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ユニクロがマネできない領域はここだ!アパレルの競争戦略とDXを成功に導く方法とは

私は前回、日本のアパレルが「オワコン化」といわれる最大の原因について、①今に至るまで、世界化をしてここなかったこと、②川中、川上はマーケットと隔絶し、世界とのパイプが遮断され浦島太郎状態になっていたこと、さらに、③デジタル化については細切れ。バリューチェーン、ビジネスモデル全般にわたり、本質的な競争力をいかにして高めるか、という業務とデジタルの融合視点なく俯瞰力に欠けることであると断じた。さらに悪いのは、それぞれの方々は、真剣に自分の会社、組織をどうにかしたいと考えている「無自覚の加害者」*であるということである。したがって、社員が本気になるほど産業界はフリーズしたままということになる。
*自ら自覚がないまま、頑張れば頑張るほど害悪を及ぼすこと
このように、日本のアパレル産業は構造的に鉄のように固まりテコでも動かない。経営学の世界に「茹でガエル」という暗喩があるが、誰もが「まさか自分が茹でガエルになっている」とは思っておらず、徐々に死滅に追いやられていることに自覚がない。もし、日本企業に柔軟性と柔らかいマーケティング発想があれば、改革の方向性はそれほど難しいものではない。ライブコマースと越境EC、D2Cのビジネスモデルを半年以内に立ち上げ、少なくとも3年は耐えることだ。いまはそれ以上の解はない。
今回は、そういったことを踏まえたうえで、DX成功の手法について解説したいと思う。

Olivier Le Moal/istock

 改革を阻害する張本人は自分自身だということに気付いてますか?

知らず知らずのうちに改革を阻害する張本人に自分自身がなってしまっていることに気付いてほしい。

社内でやる気のある中間管理職が以下のような抜本的な提案や改革を打ち出す。

  1. 悪化した状況に陥った原因を分析し、問題を白日の下にさらす。
  2. 将来のビジネスモデルを変えるなら、この組織とこの組織は不要。
  3. 意思決定を早くするため情報伝達会議はすべて廃止し電子メールとする、電子メールはすべて5行以内。
  4. 今後、社内コミュニケーションは透明化させ、得意先や仕入先もいれてすべてグループウエアで行う。
  5. プレゼン資料はすべてA3一枚で15分以内。会議に準備せずに参加した者は出ていってもらう

こうした勝ち組企業には当たり前のやり方を導入しようとすると、スピードや変化についていけない「老害」が必ず邪魔をするのである。

そして、例えば「越境EC」をやろうとなると、「まずはリスクを取らずに小さくスタートしよう」などと言いだし、海外向け卸問屋に渡しておしまい。ECデータベースマーケティングのメリットは全く享受できないまま「やっぱりダメだった。次の魔法の杖はないか」と言って、コンサルや「先生」に責任転嫁し改革はジエンドとなる。彼らは、やりきった感覚はないが、必ず「ああ、それはやったけど効果はなかったよ」という。

このような「他責文化」が横行する組織につける特効薬はないし私もかかわる時間は無い。医学の世界では、医者は病気を治す手伝いをするだけで、病気を治すのは患者自身だというのは昔からいわれてきたが、なぜか、企業改革となると「金を払ったのだから、一振りで会社が変わる魔法の手法を教えろ」と、実行責任を私たちコンサルタントに押しつける。業績の悪い会社というのは業績が悪いなりの理由があるのである。

 

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DX成功は、競争力強化が目的

DNY59/istock

さて本題のDXに移ろう。その目的は、ユニクロはじめ世界のSPAと競争し、消費者から選ばれる存在になることだ。ユニクロやZARAの話をすると、「そんなでかい企業はうちとは違う」と皆が言う。「では、消費者に聞いて見ろ」と消費者調査をさせると、今の消費者は、ユニクロどころか、古着や激安韓国ブランドなどと上手に使い分けし高価なデザイン服も買っている。そして、ユニクロはg.u.やセオリー、スポーツ、ベビー服など、衣料品を全方位で展開し、競争のステージを広げている。「あそこは競合じゃない」と逃げているのは本人だけで、日本のアパレル企業はほぼすべて、ユニクロ g.u.に負けているのだ。こうした事実から目を背けるほどに業績は悪化していく。

競争戦略の基本は、ハーバード大学のマイケル・ポーター教授の「ポジショニング」がしっくりくる。圧倒的なスケールで他の企業が追いつけないほどの低価格を牛耳る①「コスト・リーダーシップ」ポジション。そして、少ない資源を、特定の分野に集中する②「集中化」ポジション。全く違う商品(システムではない!!)で勝負する③「差別化ポジション」のいずれかだ。

ファッション業界でいえば、①はZARAH&M、ユニクロなど。②は、いまでこそ総合衣料になったが、MONCLERHERNOCANADA GOOSEなど、プレミアムダウンなら絶対に負けないという企業。日本で言えば、私は三陽商会のコートがそれにあたると思っている。彼らは、まず経営資源を自分がもっとも得意なところに集中し勝負をすべきだ。③は、Tokyo base だ。すべてMade in Japanは、ユニクロには絶対に真似できない。

 

四則演算と論理思考が弱いアパレル業界

bee32/istock

良い事例なので、一緒に計算してみよう。ユニクロの売上を約2兆円とすると、その半分が仕入の概算値だから、毎年約1兆円の仕入をしていることになる。今、日本の生産は、点数ベースなら2%98%が海外。金額ベースだと、約20%が日本で80%が海外である。したがって、日本のアパレルの製造コストは、海外の約12.25倍ということになる(まず、この簡単な計算をしている人を見たことがない)。

点数は10億点と仮定
国内仕入額 海外仕入額
金額ベース(100万円) 200,000 800,000
点数ベース(100万点) 20 980
1点単価(円) 10,000 816
コスト差 12.25倍

このように、競争戦略とは、①真似できない②真似すると損をする③真似するのが難しい、のいずれかにあたらなければならず、このケースでいえば②となる。戦略系ファームに入る人であれば、入社前に必読書として「競争の戦略」(マイケルポーター)を読み、この程度のフレームワークは頭にいれておくべきだが、こうした簡単な四則演算さえやっていない。

実際、Tokyo baseは上代が3万円から5万円。しかも、原価率が50%だと公言している。また、Tokyo baseの売場にゆけば、彼らが「コンテンポラリー・モード」(都会的なファッション性を極端に打ち出す服)であることは、みればわかる。おそらく、Tokyo baseの服は、東京の投資銀行、コンサルファーム、商社、広告代理店などに勤めるヤング・プロフェッショナルがすかした自分を打ち出すために着飾るふくではないかと想像がつく。だから、郊外や田舎で売る服ではないと思う。逆に言えば、中国で売れる理由はよくわかる。成金の若者は、こうした「若くして成功した人間」の印を欲しがっているからだ。これを、ユニクロに限らず、日本のアパレルがやるには、彼らのビジネスモデルを根本的に変えなければできない。

これに対して、多くの企画部では最初からいきなり子細細部に入り、小数点が違うとか、数字の精度に拘り、実際に店に出向かない。また、役員会で話す内容もこうした重箱の隅をつつくような話しばかりで、全体を大きく俯瞰した視点からの発言はほとんどない。

オックスフォード大学が、日本の労働人口の49%がAIやロボット等で代替可能と断じた理由はよくわかる。大企業に勤めている人は、吹けば飛ぶような中小工場が不要になると勘違いしているようだが、そうではない。日本の製造業の生産性は世界と比べても負けておらず、全く足下にも及ばないのは、こうした、目的のないPowerPointを朝から晩までつくっているホワイトカラーだ。彼らが真っ先にAIに置き換わるのである。 

戦略とは、彫刻のように、まずは緩やかでもよいので全体像を組み立て、徐々に細部に入ってゆくものだ。最初から細部に拘りどうでも良いところに力を入れるから、日本のホワイトカラー、特に大企業の生産性はおそろしく低い。

DX成功の手法はこれだ

こうした本質論を踏まえ、DX成功の手法を書き綴れば、まず「デジタル・センスのないご老人」は、意思決定の場から抜けてもらうことが必要だ。できれば、30-40代の人間の中で優秀な人材を集め組織化する。30-40代若手は、逆に経営リテラシーが低いため、提案の技術やビジネスの基本的戦略論が弱い。したがって、彼らを導くコンサルタントと一緒に共同チームを作り、社長直下に組織を置いて、社長と頻繁に議論を繰り返して社長権限でデジタル戦略を作り上げる「デジマ隊」を組成する。

私が、丸井グループと取り組み、不滅の傑作「らくちんキレイパンプス」を世に初めて出したのもこの編成チームだった。私を含めたコンサルと今は役員だが、当時から有能だった同社の3人の社員、そして、某アパレルの社長候補で組織をデジマ化した。

我々は、徹底した調査を行い、ともに、イタリア、ベトナム、青島、北京、浅草、長田など世界の靴の産地を回り「絶対に勝てるシューズ」を開発した。今でこそ、コンフォートシューズはスタンダードになっているが、コンフォートシューズを世界で最初に打ち出したのは丸井である。

成功に導くポイントは、この「鉄でも動かない組織」に、「ここは担当役員Aさんの領域だ」という境界線を絶対につくらないことだ。

今、私はIFIビジネススクールで講師を務め、商社、アパレル、小売などの30-40代に対して最新の経営理論や私が考える未来像を教えるとともに、デジタルを使った新しいバリューチェーンの事業計画をつくらせている。私は、彼らが会社に戻り、本気でチームを再組成し社内ベンチャーでDX (デジタル・トランスフォーメーション)を行えるまで指導、支援をしてゆくつもりだ。これを読まれた経営者の方は、ぜひ4月に全講義を終了し会社で願い出た若者からの戦略を支援して頂きたいと心からお願いしたい。

デジタルベンダーの営業など100回聞いても、どれも同じだ。あなたたちが動かねば成功しないのだ。これこそ、DX成功の秘訣である。

 

 

プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
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