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ジーユー代表取締役社長 柚木 治
年商1兆円をめざし、ユニクロの2倍のスピードで成長する!

ファーストリテイリング(山口県/柳井正会長兼社長)が2006年に立ち上げた「g.u.(ジーユー)」ブランドが快走を続けている。ジーユー(東京都/柚木治社長)の12年8月期は、売上高約580億円、営業利益約50億円で増収増益となった。試行錯誤を経て、ようやく本格的な成長軌道に乗り始めたジーユーは第2のユニクロ(山口県/柳井正会長兼社長)をめざす。その経営戦略について、柚木社長に聞いた。

聞き手=千田直哉 構成=下田健司(ともにチェーンストアエイジ)


ユニクロの半値のファストファッション

ジーユー代表取締役社長●柚木 治(ゆのきおさむ) 1965年兵庫県生まれ。一橋大学経済学部卒業後、伊藤忠商事入社。外資系金融会社を経て、99年ファーストリテイリング入社。2000年4月執行役員。02年9月エフアール・フーズ代表取締役社長。08年9月GOVリテイリング(現ジーユー)副社長。10年9月ジーユー代表取締役社長就任

──ファーストリテイリングの中で、ジーユーはどういうポジショニングにあるのですか。

 

柚木 大きく言うと、2つの軸があります。1つは、驚きの低価格。もう1つは、ユニクロがベーシック主体の商品であるのに対して、トレンドファッションを取り入れていることです。

 

──ユニクロのセカンダリーラインという位置づけですか。

 

柚木 そうとも言えますし、そうでないとも言えます。もともとはユニクロの廉価版でスタートしました。しかし、お客さまのニーズに応えていない、需要を創造していないということから、軌道修正を重ねてきました。2006年のブランド立ち上げから6年ですが、ビジネスモデルとしては今、5世代目に入っています。

 

──どのように変わってきたのですか。

 

柚木 スタート時は、ODM(相手先ブランドによる設計・生産)中心の低価格ファッションでしたが、うまくいきませんでした。2世代目はユニクロの廉価版で、価格はユニクロの7掛でしたが、これもお客さまには響きませんでした。3世代目は、ユニクロの半値かそれ以下に設定しました。典型的なのが990円ジーンズですね。ヒットしましたが、行き詰まったため、4世代目としてトレンドファッションを取り入れたのです。ユニクロの廉価版で、「多品種少量」と「売り切れ御免」をミックスしました。

 

 今は5世代目に入っていて、多品種少量ではなくて品番を絞り込んだうえで、トレンドファッションを取り込んでいます。ファッション業界では常識外れのやり方ですが、販売は好調です。

 

──セグメンテーションやターゲティングは考えているのですか。

 

柚木 お客さまを限定する意味でのターゲティングは考えていません。ただ、矛盾するようですが、20代の若者に支持されるブランドをめざしています。今は20代に支持される服が、年齢に関係なく着てもらえる時代なのです。

 

──ファストファッションの「フォーエバー21」に近いですね。

 

柚木 考え方は似ているかもしれません。若者に支持されるブランドをめざしつつ、結果的には幅広い年齢層のお客さまに買っていただいている。

 

 大ヒットした990円ジーンズが一周し、ビジネスが失速したあと、軌道修正してトレンドファッションを取り入れたわけですが、それが11年春の「be a girl」(ビー・ア・ガール)というスモールコレクションです。多品種少量・売り切れ御免の典型的なファストファッションです。

 

 やってみてわかったことが2つありました。多品種少量でも、トレンドのど真ん中をとらえれば、ものすごく売れるということです。もう1つは、若者向けにつくったのですが、主婦層をはじめ年齢に関係なく買ってもらったということです。

 

 それで、全体をビー・ア・ガールにしようと考えました。それも多品種少量・売り切れ御免ではなくて、トレンドのど真ん中を見定めて、品番を増やさずに1点当たりの生産量を多くしました。

 

値引きを抑えて、価格の信頼感を得る

──少品種大量生産で、トレンドを追うのは難しくありませんか。

 

柚木 ファッションには選ぶ楽しさが必要で、品番が多くなければお客さまが楽しくない、飽きてしまうのではないかとよく言われます。一方で、トレンドのど真ん中でも当たり外れは出るものなので、品番を絞り込むのはリスクが高い、無謀だということもよく言われますね。

 

──しかも、ユニクロの半値以下の価格で販売する。

 

柚木 安くなければ、お客さまに買っていただけません。ローコストオペレーションに徹すること、そしていかに値引き率を抑えて売り続けられるかを重要視しています。値引きはしないほうがいいに決まっています。ただ、それだけではなくて、われわれのような低価格で販売するビジネスでは、店頭価格を信じてもらえるかがとても大切なのです。値引きを繰り返していると、信頼がなくなってしまいます。

 

 お客さまは、流行を先取りしたいと思っていても、好きなブランドに限ってセールを待たなければならないことがあります。値段が下がるまで待たせてしまったら、お客さまの期待に応えていないことになる。ジーユーはプロパー価格が信頼できるから、シーズン初めから欲しいと思ったら、すぐ買えるようなかたちにしなければならないと思っています。

 

──ファストファッションは大体、ワンシーズンのみの着用を前提にしていますが、ジーユーもそうですか。

 

柚木 ワンシーズンで品質的に駄目になるとか、壊れるとか、裂けるというのは論外です。トレンド商品なので、ワンシーズンで着用しなくなることは多いと思います。ジーユーはワンシーズン間違いなく着ることができ、次のシーズンも着られる。変な言い方かもしれませんが、高品質は重要視していなくて、当たり外れがないということを実現したいと思っています。

 

 安いものを買って高くついたと思ったことがない、結果として品質のことをお客さまが忘れられるようにしていきたい。それを、ユニクロから生まれたブランドとして強みにしていきたいと思っています。

 

──そこは差別化の大きなポイントになってきますね。

 

柚木 値段は安いけれども、店内はいつもきれいにしてあるとか、スタッフがきびきびしているとか、細部まで神経が行き届いているといったことが、ブランド全体として大事だと思っています。

 

ユニクロとネットワーク・情報・ノウハウを共有

 

──商品開発部隊は、ユニクロとは別なのですか。

 

柚木 まったく別部隊です。1人の人間が、クリエーティブな部分でユニクロとジーユーをつくり分けるのは現実的ではありません。全力で1つのブランドをつくらないと、いいものはできません。ですから、完全に分かれています。ジーユーのチームには、ジーユーのために入ってきた人間もいれば、ユニクロから移ってきた人間もいます。

 

──素材については、ユニクロと共通化しているのですか。

 

柚木 いいえ、素材がいちばん違いますね。一般的に素材は原価の50%ほどを占めます。ジーユーはお客さまが普通に着るぶんには何ら問題がないという素材を駆使し安くするというかたちで、お客さまに還元することを追求しています。

 

──素材の調達面で課題はありますか。

 

柚木 いい素材に巡り合っても、安定調達できないときがあります。ユニクロは長期的な取り組みとして安定調達が可能ですが、われわれはまだ追いついていません。たまたまこの生地はこれだけの量が確保できることがあっても、継続するというとハードルがありますね。

 

──調達先を開拓する組織はユニクロと別なのですか。

 

柚木 生産部隊は同じ組織です。ネットワーク、情報、ノウハウをここが持っています。同じ組織の中にユニクロチーム、ジーユーチームがあって、情報やノウハウを共有しながら動いています。その結果として、別の素材、別の縫製工場を使うことになっています。

 

──生産地は中国以外の国も増えているのですか。

 

柚木 中国、バングラデシュ、インドネシア、カンボジア、ミャンマーなどがあります。割合では中国がいちばん高い。中国以外での生産地を増やすスピードは、ユニクロより早いですね。

 

──やはり生産コストが安いからですか。

 

柚木 ケースバイケースです。総じて安いとは言えますが、中国は人件費が高くても、効率がいい場合もあります。ただ、人件費は上昇傾向にありますから、将来を考えて中国以外を増やすことも検討しています。

 

出店スピードを加速、店舗も大型化

 

──12年8月期(前期)は売上高約580億円、営業利益約50億円と好業績でした。振り返ってみていかがでしたか。

 

柚木 出来過ぎです。好調の要因はいくつかあります。低価格ファッションはこれまで、海外勢の専売特許みたいになっていて、日本人が欲しいような、かわいい服は決して安くなかったと思います。けれども、誰も安くしようとはしなかった。そこをジーユーが開拓したのです。もう1つは、旬のタレントを起用したキャンペーン、そして990円のゆるパンやマキシワンピースのキャンペーンですね。これがヒットした。この2つがいちばん大きい要因でしょう。

 

 

──前期は35店舗の出店でした。今期の出店はどれくらいになりますか。

 

柚木 今期は60店舗の出店を計画しています。手薄だった都市部に出していきますし、郊外のショッピングセンター(SC)やロードサイドにも出店します。この3つの立地に出していきます。

 

 とくに、ポイントはロードサイドです。ロードサイドでトレンドファッションは売れないのではないかという懸念もありました。しかし今のところ、既存店売上の伸びは、SC・ファッションビルとロードサイドでほぼ同じです。ですから、今後も両方に出店していこうと考えています。

 

──中期的にはどのような出店構想を持っていますか。

 

柚木 今期は60店ですが、来期からは70店にしていく計画です。併せて、売場面積は140坪くらいが標準だったのですが、スクラップ&ビルドをして200坪以上にしていきます。500坪クラスの大型店も増やしていきたいと考えています。

 

──海外出店は考えていますか。

 

柚木 14年には1号店を出す計画です。アジアが有力ですが、まだ決定はしていません。北米や欧州にも出ていきたいと思っていて、どこから始めるか今、検討中です。ただ、日本で磨いた、日本のDNAを持ったファッションは、アジアにいちばん合うと思っています。

 

──ネット消費が拡大しています。ネット通販事業について計画はありますか。

 

柚木 当社のネット通販の売上は全体の10%もありませんが、10%以上になると見ています。実店舗を利用するすべてのお客さまに、ネットでも買ってもらいたいと思っています。ネットを利用されると、年間購買額が増える傾向があります。実店舗とネットのカニバリよりも相乗効果のほうが大きいのです。

グローバル化でユニクロを追い越せる?

──事業が拡大していく中で、人材の採用も重要になりますね。

 

柚木 新卒と中途の両方で人材は採用しています。新卒は、11年春に1期生、12年春に2期生が入社しました。100人ずつ採用しましたが、13年春は120人を予定しています。その後は倍増させていきたいと思っています。

 

──求める人材像はありますか。

 

柚木 出来上がっている人よりは、伸びしろがある人、これから伸びそうな人を求めています。業界外の人材も大歓迎です。それから、海外志向の強い人。そして何よりもファッション好きな人ですね。

 

──新入社員はどのように育成していくのですか。

 

柚木 新卒の場合は全員必ず店長になってもらっています。店長の仕事には、会社のすべての機能が凝縮されています。店長を務めたあとは引き続き店長を続けたり、商品やマーケティングなどの部署に異動するというかたちが一般的です。

 

──ちなみに、ジーユーの社内公用語は英語ですか。

 

柚木 制度上はそうです。外国人がいれば英語にします。ですから、海外展開を機にグローバル化します。ユニクロに比べるとグローバル化が遅れているのですが、外国人の採用比率を増やしていけば、追い越せると思います。

 

──グループの事業会社間の人事異動はありますか。

 

柚木 各事業会社で採用はしますが、個人の成長と会社の戦略という意味で人材交流はあります。ジーユーの場合は採用して間もない人が多いので、ジーユーからユニクロに行ったケースはまだありませんが、今後は増えていくでしょう。

 

──最後に、第2のユニクロに向けての抱負を聞かせてください。

 

柚木 1つは、ユニクロから生まれて、せっかくユニクロのノウハウやインフラを活用しているのですから、ユニクロの2倍のスピードで成長するということです。

 

 もう1つは、価格帯やマーチャンダイジングからすると、ジーユーはものすごくポテンシャルがあります。10年後、最低でも1兆円をめざしたいと思っています。