メニュー

実験開始から2年で分かった!キャッシュレス化で店舗運営コストはどれだけ下がるのか!?

2019年10月1日より消費税が10%に引き上げられ、来年6月までのキャッシュレス決済によるポイント還元制度も始まった。現在20%程度の我が国キャッシュレス比率を25年までに40%に引き上げようという政府目標をけん引する手段として一部では期待がもたれている。そうしたなか、もし、完全キャッシュレスの店舗なら、小売業のオペレーションはどの程度変わるのだろうか?2017年に都内にオープンした完全キャッシュレス店舗のいまを見てみると、さまざまなテクノロジーを組み合わせることにより、実に様々な業務を軽減できていることが分かる。

ロイヤルホールディングスが2017年11月に東京にオープンした「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町」

完全キャッシュレス化でなくなるのは現金管理コストだけではない

 201711月、ロイヤルホールディングス(福岡県/黒須康宏社長)が東京・馬喰町にオープンした「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町」(以下、GTP)は、少子高齢化による生産年齢人口の減少が続くなか、外食店舗における店長の業務を軽減することを目的に、「生産性向上」と「働き方改革」の両立をめざした研究開発のための店舗として運営されている。

 オープン時には「現金が一切使えない」“完全キャッシュレス”の店として話題を集めたが、そもそも、「店舗のIT化(キャッシュレス、ペーパーレス)」、「セントラルキッチン+テクノロジー(新調理機器導入、コンパクトキッチン)」、「アセットライト(厨房設備の軽量化、出退店の迅速化)」を研究開発の3つの柱としていた。

 そのGTPのオープンから2年近くが経過した。

 当初は、キャッシュレス決済も各種クレジットカードと電子マネーのみの対応だったが、現在は、QR決済(楽天ペイ、LINEペイ、ペイペイ、d払い、アマゾンペイ、アリペイ、WeChat Pay)にも対応。QR決済の場合はセルフテーブル決済が可能だ。

 注文はスタート時からタブレット(iPad)によるセルフオーダー方式。完全キャッシュレスにより、つり銭の準備、現金の過不足調査もなくなり、金庫も不要、閉店後に行なうレジ締め作業もほとんど時間がかからない。セントラルキッチンは油・火を使わない最新調理機器のコンパクトキッチン。店内の清掃は掃除ロボットが担当する。業務のペーパーレス化も確実に進んでいる。

 店長の管理・事務業務が半減する!

 こうしたIT化、テクノロジーの導入により、店長の管理・事務業務の軽減効果が生まれているという。

「グループの他の店舗の店長と、GTP店長との業務時間割合を比較したところ、管理・事務業務の割合が、他店舗では19.0%あるものが、GTPでは5.6%になっている」(広報担当者)

 このほかでは、開閉店・清掃が「他店舗7.5%」に対し「GTP2.5%」となり、反対に、接客調理は「他店舗55.9%」「GTP67.4%」、店舗マネジメントは「他店舗7.3%」「GTP11.3%」というように、本来、人が行うことで価値が生まれる作業に店長が集中できるようになった。

 さらに、GTPでの成果により、掃除ロボットのロイヤルホスト全店での導入、新しいPOSレジ導入による現金管理を行わない仕組みづくり、自社セントラルキッチンの食材と最新調理機器の導入など、グループ店舗への横展開も着実に進んできている。

 今後の展開については、来客予測の実証実験、グループ全体での計画生産、販売促進等のデジタルトランスフォーメーション(DX)を計画しているという。

 またセントラルキッチンではさまざまな冷凍料理(フローズンメニュー)を開発、新調理機器と組み合わせることにより、店舗で本格的な料理が簡単に提供できるようにもなった。消費増税後は、外食と中食との戦いがますます厳しさを増すといわれているが、これらフローズンメニューはそのなかでの強力な武器になると、同社ではとらえている。

完全キャッシュレス化は根付くのか?ロイヤルHDの率直な感想は?

 消費増税の実施、一部商品への軽減税率の適用、キャッシュレスサービスの乱立、キャッシュレス決済による期間限定のポイント還元制度という、一連の流れに乗りきれない中小事業者は少なくない。

 POSメーカーへの発注が軽減税率対策補助金の対象期限ぎりぎりに集中し、POSレジの入れ替えが消費増税開始時に間に合わないところも出てきている。そのため、食品などの軽減税率対象商品と対象外の商品を扱うところでは「当面は、10%用のレジ、8%用のレジを商品ごとに使い分けて対応する」といった、笑うに笑えないような話も伝わってきている。

 ロイヤルホールディングスでは、現金管理はコストがかかるため、政府主導であれキャッシュレスの推進は望ましいとしつつも、「完全キャッシュレスは、お客さまにとって『現金が使えない』ということであり、選択肢が狭まるということ。まだまだ多くの方に受け入れてもらうのは難しい」という見方をしている。

 加えて、お客にとってわかりやすいこともさることながら、店舗にとっても使い勝手のよいものでなければ、キャッシュレス決済を導入するメリットは薄い。いたずらに決済現場が混乱し、顧客不満足を与えることになってしまっては、本末転倒だ。

 キャッシュレスを「店長業務の軽減」のひとつととらえ、「生産性向上」と「働き方改革」の両立をめざし、研究・開発のための店舗として運営されるGTP。完全キャッシュレスでの顧客対応においても「一日の長」のある同店の動向から、今後も目が離せない。