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カスミ、イオン、マルエツらが進めるSMのレジレスは将来の選択肢か、歴史の必然か

スーパーマーケットのレジ会計の光景といえば、横一列にレジを並べ、それぞれに従業員を配置して、購入客の会計処理をこなしていく様子ということになるでしょう。しかし将来これを振り返ったら、まるで殖産興業の例に出てくる製糸場のような「前近代的な光景」だと、思う人も出てくるかもしれません。
今後、人員が集中するレジ周りの風景は様変わりし、合わせてスーパーマーケットのレイアウトも変わっていくのではないでしょうか。いま目の当たりにしているレジの光景は、もはや歴史の1シーンに移ろいつつあるように思えます。というのも、体験してみると、やはり「レジレス」は良いからです。

レジに並ぶ心配がない。それも来店動機に?

 取材時のデモンストレーションではなく、実際の生活の中でレジレスを体験できるようになりました。レジレスの仕組みもいくつかある中で、私の生活圏で最初に実現してくれたのはユナイテッド・スーパーマーケットホールディングス(USMH)のマルエツが導入した「スキャン&ゴー イグニカ」でした。このお店に関する限り、私がレジに並ぶことは2度とないはずです。

レジレスの夜明けは近い? 拡大する「スキャン&ゴー イグニカ」

 レジ業務をセルフサービス化するわけですから、顧客にとって買い物時の手間は増えます。私もまだセルフスキャンにまごつくこともありますし、チェックインまたはチェックアウトのスポットはここにあるべきなのか? といった改善要望もなくはないのですが、レジに並ばずに済むなら全てOK!と感じています。

 私など並ぶのが本当に嫌で、コロナ以前からピークを避けて買い物に行くのが習慣でした。しかし今やマルエツならピーク時に行くことも恐れません。あたり前ですが、昼のピーク時は総菜がたくさん並んでいて選びやすいです。

 とはいえ、レジ通過客の全てがレジレスに置き換わるというのは、今のところ極端な話です。スキャン&ゴーの利用率は先行導入したカスミでも、高いところで4~5%、21年度中に10%が目標といいます。イオンリテールの「レジゴー」は高くて35%、トライアルグループのスマートショッピングカートは40%強といいます(いずれも数値は21年2月に確認したもの)。しかしレジレスが部分的なものにとどまったとしても、従来のレジスペースを見直すきっかけにはなりそうです。

レジスペースの圧縮で店舗の可能性が広がる

小型フォーマットの検証モデルと位置付けるフードマーケットカスミ三郷駅前店

 カスミの山本慎一郎社長は、3月1日に開設したフードマーケットカスミ三郷駅前店(埼玉県三郷市)を、小型フォーマットの検証モデルと位置付けます。この店は商業施設の建て替え期間をつなぐ、実質的には仮設店舗ですが、この約220坪の売場でインストア比率を下げたオペレーションを試すそうです。標準店の半分以下という狭い売場における工夫の一つが、レジスペースの圧縮でした。

 三郷駅前店の会計処理は、通常レジ2台とセルフレジ6台、それにスキャン&ゴーで行います。レジに割くスペースは標準店の半分ほど、会計処理に要する人員は全レジ稼働時で3名程度です。これはなにも小型店向けの特別対応というわけではなく、店の規模によって台数は変わるでしょうが、カスミの今の標準的なレジ構成は通常レジ・完全セルフ・スキャン&ゴーの3種類です。

 USMHはレジシステムを内製化しており、カスミでは今後もハードを含めレジスペースの見直しを進めるそうです。コンパクトにすることはもちろんですが、会計のセルフサービス化を進めるにあたり、より使いやすいデザインや、レシート・釣り銭の取り忘れを防ぐ工夫をしていくと言います。

 レジに割くスペースを減らし、会計業務の人時を下げることで小型店の可能性は広がります。また、レジスペース圧縮の目的は小型店の開発にとどまりません。山本社長は、今期の新店で導入を予定するイートインスペースの進化機能「カフェ&ダイン」のような、顧客との新たな接点を創出するサービスの場を確保するうえでも、レジスペースの圧縮は必要と言います。

レジレス化こそがセルフサービスの完成形?

通常レジ・完全セルフ・スキャン&ゴーの3択を提供するカスミのレジスペース

 スーパーマーケットのようなセルフサービス業態のレジ台数は、多くがピークに合わせて設定されています。私のようにピークを避けて買い物に行くと、設置されているものの稼働していないレジのなんと多いことかと思います。そう考える時は当然レジ待ちをしているわけで、すっきりしない気持ちで、ただそこにあるだけのレジを眺めるわけです。

 かといって全レジに常に人をはりつけるわけにはいかず、セルフレジもいいかもしれませんが、顧客がそこで商品スキャンをしている間にも列はできてしまいます。ここはやはり、スマホでもカートでも画像認識でもいいのですが、レジレスの仕組みがよいのではないでしょうか。

 有人レジに人がいない時間を作るくらいなら、そんなレジはいっそなくしてしまえば、それだけ店も広くなります。カスミが提供する決済システムの3択は、顧客にも店にも合理的なように思われます。さらに言えば通常レジをセミセルフに置き換えてもいいかもしれません。今はまだ先行事例に思えても、いつの日か振り返れば、レジこそムリ・ムダ・ムラの権化で、レジレス化によってセルフサービスが完成したという歴史になるはずです。