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規模は小さいが抜群の成長戦略!TOKYO BASE、アパレルの常識を覆す3つの強みとは

これまで数回にわたってアパレル企業の最新決算をもとにした企業分析をおこなってきた。今回は再三再四、私の論考に登場するTOKYO BASEである。同社の戦略と財務を照らし合わせて、同社が規模が小さくとも、多くのアパレルが実行できない「日本でブランドを醸成して世界で稼ぐ」ことができているのか、詳しく見ていきたい。

TOKYO BASEが展開するショップの1つ、PUBLIC TOKYO

交差比率さえ古い!アパレルの企業分析に、「一般論」は通用しない

アパレルの企業分析に、一般論は通用しない。例えば、すでにリテール企業の定番ともいえる交差比率でさえ、トレンド・ターンオーバー、プロダクト・ターンオーバー、キャッシュ・ターンオーバーがバラバラに動きだしている今、この指標は旧式化していることは述べた通りだ。

さらに、最近では、「GMROI 」 (商品投下資本粗利益率) を主要KPIに取り入れるべきだという論調もあるが、これも注意が必要だ。GMROIは「粗利額 ÷ 平均在庫投資額」で表され小売指標の定番となっているが、まず、この指標には買掛金が入っていない。現場の人間であればすぐ理解できるだろうが、期末やOTB制御がかかったアパレルは、指標が悪くなると仕入先に在庫を押しつけ現物投入しないことが多く、さらに98%がオフショア生産となったアパレル企業は、Ex factory to LDP (Landed Duty Paid 陸揚げ後)までの期間は一週間もあるし、簿外在庫の山だ。だから、私はざっくりとした在庫効率を観る場合、運転資本から算出される買掛金も在庫として見るわけだ。

さらに、そもそも、99%以上が非上場企業のアパレル企業にルールも何もあったものではないため、ライトオフルールは企業によってバラバラで、上場企業でも「儲かったら大催事で一括償却」という荒療治をしている企業を私はいくつも知っている。さらに、管理を厳密にしている企業でさえ、一定期間経った在庫は評価減をするため、売価だけでなく、在庫簿価そのものも変動することは常識だ。要は教科書通りの指標で「どれが使えるか」と探しても、蛇の道は蛇だというわけだ。指標というのは、その指標が大事なのではなく、その指標の持つ意味合いを理解し、特定の産業に当てはめたときにどうなるかということを理解すべきなのである。KPIに唯一解はない。KPIとは、その組織が持つ事業戦略と高い相関性を持っており、例えば小売企業とSPA、百貨店とECなどまるで違うのだ。

エリアポートフォリオで成長する
TOKYO BASEの戦略

さて、本連載で私はこの3年、「答えを探すな、答えにしてしまえ」と説いてきた。アパレルの企業分析をする場合、ドリルダウン法により、大づかみでその企業のフラッシュデータをつかみ、異常値、あるいは、経年で気になる箇所を細かくドリルダウンしながら、その実態を掴むというのがアパレルの、というより「分析」の基本である。最悪なのは、ただ数字を羅列だけし、その時々に仮説を出さず「細かく見ないと分からない」と、いきなり子細詳細に入るやり方だ。これは、単に有報(有価証券報告書)に書いてある数字を「コピペ」しているだけで、何の価値もない。

本稿では、まず、大きくTOKYO BASEとは何者で、どのような実態なのかを解説しよう。

図表1TOKYO BASE 過去3カ年分析   **21年度のみ東京・香港は11ヶ月、またエリア別売上を合算しても、連結調整が入るため、売上合計と一緒にはならない。出所:決算説明資料

まず、同社の決算説明資料を見てみよう。売上だけを見てみると、20年度(212月期)はコロナの影響もあり、売上は落ちているも、19年度→21年度はグロスで約150億円から一気に約180億円と、堅調な売上成長をしている(ように見える)が、その内訳を見てみると国内市場は横ばい。同社の成長のキー・ドライバー(重要な値)は、21年度の中国売上だ。ロックダウン下にも関わらず、7億円から、一年で一気に27億円に成長している。一方、私が「レッドオーシャンと化している市場」と定義している日本では、無敵のTOKYO BASEでも19年度、20年度はともに150億円となっており、販管費、原価などはエリア別に提示されていないものの、営業利益を見れば21年度の中国市場は14000万円の黒字を確保し営業利益率を5.4%に押し上げている。この構造は、複数のエリアを持ちながら「エリア・ポートフォリオ」で最高益をたたき出したファーストリテイリングと同じ戦略(といっても、世界では当たり前である)なのだ。さて、ここまで明確に「優勝劣敗」の要因が明らかになっても、貴方たちは、まだ日本市場に止まり30年前のやり方を続けるつもりなのかと聞きたい。


販管費40%台はグローバル競争への仲間入りチケット

TOKYO BASEの1業態であるUNITED TOKYO

さらに、私は国内アパレルSPA企業TOKYO BASEは約半分がセレクト業態であるが)、を比較したとき、「売上高販管費率50%台では話にならない、世界企業と伍して戦うためには40%台、無敵のユニクロ国内事業は驚愕の30%であることを別の論考で説明した。この分析は、あちこちから大きな反響を頂き、競合であるグローバル・コンサルファームからも「もっと詳しく教えてもらいたい」ということで、7月に開催する講演のテーマとなった。余談ながら、こうした分析に対し一部の人間がTwitterで、「しまむらや西松屋チェーンはもっと低いじゃないか」と

反論されている方がいたが、ネットで騒いでいる「アンチ」は、全体の1%以下なので放っておけば良いと私は考えているのだが、周りの友人がうるさいので、一つのケースとして解説しよう。論理的とはこのような流れをいう。
まず、しまむらは、一部自主ブランドを持っているとはいえ、クロスプラス、タキヒョーなど供給業者が供給している「小売」であり、西松屋も「アパレルSPA」ではない。本文をよく読んでいただきたいのは「アパレルSPA」をコストモデル化し、同じ経営環境下で「ユニクロ国内事業」と比較しているのだ。一口にアパレルといっても、機能コストが変わればコストモデルは全く違うので比較対象にならない。これを「リンゴとオレンジの比較」という。
 また、出店「抑制」と「販管費の削減」には何の相関性もない理由は、B2Cの場合は家賃は固定費で「抑制」による売上減少は相対的に家賃費率を「上昇」させ減少させることはない。また、B2Bであれば変動費なので利率は変化しない。ここは会計の教科書ではないのでこれ以上の説明は省かせてもらう。
 逆に言えば、セレクト業態を多く持つTOKYO BASEの販管費が40%台であることを見れば、同社がどれほど組織効率が高いかということがわかる。さらに、同社の説明資料には「原価」は記載されていないが、「原価」+「販管費」+「利益」=売上 という単純な構造が頭に入っていれば、簡単に計算できる。これを見れば、確かに同社のHPで谷社長がプレゼンテーションをしている内容と合致する。

販管費が多い=リストラは
頭が硬直化している証拠

 「販管費比率が多い」から「人をリストラしなければならない」という化石化した発想をしたがる人が多い。私の教えているスクールでも、経営分析をやるが「販管費」までたどり着いた人は多いものの、直ぐに「リストラせよ」と解決案をだし、それでは、その販管費は何に使っているのかまで調べた人間はいなかった。従業員の立場から言わせてもらえば、「感覚経営」でクビを切られてはたまったものではない。

例えば、21年度 TOKYO BASEの販管費の内訳はこのようになっている。

図表2 TOKYO BASE 販管費の状況 出所:決算短信

真っ先に上がるのは、「地代家賃」で、21億円もある(20年度は17.3億円)。この「地代家賃」は、下にある「減価償却費」、新規出店に伴う店舗改装費などとシステム開発費とセットで考える必要があるが、ここは一足飛びにコストダウンすればよいというものではない。店舗は利益を生み出す源泉で、最低でも貢献利益ベースでプラスであれば、企業前提の固定費を減らす役割を果たすし、営業利益でプラスであればいくらコストがかかろうが、ここでの費用は必要経費なのだ。

今、分析・改善すべきは、顧客効率とオペレーション効率だ。具体的にいえば、客単価、客粗利、CPAやLTVなど顧客効率計測のKPIであり、利益率を人頭割りしたものがオペレーション効率であり、日本の最大の課題である生産性だ。日本企業は、製造業を除きこの値が極めて低く、例えば、顧客管理については、DEAD会員が80%もいるのに、「当社は数百万人の顧客基盤がいる」、80%以上がゴミ箱にゆくPowerPointを朝から晩まで作っている、あるいは、毎回会議毎に異なるフォーマットの資料が出てくるなどであり、上司に対する忖度文化だ。これからの時代、若手の「Straight talk」を封じ込めれば、若手はどんどん離脱する。周りに気を遣うのが日本企業の良いところであり、「我が社の文化だ」という会社が最も危険で、ある日、外資企業にM&Aされて文化も経営もグローバルスタンダードに無理矢理変えられることになる。

 

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アローズやSnidelZARAの半分しか店舗がない必然 
ブランドビジネスの本質とは

売上800億円を突破しているのではないかといわれているマッシュスタイルホールディングスの基幹ブランド「Snidel」、ユナイテッドアローズが展開する「United Arrows」の店舗は日本に約40店舗しかないという事実をご存じだろうか。ZARAの店舗が70店舗程度なので、極論をいえば人気ブランドSnidelUA (United Arrows)は、ZARAの半数強しかない。おそらく、逆のイメージをもっていた方も多いかと思うが、「ブランドビジネス」というのは希少性が重要で、百貨店アパレルのように数千店舗などというのは多すぎで、在庫効率の悪化を招くだけだ。また、相応しくない立地に出店すれば、みずからのブランドの地位を陥れることになりかねない。

出店は両刃の剣である。出せば売上は上がるが、ある臨界点を過ぎると、それ以上にコストもかかる。さらに、その売場が営業利益ベースで収益を生み出さない場合、店舗閉鎖をして縮小均衡施策に出た方が企業収益は上がることもある。したがって、マッシュスタイルホールディングスとTOKYO BASEの「むやみやたらに出店するのではなく、イメージの良さなど、店舗ロケーションがブランド価値維持に重要だ」という発言は、驚くほど両社の共通点を見いだすことになるわけだ。

売上と聞けば日本の最南端でも出店し、いざ換金となればブランド毀損より換金率を優先すればブランドは育たない。日本のブランドが海外ブランドに勝てない明確な理由はここにあり、「科学経営」の名の下にオペレーション偏重主義が破壊したものは少なくない。日本は、こうした感性的価値を最大化するための戦略より、「OMOだ、オムニチャネルだ」と「側の議論」に投資をし、ネットで自由にモノが買える今、店舗の持つ意味を定義している企業が少ないように見えるのは、あやまったキャッシュフロー経営のなれの果てが引き起こす悲劇、である。

その点、TOKYO BASEの出店は、谷正人CEO自らが説明しているように、「日本では、東京、大阪、名古屋の三大都市を中心に、そして、中国ではいたずらに二級都市*に出店しない」というのも、同社の出店戦略の一つである。
*あるいは二線都市。中国では 一級都市に分類される北京、上海、深セン、広州の四大都市から、新一級都市<あるいは1.5級都市>、二級、三級、四級都市と人口や経済により階層化している

TOKYO BASEの21年度の国内EC化率は35%(国内EC売上50.25億円、国内店舗売上高93.67億円、決算説明資料より)、マッシュスタイルホールディングスは30%*(21年度2 fashion snapより)他のアパレル企業を圧倒的に引き離している。ここからも「店舗とはかくあるべし」という明確な輪郭とブランド力の関係性について正しい理解をしているものと思われる。ついでにいえば、Snidelは、ファッションビルやショッピングセンターにもあれば百貨店にもある。今時、「百貨店アパレル」などというセグメントはないと思った方が良く、どこが最もブランド力を維持できるかという視座から店舗を選んでいることが、両社に共通のユニークネスなのである。

KPIは結果指標!目的にあるべからず

最近、「いかなるKPIが妥当か?」という質問をよく耳にする。しかし、ひそひそ話で現場や取引先の商社などに聞くと、「KPIより前に売れるものを作れ。企画力が弱すぎるし時代に合っていないんだ」という声が圧倒的なのだ。私は、コンサルタントという立場上、こうしたVOC (Voice of customer 顧客の声:企業組織内部顧客にも使う)を、最近すぐに口に出してしまい、時に経営者の反感を頂くことも増えてきたが、私の中には将来から逆算した今、クライアントが何をすべきか、というコンサルタント固有の思考である、積み上げ式でない、積み崩し式思考でものごとを考える癖がついた。そして、先日お話ししたような世界の潮流の現場に入るほど、もはや時間が無いどころかタイムアウト。奇跡を狙うのなら、今すぐ実行して欲しいという焦りもあり、少々気が短くなってきたようだ。

「服とは我々にとっていかなるものか」

ファーストリテイリングは、こうした禅問答のような質問からライフウエアという自らの立ち位置を明確化させたようだ。もちろん、世界経済の停滞や日本という国の貧困化、SDGsによる地球温暖化などベーシックで質が良くコスパが高い商品を長く着る、ということになるとユニクロ一択になるのはわかる。しかし、同時に、売上で170億円しかないTOKYO BASEがプライム市場(4月以前の一部上場企業に相当)にあり、この規模で積極果敢に海外に出ているのは、ユニクロにはないTokyo contemporary mode  とよばれる、世界で唯一のスタイル、そして、Made in Japanという(単なる日本製ありきではない)ものづくりを差別化の真ん中に置いているからだ。流石の私も、TOKYO BASEの服はモードすぎて着られないなと思っていたところ、THE TOKYO という、50歳までをターゲットにした服が出たと聞いて、早速大枚をはたいて物色しに行った。

なるほど、間違いなく差別化が難しいと言われるファッションビジネスで、このTOKYO BASEは確固たる世界観を持っており、それが海外でも高い評価をされているのだということがよくわかった。私は、今一度、日本の全てのアパレル企業に、「みなさんにとって服とは何か」という問いを投げかけ、自らのDon’t (絶対やってはならないこと)を決めてもらいたい。KPIとは、そうした市場からの引きがあってはじめてパフォーマンスを測定できるツールなのであり、私の専門であるデジタル戦略もまたしかりだ。

  1. 販管費比率が売上比で40%台に生産性向上とデジタル化を効果的に活用すること
  2. 日本だけでなく、世界からマネタイズする複数の財布を持っていること
  3. EC化率が既に30%を超え、店舗は「売場」から次のステージへ再定義されていること
である。逆に言えば、販管費が5-60%を超え、さらに原価を下げようとしている日本以外に戦いの場がないと信じている。ECはチャネルの一つだと勘違いし、結果、全社売上の15%以下になっており、売れない赤字店舗を放置し店舗効率と在庫効率をますます悪化させていることは、よほどの競争力が無い限り今の先に未来は待っていない。

 

プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
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