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「顧客起点」のデータ活用で導く競争優位の戦略
 差別化を実現するための最新アプローチとは

 小売業のデジタル化が加速している。少子高齢化や人口減少から消費の先細りが言われる中で、効率的に顧客を誘引し購買の拡大につなげるためには、もはやデジタルによる差別化しか有効な方法はないとされている。しかもスーパーやドラッグストアなどは、すでに多くの商圏でオーバーストアという様相を呈しており、価格競争、顧客争奪戦が激しさを増している。そうした競争で求められているのが、「顧客」を起点にしたデータの統合とそのデータを分析・活用する戦略だ。しかし、小売業では膨大なデータがあるものの、データが十分に生かされていないケースが少なくない。そこで今、注目されているのが、CDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)だ。

チラシからWebサイトやアプリなどデジタルメディアの重要性高まる

 小売業でもDX(デジタルトランスフォーメーション)が活発化している。競争激化を招
いている要因のひとつが、Amazon.comをはじめとしたECの台頭である。巨大プラットフォーマーによる、デジタル戦略の進化に、既存の店舗主体の小売業が太刀打ちできなくなっていることが挙げられる。ネットで商品を検索し選択、クリックひとつで自宅まで商品が届くのが当たり前の状況になっている。しかもECで購入するのはアパレルや電化製品、書籍などに加えて食品・生鮮にまで広がってきた。ドラッグストアやコンビニでも生鮮品を扱う店舗が増え、業態の垣根は崩れ、異業態間の競争が激化している。

 スーパーにとってかつては新聞の折り込みチラシが、限定された商圏の顧客を集めるのにもっとも有効な手段とされてきた。しかし現代では新聞の購読者は減り、配布される部数が少なければ、それだけチラシの効果も限定的になる。

 しかも顧客はチラシに頼らずネットで情報を容易に集め、店舗を選択したり手軽にECで購買したりといったように、購買スタイルも多様化している。それを感じ取った先進的な小売業はポイントカードを通じた顧客データの収集から、アプリを使った顧客の店舗への来店促進やECサイトへの誘導、顧客に合ったクーポンの提供などを通じ販売拡大につなげようとしてきた。そうしたデジタル活用で様々な角度から顧客データを収集することも可能になってきた。

顧客行動に着目し効果的なデジタル投資を行うかが課題

 データの利活用が言われるようになって久しい。ここ数年はAIを使って需要予測だけでなく、より精緻に顧客分析に着手する小売業も増えている。もともと社内にはPOSデータで得られる購買データ、ポイントカードなどによるCRMのデータ、WebサイトやECサイトへのアクセスログデータやどこに注目していたかといった履歴も把握できるようになっている。ところが社内でそれぞれのデータが分散してデータベース(DB)化されているために、多様化する1人の顧客の情報を一元的に把握できず、そのために顧客行動を予測できないといった壁に直面するケースも増えているという。

 ダイヤモンド・リテイルメディアが実施した調査(「流通テクノロジー」2020年3月号掲載)では、多くの小売業でITの利活用を実施あるいは検討しており、「情報システムによって実現したいこと」の設問では「店舗業務の省力化・効率化」がトップを占めるなど、ビジネスの生産性向上に力点を置いた回答が多かった。そしてMDや販売促進へのIT導入については「ビッグデータ分析・活用システム」が前回調査から約40ポイント上乗せしトップに躍り出た。

 小売業におけるデータ活用の効果を高めるためには、例えば「需要予測」や「在庫管理」といったものだけではなく、1人の顧客を起点にして「顧客行動」を把握できるデータの使い方を指向すべきだ。実際、社内には購買データをはじめとして個人と紐づいたデータが日々膨大な量で蓄積されている。店舗で得られる情報とECサイトやWebサイトの閲覧履歴など収集される顧客データは多岐にわたり、そのすべてのデータを統合・分析することで顧客理解が促進される。その結果各種のマーケティング施策や販売促進に生かす仕組みを通して購買体験の向上につなげることができる。

多種多様なデータ連携を可能にするカスタマー・データ・プラットフォームとは?

 データ活用における課題を解決するために注目されているのが、CDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)だ。様々な形で記録されているデータを、即時に収集し分析、そして外部システムへのデータの受け渡しを実現する。このCDPで世界のリーダーカンパニーとされるのがトレジャーデータだ。

 トレジャーデータは2011年に米国シリコンバレーで3人の日本人が設立したスタートアップ企業。2018年にはソフトバンクグループの子会社である英国Armの傘下に入った。そのソリューションである「Arm Treasure Data CDP」の主な機能は下記の通り。

Arm TREASURE DATAのサービス概要
多種多様なデータコネクターを標準機能として完備し、契約企業のデータ収集・統合・施策ツール連携をフルサポートするプラットフォームを提供。
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 創業から10年足らずで、国内では小売業のみならず、自動車や金融、交通、一般消費財など多くの業種の大手企業が導入を始めており、CDPという切り口から企業の売上アップ、顧客施策の拡充に貢献している。

 業務効率化で様々な業種でDX化が進んでいる。こうした急速なデジタル化の進展の中で、小売業にとっても顧客データの統合、分析、利活用は必須条件になっている。デジタル化を進める企業でも、毎日膨大に発生するデータを統合する仕組みを備えなければ、結果としてサイロ化を招いてしまうからだ。データの統合・分析で見えてくる事実を把握できなければ、顧客に対する理解も進まず、競争を優位には進められない。

 そうした点で、小売業での利用ケースもシンプルでわかりやすい。最初に取り組むべきは、会員情報や購買情報などを社内で管轄するDBとWebやアプリなどのデジタルチャネルのリアルタイムの行動データの統合による各種マーケティング施策や販売促進の最適化だ。

小売業における効果的な活用シーンとは?

 会員分析やRFM分析からの顧客データは社内に蓄積されているが、CDPを活用することでWebやアプリなどのリアルタイムの顧客行動を紐づけることが可能になる。例えば、購買情報からみればここ数か月の来店記録はないが、Webサイトなど自社チャネルを活用して情報収集していることがアクセスログから判明した場合、それを優良顧客としてすぐに顧客とのコミュニケーション機会を持つなどのアクションを起こすことが可能になる。

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 様々な顧客関連データの蓄積→統合→活用のサイクルがもたらすのは、顧客に対する予測施策の利活用である。Arm Treasure Data CDP上で実装されている機械学習機能を用いて、ロイヤリティの高い顧客に似た動きをする顧客をスコアリングし、購買予測モデルを計算する。その上で顧客の“半歩先”を行く接客とも言えるアプリ上で顧客ごとのクーポン配信を行い、対象顧客の来店頻度や購買金額の向上を図りたいと考える小売業にとっては有効なツールと言えるだろう。

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顧客の行動様式の変化への対応が必要

 小売業にとって購買データは非常に重要な情報。その認識は小売業にとって共通だが、実際には消費者嗜好の複雑さから最大限に活用されていないのが実情だ。中長期的な視点に立てば、今後、小売業はリアル店舗だけではなく
アプリやWEBサイト、ECサイトなどオンラインでの顧客接点を広げ、そこから得られる
顧客データを統合して分析・活用する戦略が成長には不可欠になる。

 CDPはオンラインとオフラインのシームレスな顧客接点から得られる購買行動や嗜好性のデータを取得し統合することできる。そのデータを活用しパーソナライズされたカスタマージャーニーに基づいた効果的なマーケティング施策を実行できことにより、顧客LTVの向上に寄与する中長期的なインフラである。

 新型コロナウイルスの感染拡大から全国規模の緊急事態宣言の発令と解除という社会情勢の中で、生活者の意識や消費者の行動様式は変化しつつある。とくに新型コロナウイルス感染の終息が見えないなかで「with コロナ」「after コロナ」というフレーズも一般化している。小売業の顧客データ活用が、消費者とのコミュニケーションや結びつきを一層強固にする期待も高まる。顧客データを活用するマーケティングの重要性はこれからも高まっていくだろう。

 本連載シリーズでは顧客データ活用戦略の意義や利点について、次回以降、有識者の話も交えてさらに掘り下げていく。