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コロナ禍の逆風の中、はるやま商事がSDGsを推進し、現役女子高生とコラボする狙い

コロナ禍の逆風で苦戦を強いられている紳士服量販店業界。はるやまホールディングス(岡山県/中村宏明社長)傘下のはるやま 商事(岡山県/中村宏明社長)が若者向けに展開する「Perfect Suit FActory(以下P.S.FA)」では打開策として若年層の取り込みに2つの踏み込んだ施策を推進している。その狙いや背景に迫った。

サステナブル・ビズを訴求するP.S.FA豊洲店

急務となっている若年層の取り込み

 スーツを手頃な価格で購入できるスーツブランドとして2000年から展開されているP.S.FA。これまでに脚長スーツやクールビズに対応したシャツ・スーツ、太陽光ガードスーツなど、時流に合わせた企画商品をタイムリーに展開してきた。

 トレンドを汲みつつ、価格設定も絶妙な同ブランドは20代を中心に支持を集めてきたが、スタートから20年超が経過したなかで、実はこの10年でもっとも”客離れ”が進んだのが20代という。

 はるやま 商事P.S.FA商品部課長の本新士氏が解説する。「過去10年の売上推移をみると、一番減っているのがいわゆるZ世代の20代のお客さま。P.S.FAはもともと20代が多かったが、30~40代向けの商品が多くなっていることなども要因のひとつと考えている」。

 少子高齢化の進行はくい止めようがないが、中長期を見据えてもZ世代の掘り起こしをないがしろにはできない。

Z世代と社会問題の意外な相関とは

 そこで同社が目をつけたのがSDGs(持続可能な開発目標)だ。なぜZ世代を取り込むのに「持続可能性」なのか。直接的には結びつきそうにないが、実はこんなデータがある。

 博報堂が2019年に実施した「生活者のサステナブル購買行動調査2021」。購買行動に関する項目に加え、生活者が普段の生活の中で社会・環境をどの程度意識し、どのような行動に取り組んでいるのかについて聴取した調査だが、結果からみえてきたのは、若年層が社会問題や環境問題に危機感を感じ、社会をより良くする活動・社会問題に関する情報発信などに積極的というスタンスだ。

「TOKYO RUN×SUSTAINABLE BIZ」を展開する背景

 同社が実施する関連プロジェクト「TOKYO RUN×SUSTAINABLE BIZ」は、手頃な価格で機能性やデザインを追求する「TOKYO RUN」ブランドとリサイクル素材の活用などでサステナビリティを絡めた企画でまさに社会をよくする活動と連動する。

 同社VMDマーケティング部長の小倉修氏はその狙いについて「プロジェクトで展開するスーツは素材にリサイクルポリエステル(RENU)を活用しており、購入することでサステナブルに取り組める。価格はできる限り抑えたので、お手頃にご購入いただける。その分、利益は圧縮されるが、あくまで社会貢献という位置づけで、活動を広く知ってもらうことが重要と考えている」と説明する。

 あくまでも社会活動としての認知を最優先。それだけに、同プロジェクトでは商品だけでなく、商品販売にまつわる資材の“パッケージ”、“ハンガー”、“什器”もサステナブルを意識。あえて店内でもSDGsの世界観を訴求することで、社会をより良くする活動に敏感な若者の価値観や購買意欲をさりげなく刺激し、来店をプロモートする狙いだ。

女子高生とは商品開発でタッグ

P.S.FAは現役女子高生集団「チームシンデレラ」とコラボレーション

 Z世代の需要喚起へ向けて同社は、女子高生にもアプローチする。顧客予備軍である女子高生へ魅力ある商品を提供できれば、同ブランドを継続的に利用してもらえる。そのためにマーケティングも兼ねた調査を実施しながら、商品開発を行った。

 力を借りたのは、女子高生をはじめとしたZ世代をターゲットに、トレンドやファッション・メイク情報の発信やSNS配信、イベントなどを実施している現役女子高生団体「チームシンデレラ」。現役の声をじっくりと聞いた上で、これまでにないセットアップ「FUTURE CHANGE SET UP」をつくり上げた。

 「女子高生が大学の入学式で着る洋服を選ぶ際、着たい服がないためにテンションが非常に低いということを耳にした。そこで、『本当に着たい服ってどういうもの?』というところから現役女子高生とコラボをして一緒につくったというのが今回の企画になる」と本氏は経緯を説明する。

セレモニー以外でも着用可能な使い勝手

 出来上がった商品は、“大学の入学式に着ていきたいスーツ”をコンセプトに日常のコーディネートにも取り入れられるファッション感度の高いセットアップとなっている。

 ショート丈のジャケットやフレアパンツなどトレンドデザインをふんだんに取り入れつつもP.S.FAの“きちんと感”もミックス。入学式などのセレモニー場面に馴染みながらも、それ以外のシーンでも着用できる使い勝手の良さを兼ね備えている。

 人気インフルエンサーやモデルを起用したスタイルブックも店頭で配布し、毎日のコーディネートが楽しめるよう着こなし提案も行う。

 “テレワーク常態化”でスーツ離れが進み、ファッション全体のカジュアル化が加速する昨今、Z世代のニーズを汲み取った商品展開は、中長期を見据えると非常に重要になる。逆に言えばこの世代の取りこぼしはアパレルメーカーにとって許されないものなのかもしれない。

視点を変えてヒットの芽を育てる

 若年層の取り込みへ大胆な取り組みを矢継ぎ早に展開したはるやま商事の本氏は、「今回Z世代の取り込みにいろいろな施策を行ったが、例えば20代へ向けたプチプライスのスーツが40代、50代に売れたりもした。また小学生にも卒業式でのニーズがあることがわかった。30代、40代を対象に商品開発してもこうした展開はないと思うので、チャレンジすることで見えた部分があった。ちょっと目線を変えることも必要だと考える」と2つの取り組みを振り返る。

 スーツ業界ではコロナ禍、ルームウェア感覚で着られるスーツというヒット商品が生まれた。カジュアル化の波は決してプラスの状況とはいえないが、固定観念を取り外すいいチャンスでもある。なにより高度な技術が求められるスーツづくりのノウハウは、アパレルメーカーとして強力な武器となる。

 カジュアルウエアとスーツの隙間を埋めるように急成長しているワークスーツ市場は、機能性とプチプライスとカジュアル化が3大キーワード。コスパにも敏感な若年層は、時勢を反映するアイディアの宝庫といえるだけに、専業メーカーの技術力との掛け算でパジャマスーツに続くヒットアイテムが生まれる可能性は十分にありそうだ。

はるやま商事株式会社 VMDマーケティング部長 小倉修氏(左)、同社P.S.FA商品部 課長 本 新士氏(右)