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クラシルがネットスーパー参入 クラシルマートの勝算と他社にはない強みとは

動画レシピサイト「kurashiru(クラシル)」および国内最大級の女性向けメディア「TRILL」を展開するdely(東京都/堀江裕介社長)は2022年7月21日より、注文から1時間以内に配達するクイックコマース型のネットスーパーを開始した。3年で売上高120億円をめざすという。利益を上げるのが難しいとされる生鮮ECビジネスにおける勝算と、競合クイックコマースや既存ネットスーパーにはない強み、特徴、戦略について、クラシルマート事業を統括するdely執行役員/コマースカンパニーGMの大竹雅登氏に話を聞いた。

クラシルマートは生鮮3品を含む食品と日用品を約2000SKU(オープン時)取り扱う

ターゲットは
普段から料理をする、子育て世代の女性

ダークストア内の冷蔵ケース。中がみえるオープンタイプのケース内には青果物などが入っている

 クラシルは約4万件のレシピが見られる無料の動画サービスで、2030代の子育て中の女性を主なユーザーに、アプリ単体で3600万ダウンロードを超える。このクラシルのデータを需要予測に活用し、レシピと紐づける形での新しい買い物体験を提供し、必要な食材を効率的に揃えるクイックコマース型のネットスーパーが「クラシルマート」である。
 クラシルと同様、子育て世代の女性をメーンターゲットに、注文から1時間以内での配送を行う。最低注文金額は2000円(税込み)でアプリから注文を行う。
 クラシルマートの立ち位置について大竹氏は「クイックコマースには主にコンビニ需要を満たすタイプと食品スーパーの需要を満たすタイプに分かれる。クラシルマートは当然、レシピと紐づけたいと考えているので、子育て世代の女性で普段料理をする人をメーンターゲットとする後者になる」と語る。

 「クラシル」利用者のほとんどは、普段スーパーマーケットに買い物に行っている。そうしたなかでdelyは、「食に関する課題を包括的に解決できる事業」を手掛けたいと19年から、野菜の定期宅配や買い物代行などのさまざまな試みを行ってきた。
 今回、「買い物に関するペイン(顧客が抱える悩みや課題)のなかでも、共働き世帯の育児世代が抱えるペインがもっとも大きく、これを解決したい」(大竹氏)と考え、クラシルマート事業をスタートするに至った。

 

ダークストアの売場面積は100坪、品揃えは…

ダークストア内。他のクイックコマースと同様の店内となっている

 ダークストア1号店となる五反田店は、五反田駅から10分ほど離れた場所にある古いオフィスビルの2階にある。元はクラシルの動画撮影スタジオだったフロアで、このうち約100坪の空間をダークストアとして使う。棚ごとに番地が振られ、カテゴリー別に什器に商品が並んであるのは、他のダークストアと同様だ。

ダークストア内の冷凍、冷蔵庫は、一部中が見えるケースも導入しているが、メーン業務用の中身が見えないタイプ

 異なるのが冷凍、冷蔵品の什器。スーパーマーケットと同様、冷蔵、冷凍ショーケースを使うダークストアが多い中、クラシルマートが主に使うのは業務用の冷蔵、冷凍庫だ。「商品の位置は番地で紐づけてあるから、外から商品を目視で確認できる必要はない。トビラ付き冷蔵、冷凍庫の方が価格も安く、冷却効率も良い」(同)のがその理由だ。

冷蔵庫、冷凍庫を開けると、このように商品が種類別に保管されている

  ところでなぜ、多くのクイックコマースが1階の物件をダークストアとして選ぶなか、クラシルマートは「空中物件」にしたのか?例えば同じクイックコマースのOniGOのダークストアは商店街などの1階に立地し、オープン当初は認知度を高めるために米の販売なども行っている。
 「クラシルマートは、1030分といった時間軸ではなく、注文から1時間以内に届けるサービス。1階にこだわる必要がないし、2階以上の物件の方が賃料は安い。一方で、オペレーションとSKU数に直結するため、ダークストアの広さを優先している」(同)

  重視するというその品揃えは「料理をする人が必要とする食材を揃える」ことがテーマのため、生鮮3品も取り扱い、オープン当初は2000SKUからスタート。今後、お客の要望に合わせて、品揃えを増やしていき、普段の買い物を完結するうえで不足のない、40005000SKUにまで増やしていきたい考えだ。
 品揃えおよび各商材の仕入れ個数についてはクラシルのデータを活用する。たとえば取材した7月22日、検索ボリュームが上昇中で検索キーワード1位となった野菜はレタスだったので、その日の仕入れ個数を増やす、といった具合だ。商品は卸のほか、メーカーや市場から直接仕入れる場合もあり、原則注文から1日で納品される体制を整える。

クイックコマースなのに「軽バン」で配送する理由

 こだわるのが生鮮の鮮度だ。野菜は前日夕方に収穫したものがその日の朝納品されるほか、青果卸を通じて一部産地直送野菜も扱う。生鮮品はすべてパッケージされた状態で納品され、ダークストア内での加工作業は行わない。
 現在はメーカー品のチルド総菜などは扱うが、いわゆる総菜の扱いはなし。また鮮魚の取り扱いは現時点で、各種冷凍魚、加工調理済みのチルド商品などに限られるが、今後は刺身なども品揃えしていきたい考えだ。

 なお価格政策については、「少なくとも、スーパーマーケットと比較できる程度」の値付けとする。一方、送料は無料だ。

  配送は3km圏内が目安。同心円ではなく、子育て世代が多いエリアや世帯数が多いエリアを優先して設定する。特徴は、注文から1030分以内に配達するクイックコマースは自転車やバイクを使うのに対して、すべて「軽バン」を使う点だ。レシピに必要な素材がすべて揃うネットスーパーをめざすため、一件あたりの配送量が増えるとみているからだ。

  オープン間もないが、現時点での生鮮売上構成比は4割と高く、想定ターゲットに合致した購買行動が目立つと言う。売上も当初の予想を上回る上々のスタートを切ったクラシルマート。今後、五反田店で品揃えやオペレーションの検証を進めた後、6か月程度を目安に拠点を一気に増やしていきたい考えだ。同時に、クラシルのレシピと連動したサービスもスタートする予定だ。

 一方、5600万人の利用者数を誇る「クラシル」からの送客を行うのは少し先のことになるという。首都圏都心部での展開を進めていき、ある程度の人口をカバーした段階での開始となりそうだ。それまではチラシのポスティングといったローカルマーケティングに徹して、エリア認知度を高めていく。

 大竹氏は「黒字になるサステナブルな事業を構築するために、生鮮の売上構成比を高めて利用頻度を高め、粗利益率を高めていく」と語る。

クラシルマート事業を統括するdely執行役員/コマースカンパニーGMの大竹雅登氏