スイーツのブームは、特定の専門店から火がつき、徐々に一般化・大衆化して、コンビニエンスストア(コンビニ)・スーパーマーケットでも販売されることが多い。しかし、タイムラグによって、スーパーマーケットの店頭に並ぶ頃には「流行遅れ」「今さら」感があることも否めない。その課題を乗り越え、スーパーマーケットならではのスイーツを発信することは可能だろうか?
コンビニのスイーツが流行を牽引、スーパーは?
平成のスイーツブームの始まりを告げた「ティラミス」以降、コンビニやスーパーマーケットにも、タピオカ、ナタデココ、パンナコッタのようなチルドスイーツ、さらにベルギーワッフル、エッグタルトなどの焼き菓子が並ぶようになった。さらに、2009年9月にローソン(東京都/竹増貞信社長)が「プレミアムロールケーキ」を発売、記録的なヒット商品となったのが転機となり、各社プライベートブランド(PB)スイーツ開発に力を入れ始める。
この頃までは、専門店でヒットした品がコンビニやスーパーマーケットで普及するまでに約1~2年かかる印象だった。その流れが変わったと感じたのが「バスクチーズケーキ」だ。ブームの火付け役といわれる専門店が都内にオープンしたのは18年7月。ローソンから「バスチー-バスク風チーズケーキ-」が発売されたのが19年3月。商品化のスピードが格段に早かった。その後、専門店やホテルなどが「バスクチーズケーキ」を続々と発売するようになり、コンビニ発信のスイーツが業界全体のブームを牽引した。
では、スーパーマーケットのスイーツが「流行遅れ」にならないためには、これまで以上にアンテナを張って、商品化スピードを早めればよいのだろうか? 答えは否だ。無闇にコンビニと張り合うのではなく、スーパーマーケットだからこそ提案できるスイーツを考えた方が、面白いものが生まれるのではないだろうか。
SMならではのスイーツ提案
スーパーマーケットと専門店、コンビニのスイーツの違いとは何か? まずコンビニのスイーツは個食中心である。そして専門店とコンビニはどちらも、「自分へのご褒美」としての買われ方をする。また、ギフト需要は確実に専門店が握っている。
対するスーパーマーケットではコンビニ同様、日常のささやかな楽しみとしての需要だ。ただし購買者は自分のためだけでなく、家族や同居人のことも考えて選ぶ。また、スイーツだけ購入することは少なく、夕食や朝食の食材を購入する際についで買いする。その購買行動は、「毎日の食卓や、自分達の生活を楽しく彩りたい」という心理に貫かれている。
これを踏まえるとどんな提案ができるだろうか。
22年のバレンタイン商戦では、ある百貨店は、「おうちバレンタインにおすすめの『0.5手間チョコ』」という軸を提案する。21年は、カカオ豆からチョコレート作りを体験できるセットなどが人気だったそうだが、今年は、「レンジで温める」「調味料を添える」程度の簡単な仕上げや「ちょい足し」を推す。冬の「フォンダンショコラ」や夏のフローズンデザートなど、加温で食感を変化させるアレンジは、コンビニでも既におなじみだ。
こうした「プラスひと手間」の提案として、スーパーマーケットならば、得意分野である生鮮品とのクロスMDも可能だ。たとえば、3〜4人分サイズのシンプルなロールケーキやチーズケーキと、好きなカットフルーツを一緒に購入するとお得、といった売り方も出来る。ジャムやソース、生クリームとのセット販売もありだ。自宅でアレンジした「作品」をInstagramに投稿してもらうコンテストを開催しても、楽しんでもらえるだろう。
ヒットするスイーツの条件と、これから注目のスイーツは?
最近は、SNSでの発信に積極的な小売企業が多い。コンビニとスーパーマーケットそれぞれの大手数社のInstagramアカウントを見ると、コンビニのフォロワー数が数十万人である一方で、スーパーマーケットは数万人。1桁違う。コンビニでは圧倒的に新作スイーツの投稿が目立ち、おすすめポイントや構成の説明など情報が凝縮され、画像だけで伝わるものが多い。スーパーマーケットは、総菜系の投稿が多いのは当然としても、「一目で伝わる」感が薄い。スーパーマーケットの中でもフォロワー数が21万7000人(22年1月現在)に達する「成城石井」のアカウントは、他に比べてスイーツの投稿が明らかに多く、同社がスイーツに力を入れていることが見て取れる。
「商品」とは、売り方や伝え方まで含めたコミュニケーションツールである。店員が自らのおすすめを熱く語るPOPが話題となった本屋のように、スーパーマーケットでも、「このスイーツがすごい」という店員の推しコメントに心動かされるという買い方が出来たら面白いし、利用客の投票による棚落ちスイーツの「復活戦」があれば参加したくなる。
スイーツ業界では、「見たことも聞いたこともない新しい品」ではなく、既知のカテゴリーやジャンル同士の掛け合わせや、少しだけ変化させたものが支持されやすい。たとえば、私が21年後半期、気になった専門店のスイーツの一例は、「ナポレオンパイ」と称される苺のミルフィーユ。スイーツ好きには知られた品だが、単なる復刻ではない。そのスイーツの定義や原点を突き詰めたうえで、現代のニーズに合わせたアレンジ品が登場している。
さらに、今後注目度が高いのは、植物性の天然色素を使った「カラフルでSNS映えもしてナチュラル」なスイーツ。また、コロナ禍で顕在化した「冷凍スイーツ」の利便性や可能性も面白い。コンビニも家にストックできる冷凍スイーツに力を入れており、冷凍・半解凍・全解凍・レンジ加熱などで食感の変化を楽しめるような品が増えるだろう。いずれも、スーパーマーケットの顧客層のライフスタイルや価値観にも合致するカテゴリーでもある。
人気のスイーツというのは、本来ブームを追うものではなく、顧客と共に育てていくものだ。利用者の気持ちや生活に寄り添った品を提案しながら、自店のスイーツのファンを育ててほしい。