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ポイントは「味の統一」と「店長教育」 もうやんカレー成長の秘訣

1997年、創業者であり代表取締役社長の辻智太郎氏が25歳でカレー店激戦区の新宿でオープンした「もうやんカレー」(東京都)。現在は新宿、代々木、渋谷、新橋、池袋、赤坂、横浜などに12店舗を構えている。創業期から安定成長を続けてきたが、決して店舗拡大を急がなかった。辻社長に店舗展開の独自の考えやノウハウを聞いた。

― もうやんカレーの業績ならば、現在30~40店舗を構えていても不思議ではないと思いますが、現在の規模にしている特別な理由はあるのでしょうか。また、多店舗展開をするうえでの基本的な考えをお聞かせください。

 店をさらに増やそうと思えばできたのでしょうが、実は店舗拡大に重きを置いてはいないのです。1997年の創業当時から、もうやんカレーは「2000年続くお店」を目標にしているので、まずは多くのお客さんに認められ、従業員や業者さん、地域の人たちに愛される存在になるほうが大切です。売上や利益も目先ではなく、もっと先を見たうえで考えるようにしてきました。いかに長く支持をされるかを大事にしているのです。

 2号店をオープンしたのは、1号店で働いていた優秀な従業員が退職した後「また働きたい」と戻ってきた際に彼のポストがなかったからです。それで1号店(新宿)のそばに2号店を構え、店長に抜擢したのです。もう、20年程前のことになります。

― 売上などの業績はいかがでしたか?

辻 当初イメージしていた以上の売上でした。例えば、1号店だけの時にランチ(午前11時半~午後2時半)の1日の売上が、仮に100万円だとします。2号店をオープンした後しばらくは半分の50万円になるだろう、と思っていました。双方のお店は数百メートルしか離れていません。

 ところが、開店すると1号店は多少減ったものの、80万円をキープしました。2号店は、1か月目から80万円。2店舗合わせると、160万円。1号店だけの時が100万円だとすると、60万円が増えたことになります。ランチに限って言えば、3時間でお客さんが2回転半ぐらいはしてほしいところです。その目標も開店後すぐにクリアできました。夜の時間帯も含めると、2店舗の合計の売上はさらに増えました。

 想像以上にお客さんが増えたのには様々な理由があるのでしょうが、カレーソースの味を変えなかったことや店長以下、スタッフがスムーズに動く仕組みやシステムが早いうちから機能していたことがある、と考えています。

― 特に気をつけたことは何ですか?

辻 オーナーとして最も気をつけたのは、カレーソースの統一です。1号店と2号店の味は同じでないといけない。味で他のお店と差別化を図っている以上、そこは重視しているところです。2つの店舗のそばに部屋を借り、「秘密工場」として私ひとりでカレーソースのもとづくりをするようにしました。それ以前は、自宅のキッチンを改装してつくっていたのですが、店舗が2つになると当然材料の野菜や果物が増えます。1号店の時だけでも多かったのに、2つになるとさらに増え、身長を超えるほどの量になっていました。

 ソースのもとを作り終えると、3輪のバイクで2つの店舗に運び、店長以下スタッフがカレーライスにします。カレーソースのもとづくりは機密ですから、基本的に私しか知らないようにしてあります。多店舗展開する会社では個々のお店の料理人に任せてしまうケースがあるようですが、もうやんカレーではしません。あくまで、創業時からひとりでつくり続けています。それがオーナーの責任であるし、お客様への感謝やお礼になると思いますから。

― 2号店を開店した後、スムーズに進みましたか?

 はじめの1年間はとにかく忙しかったですよ。1日の睡眠は34時間。カレーソースのもとづくりや店長以下、スタッフとの話し合い、売上や経費をはじめとした数字の計算、業者さんやスタッフへのお金の支払いなど、オーナーとしてすることがとても多かった。昼は店舗で仕事、夜は秘密工場でカレーソースのもとづくり。20代~30代前半だったから、少々の無理もできたのでしょうね。2年目になると軌道にのり、スムーズに動くようになり、負担が減りました。

 両店の店長と私とはコミュニケーションがうまく進み苦労はしなかったのですが、アルバイトとして雇ったスタッフの状況が正確に把握できないことが時々ありました。1号店だけの時は目をつぶっていても、それぞれが何をしているかわかりました。2号店を開店するとそれが難しくなります。双方のお店を往復するから、スタッフとコミュニケーションをする機会が少なくなり、以前のようにはわからないのです。

 そこで取り組んだのが、2人の店長への教育でした。特にスタッフへの接し方や指示、注意、評価の仕方など。紙に書いて、「この時はこうする」「こうなったら、こんなようにすべき」と1つずつ丁寧に教えました。私が個々のスタッフに指示をしても、常時そこにいることができないから中途半端になりかねません。店長を育成し、その店長がスタッフを育てあげるようにしたのです。

― 店長がアルバイトを上手く育成するための教育は、とても難しいように思います。

 私も考え抜いて教えていました。例えば、店舗の売上や一人ずつの従業員の売上(人数売上)などを教えるのも大切ですが、それらの数字に現れないところも重要なのです。店長らは料理は得意ですが数字は得意ではないので、数字を教えるとそこにだけ目が行ってしまいがちになります。

 例えば、店内の掃除の作業は数字には現れにくいのですが大事でしょう。店長たちにはそんなところもきちんとアルバイトに教えて評価できるようになってほしい、と伝えました。そのうえで店長にしだいに権限を委譲し、任せたのです。多店舗展開するうえで、このあたりがものすごく大切だと思います。