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犬飼育頭数減少の陰にある「2つの高齢化」老犬ホームは日本で定着するか?ペット卸ジャペルの挑戦

ペットフード・用品卸の日本最大手、ジャペル(愛知県/水野昭人社長)は2021年4月12日、埼玉県加須市に老犬・老猫介護施設「あにまるケアハウス」を開業した。国内にペット向けの介護施設は少ない。ジャペルが参入した背景には、ペットとともに暮らす社会を醸成するにあたって、「避けては通れない課題」に挑戦する目的があった。

340坪の広大なドッグランで思い思いに過ごす犬たち

進むペットの高齢化 その背景に…

介護施設とは、人間でいうところの「老人ホーム」である。日本において、進行する「高齢化」は避けられない社会課題となっているが、実はペットの「高齢化」も同時に進んでいる。

『アニコム 家庭どうぶつ白書2019』によると、「2008年から2017年までの犬猫の平均寿命の推移を調査したところ、この10年で犬と猫どちらも大きく延びていたことがわかりました。犬は0.7歳(8.4ヶ月)、猫は0.5歳(6ヶ月)の延びで、人間の年齢に換算すると犬は約4~5歳分・猫は約3~3.5歳分の延び」だという。

これは、室内飼いのペットが増えたこと、ペットフードの質が上がったこと、飼い主によるペットに対する健康管理が行き届いていることなどが理由として挙げられる。

コロナ禍でペットに注目あつまるも 飼育頭数が増えない理由は?

ペットを家族の一員として扱う傾向がもはや一般的になったことの表れでもあるだろう。コロナ禍で、ペットとの暮らしに癒しを求めるなど、ステイホームのなかでペットと過ごすニーズが高まっている。そのため、ペットフード協会が実施した「令和2年 全国犬猫飼育実績調査」によれば新規飼育者による飼育頭数は18年以降伸び続けており、19年より20年の増加率は高まっているという。

一方で、犬・猫を合わせた飼育頭数自体は、ここ数年の猫ブームにもかかわらず、近年減少傾向にある。

その要因の一つと考えられるのが高齢者による飼育ニーズの減少だ。同調査によると19年と比べて60代の犬飼育率は1pt減の12.2%となっており、16年比では2.5ptも落ち込んでいる。

今後もその見通しは決して明るくない。その理由は、60・70代の高年齢層による「今後の飼育意向」が極めて下がっているためだ。19年と比べ、60代も70代も1.6pt落ち込んでいるからである。

高齢者のペット飼育意向が低いのは、高齢者がペットを飼いたくとも「自分の老いにより、面倒を見切れなくなるかもしれない」「ペットを残して先立つかもしれない」という悩みを抱えるためである。

つまり、現在のペット市場の動態は、ペットと人の高齢化に起因しており、ペットの老後を任せられる施設が充実すれば、ペット市場は活性化するとともに、アニマルセラピーの言葉通り、ペットと高齢者がともに歩む社会がより一般化すると考えられるのである。

敷地面積1094坪!広大なペットケアハウスでできること

あにまるケアハウス、所在地:埼玉県加須市久下5丁目316番1

現在、老犬・老猫ホーム、ペット介護施設は全国に数十か所しかなく、それもNPO法人などが細々と営んでいるケースがほとんど。こうした施設が普及している欧米と比べると、一般の認知度も極めて低いのが実態だ。

そうした背景から、数年前から、ペットケアハウス事業への参入を企画していたのがジャペルだ。都市部にも比較的近く、近隣に住宅地がない、広い敷地面積を確保できるなど、物件の条件が厳しかったこともあり、施設開業まで時間がかかった格好だ。

今回、あにまるケアハウスを開設したのは、東北自動車道加須インターから近く、人口の集中する大宮・浦和エリアからは車で50分程度の距離にある。

敷地面積は1094坪。犬・猫を最大で150頭預かるキャパシティを持つ。ペットの居住スペースは約30坪の部屋が4部屋あり、トリミングルームや給餌室、宿直室、面会室なども備える。

 現在、犬・猫合わせて17頭が暮らすこのケアハウス。最大の特徴は340坪もある広大なドッグランスペースだ。1日2回、90分ずつ、犬をこのドッグランスペースに出して、思い思いに過ごしてもらう。スタッフが毎日散歩をする必要もない。はじめは集団生活に慣れずに戸惑っている犬もいるというが、すぐに慣れて、じゃれあったり、眠ったりしているという。広い敷地を自由に駆け回れるため、施設に来る前よりも元気になった犬もいるそうだ。

現在の犬齢・猫齢は13~15才。人間でいえば後期高齢者にあたる。そのため、外見でわかる白内障などに限らず、健康に何かしらの課題や病を抱えている。そのため、各犬固有のゲージの上には、毎日の健康状態などをチェックする管理表、処方薬、薬の飲ませ方の説明書などが置いてある。獣医師と提携し、定期的なメディカルチェックも行う。

欧米でペットケアハウスが充実している納得の理由

現在、犬・猫の預かり期間は、1か月、半年、1年、終身。団体生活にどうしても慣れない犬もいるので、1週間の様子見期間を設けることも可能だ。

ジャペル川崎豊常務

ジャペル常務取締役であにまるケアハウス管掌の川崎豊氏は「飼いたいけれど、年齢的に飼えないと思っておられる高齢者の方は多く、社会課題の一つとして解決するのが当社の使命でもあると考え、この事業に参入した。関東4県をターゲットに、認知度を高め、ペットとともに暮らす社会にいっそう寄与していきたい」と意気込む。

現在ジャペルでは、DCMホールディングスの石黒靖規社長のアドバイスを受け、預けているオーナーが常に自分のペットを見守れるようなITを活用した仕組みや、多くのペットオーナーが気軽に施設を訪れるような工夫を凝らすことで、ケアハウスの認知度を高めていきたい考えだ。同時に、全国のホームセンターを活用して、ケアハウスの利用につなげることも検討中だ。

 

欧米では、ケアハウスは莫大な寄付の元に成り立っているが、それは多額の寄付金控除が認められているからでもある。志を持つ一部の事業者やNPO法人が細々と行う日本とは環境が大きく異なるのである。ジャペルの参入は、ペットとともに暮らす社会のいっそうの醸成につながると同時に、欧米に倣い、ケアハウスが充実する仕組みを政治主導で整備することも、また大事だと言えるだろう。