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後発企業に学ぶ!食品スーパーのアプリ導入で大切にすべきこととは

去る3月1日から4日まで、東京ビッグサイトにて第38回流通情報システム総合展「リテールテックJAPAN 2022」が開催された。その会場での取材から、小売業に役立つ情報をお伝えしたい。今回は、アプリ後発組の小売業、とくにスーパーマーケットは導入にあたり、何に注意すべきか、だ。

milindri/istock

ベイシア、東急ハンズなどが導入する「MGRe(メグリ)」とは

 リテールテックの来場者数宇はコロナ前の半分以下、人であふれる展示ブースも少なく、会場内を回遊するには適度の混雑具合だった。そうしたなかで、わずかなスペースに十数人が足を止め、熱心にプレゼンテーションに耳を傾けている展示ブースがあった。

 アプリマーケティングプラットフォーム「MGRe(メグリ)」のブースだ。2007年創業のランチェスター(東京都/田代健太郎社長)が開発したもので、同社では無印良品のアプリ「MUJI passport」の立ち上げなどに関わった後、17年に「MGRe」の前身である「EAP」をリリース、20年に現在の名称にリブランディングした。「MGRe」は、ニュース配信、クーポン施策、店舗案内、ECとの連携、会員証等を標準機能としており、ベイシアや東急ハンズ、数々のアパレル系ブランドなどで導入が進んでいる。

 熱心な聴衆を引き付けていたのは、ベイシアグループ全体を管轄する担当者を交えたミニセミナーだ。20年12月から「MGRe」を導入したベイシア。その基本機能は、「ポイントをためる」「チラシを見る」「クーポンがもらえる」「シーズン商品を予約する」で、会計時に会員証画面を提示すれば会員限定価格が適用される。また22年1月から同社では、楽天全国スーパー内に「ベイシアネットスーパー」をオープンしているが、その商品の店舗受け取りを希望する場合、ベイシアアプリと連携することになっている。

 Webサイト上にある「よくある質問」コーナーでは、アプリの使い方はもちろんダウンロードやアップデートの方法、プッシュ通知の設定方法や機種変更した場合の設定方法などにもていねいに回答しており、そのうえで電話対応窓口としてベイシアポイントカスタマーセンターを設けている。食品スーパーであるベイシアの場合、他の「MGRe」導入企業よりも想定ユーザーの年齢層が高くなるということもあって、こうした部分を手厚くしている。

スーパーマーケットのアプリ導入で大切なこと

 スーパーマーケットでのアプリ導入は各社進んでいる。20年12月導入のベイシアは明らかに後発組だが、このミニセミナーでは後発ならではのアプリ導入のポイントを聴衆目線で語っており、小売業界に関わる誰しもが思わず立ち止まって聞き入ってしまうような内容だった。

 ミニセミナーで語られた内容で、とくに興味をもった点を簡単に紹介しておこう。

 スーパーマーケットがアプリを制作・運営していくうえで重要なポイントとして3つをあげている。まず「本当にアプリは必要なのか、真剣に考えること」だ。簡単に導入できるものであってもそれなりのコストはかかるし、いったん始めてしまうとやめられない。やめると、「この会社、終わってしまったのではないか」と思われる。だからこそ社内でよく検討するべきだ。「何のためにやるのか」「顧客体験をどのように変えたいのか」といった道しるべも必要と語っている。

 これからアプリ導入を考えている企業はスーパーマーケット業界での後発組になるのだから、「同質化」と「差別化」を意識するべきだ。他社アプリが標準搭載している機能(たとえば電子チラシ、クーポン発行など)は最低限用意する必要がある(同質化)。

 アプリ開発企業はよく「他のスーパーマーケットではこういうことをやっているから、御社ではこちらをやりませんか」という提案をしてくるが、同質化よりも先に差別化を進めていくのは得策ではない。ベイシアアプリの場合「会員割引」「ポイント」「店舗の案内」といった同質化を先に進め、差別化については「会計時にアプリの会員証を通すだけで、割引も特別ポイントもすべての特典が受けられる。クーポン画面をいちいち表示させる必要もない」といった点に絞りこんだという。

 次に「社内の体制」だ。やりきる体制をどうやってつくるか。立ち上げの体制はつくることはできても、運用していく体制を維持するのにはパワーがかかる。

 パートやアルバイトが多くを占める店舗スタッフの中には、スマホでアプリを使っていない人も少なくない。そうした人たちが顧客に対し「ベイシアアプリをお持ちですか」「(アプリは)プラスチックカードよりもお得ですよ」と、何度も何度も声をかけていかなければ、アプリの利用者は増えていかない。しかし、それを徹底すれば必ず効果はあがるという。

 一般にスーパーマーケットでの会計時にアプリの会員証を提示する割合は「100人いれば40人くらい」と言われているが、現在、ベイシアでは60人以上がアプリを提示するようになっている。

 最後が「信頼できるパートナーを探すこと」だ。

 大手ベンダーはいろいろなことに対応してくれるが、その分コストもかかる。コストを抑えるにはアプリ専門の事業者に頼むことになるが、基幹システムやECなどとの連携もあるためどうしてもマルチベンダーになる。そこで重要になるのが、スーパーマーケット企業である自分たちにとってのワンチームをつくることだという。

 アプリのベンダーはアプリのプロだが、スーパーマーケット企業側の話になると腰が引けることもある。その際に「(彼らは)専門外だから仕方がない」とは思わずに、「ワンチームなのだから、こちら(スーパーマーケット側)の事情も勉強して、いっしょに知恵を出してくれ」と言えることが重要。もちろん、一方的にベンダーに押し付けるということではない。