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展望2020:自動車の主要市場は伸びず、貿易問題と環境費重荷に

[東京 5日 ロイター] – 2020年も自動車業界の先行き不透明感は強い。世界の景気減速リスクは拭えず、主要市場の新車販売は伸びが見込めそうにない。対米貿易問題では来秋の米大統領選挙を前にトランプ氏の揺さぶりも懸念され、環境対応の費用や最新技術への投資負担が自動車メーカー各社に重くのしかかる。収益環境は一段と厳しくなりそうだ。

中国は3年連続減か

中国の新車市場は来年も前年を下回りそうだ。業界団体(中国汽車工業協会)の予測は2%減の2530万台。米中貿易摩擦と景気冷え込みで今年は約8%減と想定しており、来年も景気低迷が続くとして、28年ぶりに前年を下回った18年以来の3年連続減少を見込む。

ただ、SBI証券の遠藤功治企業調査部長は「最悪期は脱するのでは」とみている。来年の減少幅は今年に比べ縮小するほか、大都市が渋滞対策で導入していたナンバープレート発給制限の緩和に乗り出していることなどが主な理由だ。

また、中国政府がハイブリッド車(HV)も新エネルギー車(NEV)政策で優遇する方向に動いており、HVに強い日本勢には追い風だ。特にトヨタ自動車はHVシステムの外販も進めており、車両販売以外の収入も期待できる。

日本、インドも減少続く

来年の日本市場も新車の当たり年だった今年の反動減や消費増税後の影響で減少するとの見方が多い。トヨタ単体の国内販売も4%減と2年ぶりのマイナスを見込んでいる。インド、タイ、インドネシアの新車販売も減少が続きそうだ。

インド市場は金融機関による貸し渋り、自動車保険の負担増などを背景に販売低迷が続いており、専門家らは来年5%減と予測している。4月からは新排ガス基準(BS6)も導入され、適合車でないと販売できない。非適合車の在庫処分で駆け込み需要が起きれば、その後は反動減もあり得る。6月には購入時の車両登録料が上がり、さらなる需要冷え込みも懸念され、インドが主力市場のスズキには厳しい事業環境となりそうだ。

米国・貿易問題は要注意

米国市場は来年も高水準の1700万台を維持しつつ、横ばいか微減との見方が優勢。堅調な景気や低金利、所得増、ガソリン価格の低位安定などが寄与するが、新車価格が上昇し続けており中古車が好調なこと、今年で1700万台規模が5年続くことからピークアウトに向かうともみられている。

セグメント別ではスポーツ多目的車(SUV)は堅調、セダン系乗用車は低調との流れが来年も続くようだ。米国市場が主力のSUBARUの中村知美社長も同様の見方をしており、強みのSUVを中心に来年の米国販売は増加を見込んでいる。

構造改革中のホンダは来年、開発効率や部品共有を高めた新設計手法を採用した初の世界戦略車を投入することから、低収益性が改善されるか注目される。

日米貿易問題は要注意だ。追加関税は避けられたものの、関税削減・撤廃は事実上、継続協議となる。だが、来年11月の米大統領選を前にトランプ氏が関税撤廃交渉に応じるかは不透明。日本から米国への輸出が多いトヨタなどは油断できない。

米中貿易交渉でも、両国が「第1段階」の合意に達し、米国は対中制裁関税の発動中止と適用済み関税の一部緩和、中国は米農産品購入拡大などを約束したが、米国が再び関税引き上げや追加関税を課す可能性はゼロではない。

欧州は環境規制強化

欧州では来年からCO2排出量の95グラム規制の適用が始まる。基準に満たないと罰金が科せられるが、基準をクリアできる電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)などは生産コストがかかる。コストを販売価格に転嫁すれば、販売台数が落ちる恐れもある。各社は台数構成と罰金の難しいバランス調整に迫られることになる。

マツダは一部車種の値上げやEV投入などで対応する予定だ。東海東京調査センターは環境規制強化でマツダとスズキの来期業績予想にそれぞれ100億円のコスト増を織り込んでいる。スズキはEVやPHVを持たず、トヨタからのHV供給が来年後半になる可能性があるため、シティグループ証券では来期業績予想で罰金と欧州での台数減少により計350億円程度の減益要因を見込む。

一方、日産自動車は今年12月に新経営体制がスタートし、中期計画を修正中だ。しかし、業績回復と商品戦略などの責任者だった関潤・副COO(最高執行責任者)が1カ月足らずで退社を決め、今だ体制すら安定しない。

法整備も進み、来年は最新の自動運転車が走り始める「自動運転元年」ともいわれる。しかし、自動運転や電動化への投資拡大期と主要市場の低迷期とが重なり、自動車業界は「今後は長期にわたる『利益枯れ』の時代に突入する」とコンサルティング会社アリックスパートナーズは指摘している。