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OMO型ストアで“ファッションECの壁”打破をめざす楽天 東急と協力しシナジー創出へ

楽天(東京都/三木谷浩史会長兼社長)と東急(東京都/髙橋和夫社長)と、両社が2020年7月に設立した楽天東急プランニング(東京都/笠原和彦社長)の3社が、11月11日から12月1日の期間限定で、東京都渋谷区の複合施設「渋谷スクランブルスクエア」5FにOMO型ポップアップストアを開設する。店舗の様子と、12日に行われた記者説明会の内容を合わせてレポートする。

Rakuten Fashionの人気商品をオフラインで

 今回開設されたポップアップストアは、楽天のファッション通販サイト「Rakuten Fashion」で取り扱う商品から選出した女性向け秋冬アイテムを展示・販売するもの。OMO(Online Merges with Offline)型と銘打つ通り店頭での直接販売は行わず、リアルからECへと誘導する仕掛け。具体的には、各アイテムのタグに掲示されたQRコードを、お客が自身のスマートフォンで読み込むと、「Rakuten Fashion」の販売ページが開くので、そこから購入・決済する流れとなる。ストアには東急百貨店の販売スタッフが2名常駐し、購入方法はもちろんコーディネートやサイズ選びの相談から、「Rakuten Fashion」を利用したことがないお客へのフォローまでを行う。

 ECではサイズや丈などが分かりづらく、購入に二の足を踏みやすい。そこで、実際に試着したり手に取ったりして確かめた上でオンラインで購入する。というオンラインとオフラインが融合した購買体験を提供することが、ポップアップストア開設のねらいだ。
購入方法をオンラインに限定することにはさまざまなメリットもある。店舗側のメリットとしては、多くのサイズや色の在庫を持つ必要がなくなることに加え、会計や包装などの手間も不要になる。お客としては、購入した商品を持ち歩かずに済み、またQRコードさえ読み込めば、その場で購入せずともじっくり考え後日購入もできる。「今すぐ欲しい」というニーズには応えられない一方で、「通販で失敗したくない」「よく比較検討したい」という需要にはよくフィットする。

QRコードが書かれた商品カード。すべてのアイテムに付属している

 本ポップアップストアならではの特長は、ブランドを横断し「コート」「ニット」などアイテム軸で商品が集められている点だ。約30ブランド・約180点のニット、コート(開催期間中11月20日まではニット、21日以降はコート)をそれぞれ集約。いわば人気のブランドを集めたアイテム軸のセレクトショップで、「Rakuten Fashion」の幅広い商品力があってこそ実現したといえそうだ。今回、品揃えは定番デザインのもの以外は着用イメージが湧きにくいニット、着丈のイメージが掴みにくいコートなど、ECでは購入しづらいジャンルに焦点を当てた。

楽天がねらうオフライン進出、OMOの可能性とは

 今回のポップアップストアは、楽天東急プランニングがOMO事業の一環として楽天と共同で行った企画。楽天東急プランニングは、株式の51%を楽天が、49%を東急が持ち合い設立した会社で、主に広告事業、データマーケティング事業、OMO事業を行う。

 記者説明会において、楽天東急プランニング社長で楽天グループ常務執行役員の笠原氏は、「これからの時代、オンライン・オフラインどちらかだけで生活する人は減ってくる。両方の良いところを活かす可能性を探り事業化していきたい」と話した。実際に、10〜20年前にはオンラインショッピングといえば自宅でパソコンを通じて行うものだったが、現在はスマートフォンの普及などにより必ずしもオンラインショッピング=自宅ではなくなってきている。「オフラインで行動している最中に、オンラインで買物をするシチュエーションが増えてきている」(楽天グループ執行役員 松村亮氏)ことから、今後は楽天会員のユーザーIDと位置情報を活用し、近くにいるユーザーに向けてストア情報をリアルタイムに配信するなどの試みも検討中だという。

 また、ファッションECには「手触りやサイズ感が分からない」という超えられない壁が存在するが、その壁を超えるためのOMOストアの可能性にも触れた。近年、アダストリア(東京都/木村治社長)やオンワード樫山(東京都/鈴木恒則社長)など、主にアパレル業界でOMOストア出店が加速しているが、楽天としてもまずはファッション領域をOMO事業の軸に据えたい考えだ。さらに、ECに関しては豊富な知見を持つ楽天だが、「オフラインの店舗には、独自の知見や専門性を持っている人がいる。新たな体験構築のためには、そういった人々との協力が必要」(松村氏)との考えを示し、実店舗販売や接客に強みを持つ東急とのシナジー創出についても期待を表した。

 今後のポップアップストア展開については、「今回の反応次第。来店者数や購入額よりも、新たな購買体験をしたお客さまがどのくらい喜んでくれるか、ということを指標にしたい」(笠原氏)とした。アパレル業界全体がコロナ禍によってかつてない落ち込みとなる中で楽天は、21年度第3四半期のショッピングEC流通総額前年同期比8.7%増という好調ぶりだ。楽天が手がけるOMOストアが今後どのような展開を見せるのか、高い関心が集まりそうだ。