい、という発想だ。こんなことをすれば、同じPLMに同じデータが3つも入ることになり、海外のPLMベンダーに2倍も、3倍も課金されるだけだ。ここまでくると、もはやどうしようもない。構築したPLMは償却してもらい、違約金とともに特損計上し、最初から正しい業務分析、サプライチェーン、投資の分担とプロフィットシェアのルールを決め、大きな枠組みを再度やりなおすということ以外にリカバリーの方法はない。実際、某商社ではPLMの完全償却を決めた。

 このように、産業全体の最適化を図るはずのPLMが、産業全体の流通コストを上げ、なんの意味もないPLM3つも4つも導入し、売れない低コスパの商品を来たるべきZ世代(日本も海外も)に対して売りつけて自滅し、高笑いしているのはPLMベンダーだけという状況なのだ。さて、こうした状況の中、次週は「やってしまった」PLM導入をどのようにリカバリーするのかを提示したい。

 

河合拓氏の新刊、大好評発売中!知らなきゃいけないアパレルの話

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
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