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日本の人口のわずか14% くら寿司があえて「Z世代」向けの店舗をオープンする理由とは?

12月8日、くら寿司(大阪府/田中邦彦社長)は2022年10月期の事業戦略を発表した。同期の事業戦略のコンセプトは、サステナブルならぬ“スシテナブル”。安くておいしい寿司を永続的に提供するサステナブルな経営を目指す。

くら寿司が掲げる6つのチャレンジ

 今回、くら寿司が示した具体的な施策(チャレンジ)は次の6つだ。

  1. 新たな顧客層の獲得
  2. お寿司の安定供給
  3. 国内出店戦略
  4. 海外出店戦略
  5. コロナ対策
  6. SDGs

 コロナ禍にあって飲食業界が低迷する中、くら寿司は21年10月期、過去最高となる1476億円を売り上げた。設備投資も過去最高の約125億円に達し、新規に国内30店舗、海外18店舗を出店するなど、積極的な“攻め”の姿勢を打ち出している。

 22年10月期は、新型コロナウイルスの鎮静化を見すえたリベンジ消費と、都市部の人流回復によるさらなる発展を見込む。上記6つのチャレンジを通し、回転寿司市場での存在感をより高めるねらいだ。

リベンジ消費の担い手としてZ世代に期待

 チャレンジ①「新たなユーザー層の獲得」でくら寿司がターゲットに定めるのが、1996年から2010年頃生まれまでのいわゆる「Z世代」だ。Z世代はアメリカでは今後の消費の鍵を握るとされており、その人口構成比も約20%と高い。一方、日本におけるZ世代の人口構成比は14%しかない。かつ、ムダな消費はしない合理的な世代でもある。くら寿司はなぜ、そしてどのように、Z世代を取り込もうというのか?

 くら寿司によれば、Z世代はコロナ禍でアルバイトが減少するなど、全世代でもっとも収入が減少したにもかかわらず外食意欲が高いという。さらにSNSでの高い拡散力を持つこの世代が「リベンジ消費の担い手」になる、と同社は期待を示している。その旗艦店として2021年12月9日にオープンしたのが「くら寿司 原宿店」(東京都渋谷区)だ。Z世代をターゲットにした店舗は、大手外食チェーンでは初の取り組みだという。

クレープ生地を使用したメニューやソフトクリームなど、珍しいメニューが並ぶ。ついS NSに投稿したくなる華やかさだ

 原宿店は、原宿のランドマーク「ラフォーレ原宿」向かいに位置し、店舗面積212 坪(通常店の2倍)、座席数245席(通常店の1.2 倍)の大型店だ。原宿店をプロデュースしたのは、クリエイティブディレクターの佐藤可士和氏で、インテリアデザインのコンセプトは「日本の伝統文化×トウキョウ・ポップカルチャー」だという。店内はSNSでの拡散を強く意識し、東京タワーやスカイツリーの眺望が楽しめるテラス席など「インスタ映え」する撮影ポイントがさまざまに用意されている。メニューでは、回転すしでは初となるクレープマシーンを導入しスイーツに注力。さらに、クレープ生地を利用した変わりダネの「寿司クレープ」も提供する。「sushiクレープ イベリコ豚カルビ」(税込380円)は、揚げたシャリ、グリーンリーフ、クリームチーズ、卵、イベリコ豚、きゅうり、マヨネーズを巻き込んだ新しいスタイルの寿司になっている。

ついに販売開始、「オーガニックはまち」

 チャレンジ②「お寿司の安定供給」では、世界的な魚食ブームによる価格の高騰とコロナ禍による供給リスクという状況を踏まえて、「KURAおさかなファーム」(2021年11月設立 、大阪府/田中信社長)を通した養殖から販売までの一貫事業などで対応する。

 また同ファームは12月9日から、かねてよりくら寿司が注力してきた「オーガニックはまち」の卸売りを開始する。「オーガニックはまち」は、国際的基準を満たす日本初のオーガニックフィッシュとして認証されたもの。オーガニックに対する関心の高まりを捉えた施策で、全国のくら寿司店舗はもちろん、くら寿司初の卸売事業として一部流通店でも販売する。

くら寿司 取締役副社長 田中信氏

 

駅前出店、非接触強化が成功

 チャレンジ③「国内出店戦略」では、都心駅前への出店を加速・拡大する。従来くら寿司は、ロードサイドを新規出店の主要立地にしてきたが、21年10月期は国内の新規出店30店舗中14店舗を都心駅前に出店し手ごたえを感じたという。22年10月期も引き続き、新店舗の半数近くを都心駅前に出店する予定だ。また、チャレンジ④「海外出店戦略」では、23 年中に海外100店舗体制を目指す。21年10月期の積極出店を踏まえ、海外店舗は総計75店舗(米国33店舗、台湾42店舗)に達している。

 チャレンジ⑤「コロナ対策」では、非接触オーダーシステム「スマートくら」を12月17日までに国内の全店に完備する。使用を始めて10年になる寿司カバー「抗菌寿司カバー鮮度くん」は、コロナ禍においても特例として回転寿司レーンの使用許可を得る理由となった。22年10月期でも引き続き、くら寿司の安全安心のアピール材料としていく方針だ。

 チャレンジ⑥「SDGs」では、11月にスタートした小学校を対象とする出張授業を本格的に全国展開する予定だ。授業では「食品ロスの削減」や「豊かな海洋資源を守る」をテーマに、SDGsの理解促進と食育を図る。

 スシロー、くら寿司、かっぱ寿司など回転寿司業界上位各社はいずれも、コロナ禍においてもテイクアウトの需要増などで順調な業績を挙げてきた。アフターコロナが見えてきた22年からは、回転すし競争はさらに熾烈なものになるだろう。その中でくら寿司の「Z世代ターゲット戦略」がどう帰結するのか注目される。