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利益率29%を実現する利益管理の手法とは?北の達人コーポ木下勝寿社長インタビュー【後編】

2回にわたってお届けしている北の達人コーポレーション(北海道)木下勝寿社長へのインタビュー。前編では自社ブランド「北の快適工房」の商品開発を中心に解説した。後編となる本記事では、同社独自の利益管理の手法や今後のM&A戦略についてまとめた。
(インタビュー実施日:2021年12月1日)

男性向け、マスマーケット向け商品に注力

――「北の快適工房」では、最近は男性向け商品にも力を入れているのですね。

木下 はい。当社の主要顧客層は45歳以上の女性ですが、女性向け商品でも一定数は男性が購入していることがわかりました。19年に男性向けの目の下のケア商品「メンズアイキララ」を発売して以降、前編でもお話しした育毛剤の「モウダス」をはじめ、男性向け商品にも注力しています。

男性をメーンターゲットとした発毛促進剤「モウダス」

――男性用商品を開発する際のポイントはありますか。

木下 男性は女性より肌が分厚いため、浸透率が高まるように肌を柔らかくする成分を入れているほか、女性よりも商品の説明書を詳しくしています。化粧品や美容品は効果が出るまで最低でも1~3カ月かかるのが普通で、女性は当たり前のように知っていますが、男性は知らない人が少なくありません。こういった点を詳しく書かないとクレームのもとになるので、意外と重要です。

――今後の商品開発の方向性を教えてください。

木下 お客さまの悩みに細かく対応した従来のニッチな商品に加え、今後はマスマーケット向けの商品開発にも力を入れていきます。前述した「シンピスト」や「モウダス」はマスマーケット向けの商品です。「ヒアロディープパッチ」の成功で、1つの商品でも大きな売上をつくることができると思いましたが、ニッチな商品はもともと市場規模が小さく、売上を伸ばすには限界があります。一方、市場規模が大きければ、たとえば2000億円の市場がある場合、シェアを5%しか取れなかったとしても売上は100億円になります。

 また、最近ではアマゾンや楽天市場などのマーケットプレイス型ECへの出店も開始しました。もともとアマゾンはすでに知っている商品を安く買う場でしたが、最近ではモバイルバッテリーなどを展開する「アンカー」などアマゾンから知名度を高めたブランドも出てくるようになりました。現状は既存商品の一部をそのままアマゾンなどでも販売していますが、いずれはマーケットプレイス型EC向けに価格帯を抑えた商品を開発していくつもりです。

5段階利益管理」で赤字事業を切り離す

――木下社長が上梓された「売上最小化、利益最大化の法則――利益率29%経営の秘密」が話題となっています。あらためて利益に対する考え方を教えてください。
(注:利益率29%は2020年2月期の数値)

木下 「利益の最大化」というのは基本的にどの企業でもめざしていることですが、利益の最大化と売上の最大化を切り離して考えているのが当社の特徴です。多くの会社は利益を最大化するために売上を最大化しようとします。一方、当社は売上を分析し、「ここの売上を削ったほうが利益が出る」という部分に着目します。細かく事業を見ていくと、「採算の合わないビジネス」はたくさんあります。当社が展開するEC通販事業はそれが可視化しやすく、11件の受注にかかったコストを見て、利益が出ないものはやめるという判断をします。つまり「細かくした赤字事業を切り離す」のです。これにより、売上は下がりますが、赤字がなくなるので利益額は上がりますし、利益率も大幅に向上します。

木下勝寿●北の達人コーポレーション代表取締役社長。1968年神戸生まれ。大学在学中に学生起業を経験し、卒業後は株式会社リクルートで勤務。その後、独立するも、事業に失敗しフリーターに。無一文の中、北海道が日本で最も可能性を秘めた土地であるという判断をし、パソコン1台で乗り込み移住。コネもツテも一切無い状況から1人で起業し、社員数たった70人で東証一部上場を成し遂げ、一代で時価総額1000億円企業に。広告運用や商品開発、顧客サポート、システム開発に至るまでを内製化することにより利益最大化を実現。東洋経済ONLINE「市場が評価した経営者ランキング」1位。日本国政府より紺綬褒章8回受章。著書『売上最小化、利益最大化の法則─利益率29%経営の秘密』(ダイヤモンド社)はAmazonの3部門を始め、ビジネス書ランキング各種7部門で1位となる。

――1つ1つの商品に対する利益貢献度が可視化できるようになっているのですね。

木下 はい。一見売上が大きくても、実は広告費や人件費が大きく利益貢献度が低い商品はありますし、売上は小さくてもリピーターがほとんどで広告費がほぼかかっておらず大きな利益を生み出している商品もあります。こうした分析を、売上高から営業利益までを5段階で可視化する「5段階利益管理」で行っています。利益貢献度が高くても売上が小さい商品は社内で話題になりにくいので、この分析でしっかり把握するようにしています。

シナジーを見込める企業へのM&A

――今後の事業拡大の戦略はどうお考えですか。

木下 商品開発では前述した方針を採りつつ、海外展開も進めていきます。台湾事業はコロナ禍で売上が下がり苦戦していますが、その他の国ではアマゾンを活用した商品展開をしていきます。すでに米国のアマゾンでは、現地向けに開発した抹茶をテスト販売しています。

――最近ではM&A(合併・買収)にも積極的です。

木下 今期はASHIGARU、エフエム・ノースウエーブの2社を子会社化しました。ASHIGARUは「SALONMOON(サロンムーン)」というヘアアイロンブランドを展開する企業で、アマゾンでの展開を中心に成長中の企業です。今後「北の快適工房」がアマゾンで展開していくうえでのノウハウを共有するなど、シナジーを追求していきたいです。

 エフエム・ノースウエーブは北海道では知らない人はいないほどのラジオ局です。子会社化後は当社の商品のラジオ通販のコーナーを設けたり、地元の人材紹介会社と協業して、短時間バイト検索アプリの「northwave プチバイト」をリリースしたりするなど、さまざまな取り組みに挑戦しています。エフエム・ノースウエーブでの取り組みはイレギュラーな部分もありますが、今後は基本的に当社の主軸であるEC事業とシナジーを創出できる企業と協業していく考えです。

――最後に、今後の目標について教えてください。

木下 日本を代表する消費財のグローバルブランドになりたいです。すでに日本には花王や資生堂など、リアル小売での流通から生まれた世界的企業がありますが、当社はネットから生まれた次世代のグローバルブランドとして存在感を示していきたいです。そのためには、「北の快適工房」を中心に、現在取り組んでいることを愚直に一生懸命頑張っていくことがいちばんだと考えています。