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第41回 アフターコロナのショッピングセンターは「非日常」がキーワードになる理由

前回、顧客視点ではオンラインとオフラインには差が無いと伝えた。タブレットで学習する子供たちは、ディスプレイの中はリアルであり、多くのことをそこから知り、理解し、思考する。アウトプットする際もタブレットに向かって、字を書き、話しかける。タブレット越しに先生からマンツーマンの指導を受ける。東京も地方も関係ない。ここにオンラインとオフラインに差があるだろうか。今回は、この命題に対して「リアルとバーチャル」の二項軸で考えていくことにする。

gahsoon/istock

ECが日常になり、スマホがリアルな生活に

 ECなどネットを介したサービスなどをいまだバーチャルと表現する人がいる。でも、店舗に出かける「回数×費やす時間×買う金額」とスマホで「ECサイトを見ている時間×クリックする回数×買い上げ金額」この掛け算の答えはどちらが多いだろうか。

 もちろん、人によって差はあるし、ECは絶対使わないというラガード層(遅滞者)もいるが、この掛け算の答えが店舗よりECの方が上回る方も多いと思う。要するにいまやECが日常になり、スマホがリアルな生活になっているのだ。

 では、情報の伝達、書類の受け渡し、打ち合わせ、雑談などはどういう手段で行われているだろうか。日常の連絡・会話はLINEやメッセンジャー、仕事の連絡や書類の受け渡しはeメール、打ち合わせは、ZOOMteams、業務管理は、slackoutlook、情報発信は、instagramfacebookyoutube、情報取得もSNSやニュースサイト、あらゆる局面でネットを介したコミュニケーションになっているはずだ。

 もちろん、実際に人と会って話もするし、会議もするし、書類の受け渡しもする。しかし、生活の中心や費やす時間と情報量は圧倒的にこれらのツールを使っている時間が長い。これが日常でありリアルそのものではないだろうか。

改めて考えたい、「なぜ人は集まるか」の答え

 今回、「リアルとバーチャル、どちらが優れているか」と言う不毛な議論をするつもりは無いし、ましてや「ネットよりリアルだよね」などと回顧的な話をつもりも無い。もちろん、オンライン飲み会よりお店に皆で集まって飲む方が圧倒的に楽しいのは事実。実は今日のテーマはここにある。

 重点措置により飲食店に集まることもすっかり減った。これがニューノーマルと言われたら寂しい限りだが、では、なぜこれが寂しいのか。それは実際に集まって飲むことが楽しいからだ。日程調整から店の手配から招集まで手間と時間を使い、当日もわざわざ時間を使って店まで移動し、滞在時間とお金を使う。「時間×金額」余命80年の人間にとって貴重な時間のトレードオフ。なぜ、そこまでするのか。答えは、楽しいからだ。

コロナの功罪〜日常と非日常の逆転〜

 コロナが来ても来なくてもネット社会は進んでいた。たまたまコロナ禍によって接触が制限されたおかげでオンライン生活が加速された。コロナが来なくてもいつか来る社会だったのだ。

 その結果、スマホやタブレットやPCを使っての生活(買い物、会話、仕事など)が当たり前となり、これはリアルそのものになった。これを功と見るか、罪と見るか、はたまた功と受け止めて行動するか、罪と見て行動しないか、これも人それぞれであることも現実(リアル)だ。

 ECSNSで暮らすことが当たり前となったいま、リアルな生活はネットを介した社会に移っている。だから、これまでリアルと考えられてきたショッピングセンター(SC)など商業施設は、逆に非日常空間となる。言うならば生活の中の非日常空間だ。商業施設に足を運ぶということは、ECSNSで済むことを我々はわざわざ時間を使って出かける行動を起こす必要がある。

 でも、いざ出掛けて行っても欲しいものが無い可能性もある。店舗の接客で不愉快になることもある。停めた車が傷つけられることもある。途中、事故に遭うかもしれないし、電車が故障で閉じ込められる可能性もゼロでは無い。

 消費者は、これらのリスクを負って出かける勇気と決意を常に求められるわけだが、これだけの決意を単なる日常空間に行くために使うエネルギーとしては大き過ぎる。だから、このエネルギーを使ってまでわざわざ出掛けるモチベーションを作る「何か」を提供しないといけない使命をSCや商業施設には求められる。

ポストコロナ、SCの提供価値とは何か?

 非日常となったリアルは、今後、ますます「楽しさ」を求められることになる。スマホで済むところをわざわざ出かけてきてもらう価値を提供しなければでかけてきてもらえない。

 では、楽しさとは何か。

 これまで非日常空間や楽しさは、エンターティンメント性のような娯楽施設をイメージした。確かにエンターティンメント性はこれからも有効だと思うが、前述のように集まって飲むだけで非日常となることを考えると、それほど気張ったものでなくとも十分非日常性を作ることはできるはずだ。

 皆、ずっと家にいたいわけではないし、ご飯も一人で食べてばかりでは気も滅入る。ポストコロナ、SCは出掛けてくる楽しさを作ることにある。ECで買えるものばかりが並んでいたり、販促や接客で無理やり買わされたり。そんな場所である限り、生活の中の非日常空間の評価にはならない。

もちろん、入居するテナントは販売やサービスの提供が当然だし、SCのサポート機能はなくならない。だからSCはそれ以外でも人々が来たい魅力を作ること、この魅力が提供価値となる。店舗とECの在庫連動の仕組みもいいが、それで皆が来たくなる施設になるのだろうか。「ECはバーチャル」などと言っていてはリアルを見失うことになる。そして、この価値を作り出せない限り、SCもメタバースに置き換わる。

「皆が時間を割いて来てくれるSCとは?」ポストコロナのテーマである。

 

西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役

東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員。201511月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒