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いま「知らなきゃいけないアパレルの話」とは

アパレル産業の不都合な真実を明かす

idealistock/istock
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 2016年冬、私は生死を彷徨っていた。都内の病院で大きな移植手術をする、まさに決死の治療を受けながら、全身の激痛に耐えていた。私の体の免疫が他人の臓器を拒否する。w私の顔倍近く膨れ上がり、とうとうモルヒネ漬けとなる。モルヒネは脳内に幻を映し出す。横に立っている妻に、「カバが3匹空中を飛んでいる。なぜか」と聞くと、妻はおかしな顔をしていた。病室内で話をするとき、私はビニールシートに囲まれ、必ず風上に自らの体を置き、病院関係者以外で唯一病棟に入ることを許された妻は風下に立った。外から持ってきた細菌やウイルスに感染しないように、である。そんなときだった。女性の美しい歌声が聞こえてきた。クリスマスの聖歌だ。看護師さんたちが、みなで歌を歌い、ろうそくを持って病棟を回る。その歌声は天使のそれだった。

 人は、「死」を目の前に突きつけられると、その「死」の意味を考えるようになる。「なぜ私だけが?」「私が何か死ななければならないことをしたのだろうか」など、「死ぬことの理由」を探すのだ。そして、もう一つ「生」の意味も考えるようになる。もし、生きることができたら、自分は授かった命を何に使うべきなのか、ということだ。私の中の答えは明確だった。私はコンサルタントとして、十分生きてきたように思えたが、やり残してきたことがあった。

 それは、「自分がやってきたこと、自分の技術を次世代に伝承して私の志を継ぐ人材を作ること」「日本再生のために私ができること、そのために、アパレル産業の不都合な真実を明かすこと」である。

 「この本」はこうして書き上げた。

崩壊の危機から企業が脱する術を具体的に提示

「この本」というのが、私が97日に出版する『知らなきゃいけないアパレルの話』(ダイヤモンド社)である。

 業界で10年間使われる全く新しい普遍的な教科書をめざし、ほぼ全編をダイヤモンド・リテイルメディアと話し合いながらテーマを決めて全く新たに書き下ろした。

 本書は「不都合な真実」を白日の下に晒したものだが、一部で実名や社名は公表を控えた。赤裸々に実名や社名を晒す方がリアリティがあり、また、読者も増えることはわかっている。しかし、私の意図はそのような読者を煽るレベルの低いものであってはならない。なぜなら、本書が私の最後の書になるかもしれないからだ。何が正しくて何が間違っているのかを正しく記述することで、アパレル産業が崩壊してゆく様をリアルに伝えること、そしてその崩壊の危機から企業が脱する術を具体的に提示することが本書の目的だからだ。

 例えば、全く受け入れがたい事実を目の当たりにしても、平然としているビジネスパーソン達を山のように見てきた。生死を彷徨い、生き残ることができれば全力で産業復興のため、この身をささげようとした私から見て、彼らはまるで宇宙人のようだった。彼らは何もしないし、何も変えようとしない。自分たちに降りかかる将来の恐怖を論理的にも分かりながら、それでも、長いものに巻かれようとし、今日、明日のことで精一杯と、全てが他人事なのだ。


アパレル産業がダメになる、単純な構図とは

Liuser/istock

 例えば、経済のいろはの勉強を全くせず、非常に大きな産業界の意思決定に関わっている人も見た。私が事実と論理をもって反論しても耳を傾けようとしない。私は、喧嘩を売っているのでなく議論をしようとしても、そもそもの知識レベルに大きな差があるため議論にさえならない。また、匿名で私に対する妬みをSNSに書き綴り、議論さえしようとしない。これが、アパレル業界が何も変わらない元凶であり構造だ。彼らは、このように公式戦には決して姿を現さないが、非公式な場では「この産業はやばい、あの会社はやばい」と噂話ばかりをしている。

  アパレルというマイナーな産業に関する書籍は売れないという理由から、私の処女作は、内容はアパレルの話だが、題名は『ブランドで競争する技術』(ダイヤモンド社)となった。おかげでこの本はアジアでも出版され、台湾や中国からいろいろなファンレターが舞い込んできた。この本は二年の歳月をかけて書いた本で、今から10年以上も前に書いたのだが、この本こそ今アパレルの人達に読んでもらいたいと思っている。

 そして、第2冊目『生き残るアパレル 死ぬアパレル』(ダイヤモンド社)は、辣腕編集長である阿部氏との出会いを抜きに語ることはできない。彼のたくみなマーケティングセンスのおかげで、この本はコロナ禍にも関わらずベストセラーとなった。そして今回、『ブランドで競争する技術』を超える、10年使える教科書として将来の改革の侍(サムライ)達に残そうという志のもと、第3作となる書籍のプロジェクトはスタートした。

 新著『知らなきゃいけないアパレルの話』は、こうして完成した。発売は97日だがすでに予約は開始されている。私からは、「知らなければならないアパレルの不都合な真実」というような題名にしてもらいたい、という申し出をした。「西村博之」さんの、二匹目のドジョウを狙ってのことだと思われるかも知れないが、内容も題名にそったものであり、決して二匹目のドジョウではない。

 アパレル産業というニッチな業界に特化し、学者が書く一般論でなく、実務家である私が書くことに大きな意味がある。アパレル産業界に従事する方の目を覚ますと同時に、これを貴重な事例として金融機関、他産業のビジネスパーソンから学者まで、すべてのビジネスパーソン、マネジメント層に向けて発表するという大きな実験だ。

私が本書で言いたかったことは、「ユニクロだけが一強で世界一となり、それ以外の企業は崩壊の淵にあるその本当の理由」だ。この難問の答えの1つは、意外に簡単なところにある。それは、我々自身の中にある他責根性と、「明日考える」と問題を先送りにしながら年を重ね、いつしか自分自身が既得権者になっているためだ。

 このほか本書では、「今、服が売れない」本当の理由、SDGsがアパレル産業を壊す背景とこれから、アパレル産業が環境破壊する元凶である過剰在庫撲滅の方法、ユニクロ、百貨店、伝統的アパレルの10年後、アパレルが生き残るための最終条件など、今、「知らなきゃいけないアパレルのこと」を網羅した。

 本書は、いままで私に対する批判であった、「課題はわかった解決案を出せ」という声に十分応えたものだ。とはいえそもそも論を言えば、解決案は個々の企業によって異なるのであり、本当の回答は、個々の事情に応じた戦略を立て、それを「やり抜く」ことにある。その具体的な方法論についても本社では丁寧に解説している。

ぜひ本書を手に取っていただき、健全なご批判をお待ちしています。

 

河合拓氏の新刊がいよいよ9月に発売決定!

「知らなきゃいけないアパレルの話」

アパレルはSDGsに殺される!なぜ多くのアパレルは青色吐息でユニクロだけが盤石の世界一であり続けるのか!?誰も書かなかった不都合な真実と逆転戦略を明かす、新時代の羅針盤!
書籍の予約は:『知らなきゃいけないアパレルの話』まで

 

 

 

 

プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
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