アングル:日本の米産牛肉輸入、TPP水準へ関税引き下げ 量拡大は限定的か
[東京/シカゴ 26日 ロイター] – 日米両首脳が合意した貿易協定によって、米国産牛肉への関税は環太平洋連携協定(TPP)並みの水準まで引き下げられ、公正な競争環境が整う見通しとなった。ただ、日本の米国産牛肉輸入量は、既にセーフガード(緊急輸入制限)の発動基準に近いため、販売への押し上げ効果は限定的になると専門家は指摘する。
安倍晋三首相とトランプ米大統領は25日、貿易協定の締結で合意し、合意文書に署名した。これによると、日本は米農産品への関税をTPPと同等の水準まで引き下げる。
タイソン・フーズやブラジルJBSの米国子会社、カーギルといった米国の牛肉加工大手は、同協定の恩恵を享受するとみられる。これら米企業はまた、アジアでのアフリカ豚コレラの感染拡大で世界の食肉供給量が減少している現状を商機ととらえている。
カーギルはロイターに対し、日米貿易協定が正式に発効すれば、食肉の対日輸出は増える見込みと指摘。「公正な競争環境が整い、農家や畜産・酪農家、カーギルといった企業が重要な海外市場に商品を提供する機会が増える」と述べた。
タイソンもまた、日米貿易協定で発生する機会に期待していると表明。
ヘザー・ジョーンズ・リサーチの上級株式アナリスト、ヘザー・ジョーンズ氏は、昨年12月に発効した11カ国が参加するTPPに米国が含まれなかったため「米国の輸出業者は、年初から不利な状況にあった」と指摘する。トランプ大統領は就任後早々にTPPからの脱退を決めた。
公正な競争環境
アナリストによると、日米貿易協定で米国の輸出業者は、輸出を増やすことよりもむしろ、市場アクセスの維持に主眼を置いていたという。
日本は、既に米国産牛肉の最大の輸出市場で、昨年の輸出額は21億ドルに上った。
米食肉輸出連合会は、貿易協定による関税の削減や撤廃で公正な競争環境が整い、米国産牛肉の対日輸出は、2020年に23億ドルに拡大すると予想する。
低関税の輸入枠の上限となるセーフガード発動数量は、2020年度が24万2000トンで、33年度には29万3000トンに引き上げられる。18年度の輸入数量実績は25万4529トンだった。
米産牛肉への関税率は、現在の38.5%から段階的に引き下げられ、33年度には9%に低下する。TPPに加盟しているオーストラリア産牛肉への関税は今年26.6%に引き下げられており、米国と同じく33年度までに9%に低下する見通し。
みずほ総合研究所の菅原淳一主席研究員は、米産牛肉の輸入量はセーフガード発動基準に近いため、米国からの輸入が急激に増えるとは想定しにくいと指摘する。豪州並みの競争環境が整ったことで利益は押し上げられても、輸出量はさほど増えないかもしれないという。
貿易協定なければシェア低下も
日本による米国産牛肉輸入は2018年度に前年比10.3%増だったが、輸入牛肉のシェアは横ばいの約41%だった。豪州産牛肉の輸入は4.1%増で、輸入牛肉のシェアは前年度の52.1%から50%にやや低下した。
コンサルタント会社・キャトルファクスのアナリスト、トロイ・ボッケルマン氏は「この貿易協定がなければ、日本市場のシェアは大きく低下する」と指摘する。
一方、農林水産省の当局者は、牛肉輸入は為替相場や価格、顧客の嗜好を含む複数の要因に影響を受けているとの見方を示した。
トランプ大統領は25日、日本は70億ドル相当の米農産物について市場を開放する見通しで「米国の農家と牧場経営者にとって大きな勝利だ」と誇った。
丸紅経済研究所の今村卓所長は、米政府は苦境に立たされる農家に対し、日本から譲歩を引き出したと強調できるかもしれないが、米国という国の規模を考えると、70億ドルというのは、それほど大きな成果ではないと述べた。